ハロウィンの奇跡・補完


「dolcetto o scherzetto」 悪戯はなぁに?
後日談 綱吉と奈々

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「ただいまぁっ」
「朝帰りとは中学生の癖にいい度胸してるじゃねーか」

帰宅した綱吉を迎い入れたリボーンは責める口調とは裏腹に表情をにやけさせた。
その表情に「誰のせいだよ!」と怒鳴り返したくなるが、リボーンに逆らうという選択肢のない綱吉は黙って俯く。

「あぁ悪かったな!風呂はいる!」
「朝帰りで風呂か」
「赤ん坊の癖にそんな表情すんなよ!」

ニヤニヤ笑いを止めないリボーンの横をすり抜けて綱吉は一直線に浴室へと向かった。

「その服どうしたんだ?」
「……骸に借りた」
「どうりで大きいはずだな」
「悪かったな」
「ママンはまだ起きてないぞ、良かったな」

バタン

背後から掛けられるリボーンの声から逃れるように綱吉は強めに脱衣所のドアを閉めた。
色々と鋭い突っ込みが入り綱吉は居たたまれない気持ちになる。
それもこれも、全て骸がいけない。

「あいつ……本当に意味わかんないよなっ」

ぶつぶつ呟きながら借りた、指の先からお尻まで丸々と隠れてしまう大きめのパーカーを脱ぐ。
フワッと骸の匂いがして、うっと綱吉は思わず顔を赤くした。

「うー……なんだよ、これ」

一瞬指を止め、今度はその下に着ていたこれまた借り物の迷彩柄のTシャツを脱ぐ。
そうして、洗面台に映った貧弱な自分の身体を見て、そこに骸の施した悪戯の後を見て……ため息をついた。

「あいつ意外と子供っぽいよなぁ」

綱吉の白くて薄っぺらい腹には所狭しと黒マジックで色々と悪戯書きがされていた。




数時間前。
ベッドの上で骸に押し倒された綱吉はこれから何をされるのかと身体の全機能を止め、硬直していた。
骸が右手を空中でゆったりと動かしたのを見て、骸の武器である三叉槍が出てくるものと思いぎゅっと目を瞑る。

「く、くすぐったい……!」

身を硬めてから数秒後、腹に何か冷たいモノが押しつけられたかと思うとそのままきゅっきゅっと音がする。
冷たさと我慢ならない奇妙な感触に綱吉が思わず目を開けると、すぐ側に自分の腹を見つめる骸の顔があり、至って真剣な表情で。

「何してるんだよ……」
「悪戯書きです」

黒マジックを握り締めた骸は、綱吉の腹をキャンバス替わりに何やら一心不乱に書いて居る。
チラッと見ると、幼い罵り言葉だったり(言葉は幼いが悔しいくらいに達筆だ)、へたくそな絵だったり(骸は絵心がないらしい、と綱吉は自分を棚にあげて思った)、思いつく端から書いているといった様子だ。

「困るんだけど!」
「困らせてるんです」

あぁこいつの怒りに触れちゃったのかなぁと諦めの良い綱吉はため息一つで抵抗をする事を放棄した。




一通り悪戯書きが終わると落ち着いたのか、素直に綱吉を解放した骸はそのまま自分の棚から洋服一式と、同居している仲間にいつの間にか買わせに行っていたらしい下着一式と、どうしてもサイズが合わなかったためサンダルを貸してくれた。
それをそそくさと身につけるとお互い気まずい空気が流れたため、挨拶もそこそこに綱吉は黒曜ヘルシーランドを後にし一路自宅へと帰宅した。

「うぅ……これ落ちるのかよぉ」

浴室のドアを抜けながら正面の鏡に映る自分を見て、再度ため息をつく。
腹が真っ黒だ。

「……?」

その中において一つだけアルファベットの綴りが見え、綱吉はマジマジとその部分を鏡に映す。

Questo e` il mio.

「くえすとえいるみお……?」

読めない。
あっという間に興味をなくした綱吉はそのままシャワーの蛇口を捻った。




「まさか水性だったとはなー…よかった!」

油性だとばかり思っていた悪戯書きは水性だったらしくまだ若干残ってはいるものの、思いの外綺麗に落ちて綱吉は安堵のため息をついた。
髪の毛をタオルでごしごしと拭きながら綱吉は自室に戻る。
愛銃の手入れをしているリボーンを見て、先ほど目にした恐らくイタリア語であろう単語の意味を聞こうと急に思い立った。

「なぁリボーン。くえすとえいるみおって何?」
「くえすと……あぁもしかして『Questo e` il mio.』か?」
「あ、そんな感じ?」
「どうした、骸にでもいわれたか?」
「え?なんで分かったの?」

きょとんと綱吉が言い返すとリボーンはぎょっと目を見開いた。
ついにあいつも腹を括ったのか、などとぶつぶつ呟く。

「リボーン」
「イタリア語勉強しやがれ……っていいたいところだが面白いから教えてやるよ。『This is mine.』これくらいの英語、分かるだろ?」
「これは……」
「まさかmineもわからねーのか?」
「ま、まさかぁ」

ははははは、と笑いながらあとで辞書を引こうと綱吉は思った。

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「ツーくん」
「何?」

階下から自分を呼ぶ母親の声が聞こえ、綱吉は素直に返事をしながら台所に顔を出す。
冷蔵庫に買ってきた荷物を詰めていた奈々が顔を上げ、にっこりと微笑む。

「さっき商店街に行ったらね、たまたま会った写真屋の店主さんからツーくんに似ている子にこの間会ったよって教えられたの」
「ふ、ふーん、そうなんだ」
「でね、写真を見せてもらったら本当にツーくんの小さい頃にそっくりだったのよ!」

中学生の息子がいるとは到底思えない程若く可愛らしい雰囲気の奈々は、ころころと鈴を転がすように笑う。
そんな母親の笑顔とは反対に身に覚えがありまくる綱吉は背中に冷や汗をかく。

「お母さんがあまりにも興奮し過ぎちゃったせいか、何枚かプリントアウトしてくださったのよ」
「はっ!?」
「今ってパソコン?であんなに簡単に印刷出来ちゃうのね」

そう言いながら奈々はテーブルの上を指さした。

「そこにあるから見てみて」
「う、うん」

恐る恐る数枚のプリントアウトされた紙を手に取ると、意を決して綱吉はそれを見て、思わず息を飲んだ。

「母さん…これ、1枚もらってもいい?」
「あら、どうしたの?いいわよ」
「うん、ちょっとね。ありがと」

特に綱吉の言葉を追求する訳でもなく奈々は笑う。
そんな奈々に曖昧に笑い返した綱吉はそっと手元に残した1枚を覗きみた。
そこには4歳の自分と優しい表情をした骸が写っている。
知らない人がみたら顔の似ていない仲の良い兄弟に見えるかもしれない1枚だ。

「ねえ母さん、一つ聞いてもいい?」
「なあに?」
「オレって小さい頃結構はっきりなんでも言う子だったの?」
「うーんそうねぇ……その子くらいの時はそうだったかもしれないわねぇ」

そこで言葉を切った奈々は昔を思い出したのか懐かしそうな表情になり、くすくすと笑った。

「そういえば、ツーくんは幼稚園に入るまでは元気な子だったのに、幼稚園入った後に人見知りが来て急にお母さんの後ろに隠れる子になっちゃったのよねぇ」

苦労した当時を思い出したのか笑いが止らなくなった奈々に気恥ずかしくなった綱吉はお礼を言うと、足早に自室に戻った。
もう一度手の中にある写真を見ると、静かに頷いて大事そうに机の中に、仕舞った。

(2010/11/05)
慌ててはしょった辺りの補完でした。骸編も余力があったら追加したいな!