秋の日 〜そのあとの二人


!ご注意!
オフ発行の「秋の日」の補完話になります。
未読でも問題はありませんが読んでいただいてからの方が話が分かるかなと思います。
不親切設計ですみません。



「……えっと、ですね」
「待ったはなしです」
「いや、待ったっていう権利くらいあるよな?!」
「ありません」

確かにこの男に会いたいと思ってこの土地に来てみたものの、まさか本当に会えるとは思っていなかったし、さらにこんな急展開は全く考えていなかった。大体において再会出来たこと自体が一種の奇跡なのだ。
綱吉の超直感はやっぱりなかなかに侮れないと自分のことながらに関心してしまう。

「あのね、骸さん。人間心の準備って言うもんが必要でして」
「十年間も準備し続けた僕の身にもなってください」
「オマエは十年間考えてたのかもしれないけど、オレが考えてるのはたった数時間なんだからな!」
「じゃあ今すぐ覚悟を決めてください」

綱吉の記憶の中の骸は十年前の姿で止まっている。
姿形こそ十四歳の時に十年後に飛んだ際に見て知っているけれど、それでもやっぱり綱吉の中で骸は十年前の姿が正しい骸であり続けている。
だから今目の前にいる骸は全く違う生き物だ。
ただでさえ高かった骸の身長はさらに伸びてしまっていて、綱吉との差は全く縮まっていない。
身長も、手足も、髪の毛も伸びた骸は言いたくはないが見目麗しいという言葉がぴたりと当てはまる。相変わらず呪いのような童顔をキープし続けている綱吉としては面白くないことこの上ない。

「いや、やっぱり、ほら、物事には順序ってものがあるだろ?」
「二十四歳にもなって何言ってるんですか?」
「だって!」

明らかに切羽詰まって余裕のない表情を浮かべた骸が「もういいです。僕は勝手に進めますから君も勝手に覚悟とやらを決めてください」と「それ女に言ったら一発で捨てられるぞ?」というような極悪非道な言葉を吐き捨ててベッドの上に綱吉を押し倒した。
そもそも家に連れ込まれて、ベッドの上に座ってしまっているあたり綱吉としてもその気がない訳ではない。ただ、単純にこの流れ的に確実に綱吉が受け入れる側にならなければならないという事実を認めたくなくて覚悟を決めきれずにうだうだとしているだけなのだ。

「大体……男とはさすがにしたことはないにしても女くらい抱いてるんでしょ? ボンゴレのボスともなれば入れ食い状態ですよね」
「死ねっ」

流されてやってもいいかなと思った綱吉は、骸の言葉でぷつんと切れて足を自分側に一度引き寄せてから骸に向かって突き出す。綱吉の足は骸の鳩尾にぴたりと収まった。

「くっ」
「あのさ! なんかオマエ、イメージ変わってないか?!」
「……人間抑制が過ぎるとこうもなりますよ。ストイック過ぎると反動が出るんです。君の考えは分かりましたので、正攻法でいかせていただきます」

盛大に顔をしかめた骸はやっぱり切羽詰まった表情を崩すことなく今度はベッドの上で居住まいを正して、正座した。自分の上から骸が避けた隙に体を起こした綱吉が骸と相対する。

「……何?」
「あとからいくらでも苦情はお聞きします。なので今は黙って僕に抱かれてください」
「……」

真顔で言い切った骸はそのまま土下座をしたので綱吉は黙って口を閉ざすしか出来ない。
やはり綱吉の知っている骸とこの骸はどこか違う。
自分の本心は上手に上手に隠してけっして見せなかった骸とは思えないくらいにストレートに欲望に忠実に行動しているこの男は果たして本当に骸なのだろうかと疑問が湧いてくる。

「えっと、本当に、六道骸さん?」
「君の目には僕が何に見えてるんですか?」
「いや、骸ってもっと格好良かった気がするんだけど……そんなにオレとしたいの?」
「したいです」

やっぱりあまりにもストレートに物事を言い過ぎる骸に綱吉は目を見張った。

「……やっぱりオレの知ってる骸ってもっと格好良いし、なんていうかストイックだったと思うんだけど」
「あの頃は若かったですからね。格好付けて虚勢を張ってたんですよ。いつでもいっぱいいっぱいだった癖に。今思えば君の意志なんて尊重せずに欲望に忠実に既成事実の一つでも作って君を陥落しておけばよかったんだと後悔してますよ」

「こわっ」
「だって君、あの状況で一線越えてたら絶対に僕に落ちてましたよね?」

無表情で差し迫ってくる骸が少しばかり恐ろしくなってきた綱吉はじりっと体を心持ち後ろへと下げ、骸との距離をとった。

「あの頃の僕は紳士でした」
「お願いだから今も紳士でいて」
「無理です」

それでも綱吉ははっと気がついてしまう。どんなに言葉で迫ってきても骸は強引に次の段階に進もうとはしない。一応、ぎりぎりの状態で綱吉からの合意を待っている。

「あのね。十年間恋焦がれた人間が目の前に無防備な姿でいて、さらに思いが通じてってなったら次にやりたいことなんて分かりますよね? 同じ男なんですから」
「同じ男だからこそ尻の穴につっこまれる覚悟が出来てないだけなんだけど!」
「じゃあとりあえずつっこまないってことにしといてあげますから、試してみましょうよ」
「とりあえずってなんだよ」

言いながらなぜか泣きそうな表情に骸がなるので綱吉はため息をついて、

「あー……わかった。どうぞ」

そう言って両手を広げて苦笑してみせた。



     *



「んっ、ん、おまっ、しつこいっ」

あんなに差し迫った表情をしていた男は綱吉から了承を得た途端に豹変した。
綱吉を押し倒して、あっという間に衣類を全部剥いで素っ裸にしたあとはひたすら綱吉の体中の至る所に唇を這わせ続けている。
じっくり、ゆっくり、丁寧に。
骸の中のどこにこんな優しさがあったんだろうというくらいに優しく、それこそ壊れやすい大切な物に触れるかのように骸は綱吉に触れている。
もう骸に触れられていないところなんて綱吉の身体には存在しないんじゃないかと思われるくらい長い時間をかけて綱吉の体中至る所にキスをしているので、さすがにそんな甘過ぎる愛撫に綱吉の方が耐えきれなくなってきてしまった。
決定的な刺激に届かない愛撫は生き地獄に近い。
男なら俗物的に射精して楽になってしまいたくなるのにそれが叶えられないのは相当、きつい。
そして骸は今もせっせと綱吉の後孔を舌で解しているからたまらない。
さすがにここに舌を這わされた瞬間に、足をばたつかせて大暴れして嫌だと全身で伝えたが骸はまったくへこたれなかった。

「だってここ使うんですから」

つっこまないって言ったのはどこの誰だよ! という綱吉の心の叫びは後孔にねじ込まれた舌の感触に「ああっ」とこっぱずかしい声をあげることでかき消されてしまった。

「君、あれですね。素質あるんじゃないですか?」
「最低だっ!」

確かに変な声をあげて全面的に骸に身を委ねてしまっているという自覚はあるが、だからと言ってこんな言われ方をするのは心外だった。

「一応確認だけしておきますが、こちらを使った経験はない、ですよね?」
「あってたまるかっ!」
「ならば結構です」

男の癖に尻の穴を舐められて声を上げている綱吉も悪いが、こんな質問をしてくる骸も悪い。

「もう、やだっ。とりあえずやめろよっ」
「なんでやめなきゃいけないんですか」
「オマエが失礼だからだよ」
「だって最重要事項じゃないですか。十年前にこっそりと君の中に仕込んだ爆弾が今ようやく結実したというのに、実はその間に他の男につまみ食いなんてされてたらたまったもんじゃありませんよ」

こんな普通の口調で会話をしながら骸は綱吉の後孔を解し続けている。既にだいぶ緩んできているそこに調子に乗って指も一本突っ込んできたのだから綱吉としてはたまったもんじゃなかった。

「無理無理無理っ」
「いえ、大丈夫です。だって入ってますもん」
「入ってるんじゃなくて入れてるんだろ!」
「そうとも言いますね」

舌と指一本が後孔に無理矢理ねじ込まれる感覚。聞こえるはずのないめりめりという音が綱吉の耳に聞こえてくるような気がした。
体内から体外へと押し出す際に広がる仕組みを持ったそこは逆の動きにはめっぽう弱い。基本的にそういう動きをするようには出来ていないのだ。

「これ以上は絶対無理だからっ」
「二本目いってみましょうね」

綱吉の必死の訴えを完全に無視した骸が二本目の指を後孔に侵入させてくる。括約筋が最大限まで広がって、そこが綱吉に限界を知らせる。

「痛っ、ほんと、むりっ。オマエのなんてはいらないっ」
「君も男ならこの辛さ、分かってくれますよね?」

綱吉が本気で現状回避をしようとしていると気がついたらしい骸が、下腹部から顔を離すとずりずりと上の方へと体を動かして綱吉と対峙する。そして硬く張りつめた男性器を綱吉の太股へとこすりつけてきた。

「僕は十年待ちました」
「じゃああと一年くらい待てるだろ」
「待てません」
「そんくらい待てよ」

綺麗な顔をした男が、情に訴えかけようとしてくる。それを簡単にいなした綱吉は無情にも膝を骸の鳩尾にいれて、大きな体の下から這い出ようとする。
一瞬、突然の綱吉からの攻撃にひるんだ骸は顔を真剣なそれに変えて綱吉の体を改めてベッドへと縫いつける。

「……待てません」

青い目と赤い目がぎらりと光った。



      *



あまりの痛みに綱吉は息をすることを忘れた。
殴られた時も、ナイフで肌を切りつけられた時も、銃弾が腹の肉を掠め取っていった時も、こんな痛みはなかったと断言できるレベルの人生で一番の痛みと今、綱吉は対峙している。

「深呼吸をして」

骸の声で、忘れていた呼吸を脳味噌が思い出して一気に酸素を取り込もうと肺を動かした。肺いっぱいに吸い込まれた酸素がキャパオーバーでこれ以上の空気の摂取を拒絶する。
苦しい。
今度は息が出来なくて、ではなく酸素を取り込みすぎて苦しくなる。

「吐き出して」

骸のガイドに従って広がりきった肺から空気を一気に吐き出した。すると肺の中から酸素が抜けていって、逆に空っぽに近くなったそこが新しい酸素を求めるので、その欲望のままに自然と息を吸い込んだ。

「うん、上手ですね。いい子」

綱吉の呼吸がようやく戻ったことを確認した骸が優しく優しく、言う。
後孔は骸をすっかりと銜えこんで限界以上に広がっているし、荒い呼気に振り回されて激しく伸縮を繰り返す肺も、無理だと綱吉に訴えてかけてくるのにその一方でそれらの宿主である綱吉自身はそれが無理だとは判断せず痛みにじっと耐えている。
綱吉を見下ろす骸の瞳がとても優しいから。

「君の中はとても熱いですよ」
「そう、いうのっ、いらないからっ」
「ですが、事実なので」

骸の言葉で思わず括約筋に力をいれてしまうと、骸から小さな声がもれた。ぎゅうっと皺の寄った骸の顔を綱吉は黙って見上げる。
ぼたりと骸の額から汗が綱吉の顔へと落ちてきた。
(しょっぱい)
期せずして口に入った汗に嫌気は全くわかず、ただの感想として綱吉はそう思う。
しょっぱい。
骸が汗をかいて、快感に耐えて眉根を寄せている。
あの骸が。
綱吉の頭の中で何かがかちりと音を立てて、そして動き出す。

「……動いて、いい、よ」
「急になんですか」
「いや、もう、大丈夫かな、って」

声を出すのも精一杯で文章が途切れ途切れになってしまう。我ながら全然大丈夫そうじゃないよな、と思いながらそれでも綱吉はゆるりと笑って言う。

「うん、大丈夫、もう」
「……全然大丈夫そうじゃないんですが」
「でも、だって、いつまでもこのまま居る方が、辛い、し」

綱吉の言葉に一瞬迷った様子を見せた骸だったが、それでもしっかりと頷いた。

「君がそういうなら遠慮はしません」
「うん、いいよ」
「では、遠慮なく」

すぐ真上にある骸の顔が怪しく微笑み、肉食獣を思わせる仕種で舌なめずりすると同時に骸がそれまで止めていた腰の律動を突如始める。最初は大きく緩やかに、そこから徐々に小刻みにスピードを上げていく。
広がりっぱなしの後孔が摩擦熱で熱くなるが、もう感覚が麻痺していて綱吉にとってはそれすらどうでも良かった。
パンパンッとあまり深く考えたくない音が室内に鳴り響く。

「うっ、あっ、んんぐっ」
「声、抑えなくて良いのに」

耳元で囁いた骸がそのまま耳殻を熱い舌でなぞり、舐める。

「やめっ」

すっかり感覚が麻痺してしまった後孔よりも、直接的に声を注ぎ込まれ舐められた耳の方が綱吉に快感をダイレクトに伝えてくる。

「やっ、それ、やだあっ」
「さっきよりきつくなってますけど?」

表情は見えなくても骸がにやついているのが分かる。畜生、と綱吉は思うけれどまだかろうじて自我を保っている思考とは裏腹に身体は言う事を聞いてくれないので骸の動きに合わせて揺さ振られ続けて反撃の一つも出来やしない。
下の感覚はもうないと思っていた綱吉だが、骸の性器がある一点を掠めた時に「あああっ」と大きな声をあげて二人の腹の間にぼたりと粘度の高い煮詰まった液体を落とした。

「……なるほど」

綱吉の反応に今掠めた部分が何であるかを把握した骸が嬉しそうに呟いてそこだけをわざと攻め始めた。

「やっ、やだっ、ほんとにやめろって!!」

痛いだけで気持ち良さなんて感じなかったはずなのに、一転して綱吉の中に生まれたほんの少しの快楽が徐々に頭の中を支配していく。
痛いけど、だけど、気持ち良い。
腹の中に沸々とむず痒さに似た何かが生まれて、綱吉の中でぐるぐると燻る。痛みで真っ白になっていた頭が、少しずつそれだけではない感覚で真っ白になっていく。
要領を得た骸は、緩急をつけて綱吉の前立腺を突いたり掠めたりわざと触れずにいたりと翻弄する。

「やだ、やだ、やだっ」

もはや自分の中にあるのが痛みなのか快感なのか判別が突かなくなってきている綱吉はただ子供のように上擦る声で「嫌だ」と叫び、涙をこぼして首を振る。

「これが、ボンゴレのボス、ねえ」

うっとりとした骸の声をどこか遠く感じながら、綱吉は必死に骸に縋り付いた。
綱吉を翻弄している張本人だが、今は骸以外に綱吉が頼れる相手は存在していない。
ただきつく抱きついて、このよく分からない熱から解放させてくれと綱吉は骸に懇願した。

「たまりませんねえ」

眼福です、絶景です。
冷静な頭で聞いていたら殴り飛ばして蹴り飛ばしているだろう言葉を吐き出した骸は「そこまでいうなら、叶えてあげますよ」と囁いた。



      *



もう一ミリたりとも身体を動かしたくない。
全身に漂う倦怠感に綱吉はただ黙って従っていた。

「水飲みますか?」

心なしかすっきりと弾んでいる骸を目だけを動かして視界の片隅に捉えて「動けない」とだけ呟いた。

「じゃあ飲ませて差し上げますね」

やっぱり嬉しそうな骸はそう言うと、続いてごくごくと音がして、綱吉の唇が塞がれた。
舌で唇をこじ開けられるとその隙間から温い水が少しずつ入り込んでくるのでそれを舐めるようにして喉に流し込む。
焦れるような緩やかなスピードでようやく一口分を移した骸が満足そうに離れていくのを、やっぱり綱吉は目だけで追いかける。

「もうやだ。最悪だ。動けない」
「それだけ喋られれば平気ですよ」
「もうオマエとはしばらくしない」
「……明日の昼くらいにここ出れば間に合いますよね? まだまだ時間はたっぷりとありますよ」
「人の話聞いてたのかな?!」

やはり骸の性格は綱吉が知っているものとだいぶ違うように思えてならない。
こんなに率直にものを言う人間だったろうか? と疑問が頭の中を駆け巡るが十年という月日がそうさせているのかもしれない。

「改めてお誕生日おめでとうございます」
「……プレゼント貰わずに貰われちゃったけどな!」
「希代の霧の守護者が前線復帰とかかなりのプレゼントだと思いますが」
「自分で言うかなあ!」

確かに戦力として骸が自陣営に戻って来てくれるのはありがたいが、この半日程度でそれが果たして正解なのかという別の疑問が浮き彫りになってしまった気がする。

「僕は役に立つ男ですよ?」
「あー、はいはい。そうですね」
「好きですよ、綱吉」
「あーはいはい。オレも好きですよ」

骸の顔が近付いてきたので綱吉はキスを甘んじて受け入れるために目をつぶった。




Buon Compleanno!!


オフ本の補完的つな誕
(2012/10/14)