密室スナイパー


たいていの事では驚かない骸だが、そんな彼でも今自分に向かって吐き出された言葉に眉を顰めた。

「……君、正気ですか?」
「うん、まぁオレはいつでも正気だよ」
「僕にそんな事頼むなんて正気の沙汰とは言えませんよ、君」

まぁ面白ければ別に僕はなんでもいいですけど、と少しだけ冷静さを取り戻した骸はニヤッと笑いながら言う。

「その代わり報酬はちゃんといただきますよ?」
「きちんと依頼通りの働きしてくれたらな」

二人の密約は成立した。


***


カコン

純和風の庭園を眺めながら雲雀はお茶を啜る。
草壁の煎れるお茶が一番美味しいな、と思いながらもう一口啜った雲雀はそっと欠伸を咬み殺した。
そして目の前にきちんと綺麗に和服を着てちょこんと座る清楚な女性を改めて見やった。
綺麗にまとめあげた栗色の髪の毛と、それと同じ茶色の大きな瞳を持った小柄な女性。
雲雀の不躾な視線を感じたのか、そっと俯いていた視線をあげ雲雀を見返す。
視線が合った瞬間、頬をさっと朱色に染め瞳を伏せてしまう。
そしておずおずと小さな口から鈴のような声で言葉を紡ぎ出した。

「なんとお呼びすれば…?」
「勝手に呼べばいい」
「では、恭弥さん、と」

恥ずかしそうな声を聞いた瞬間雲雀の腕に鳥肌が立った。
しかしもう少し付き合おう、と雲雀にしては最大の譲歩の気持ちでぐっと我慢し踏みとどまる。

「恭弥さんは、ご趣味は?」
「それを聞いて何か意味があるの?」
「えぇ。これから長くお付き合いするかもしれない方ですので」
「………」

今度こそ雲雀の全身に鳥肌が立つ。
もう充分茶番に付き合った、と無言で立ち上がり目の前で恥ずかしそうに俯く女性を見下ろした。

「……ねぇ、何やってるの?」
「何がですか?」

大きな瞳で雲雀を見上げながら可憐な女性が首をコクンと傾けた。
その仕草に雲雀はイラッとする。

「いい加減にしなよ。……そこにアレがいるのは分かってるんだよ。早く出て来なよ」
「……なんの事ですか?」

あくまでしらを切り通そうとする目の前の人物に雲雀はギリッと歯ぎしりをする。
可憐そうに見えるその人は雲雀のそんな態度にも動じる事は無く真っ直ぐと見つめてくる。

「この部屋いっぱいに僕の大嫌いな南国果実の匂いがするんだけど」 「南国果実、ですか?」
「……そろそろヘタな演技は辞めたらどうだい……綱吉」

綱吉、と言いながら雲雀はため息をついた。
彼にしては珍しい脱力しきった、諦めた表情だ。

「あれ?ばれちゃいましたか?」

ばれちゃいましたか?と言いながら立ち上がった人物はいつの間にかスーツを着用した男の姿に取って変わる。

「…僕が分からないとでも思ってるのかい?」
「骸の幻覚もまだまだって事かぁ」
「……人のせいにしないでいただけますか?」

姿の見えない声がどこからか聞こえてくる。
その声に雲雀が眉を顰める。

「雲雀くん、そんな怖い顔しないでくださいよ。沢田綱吉、僕はこれで失礼します」
「ちょ、ずるいぞ!骸待てよ!」
「……痴話喧嘩に僕を巻き込むのは大概にしてください」

それでは、と言う言葉を残して骸の気配が一気に霧散する。
すっかり骸がいなくなった事に綱吉は「裏切り者め」と舌打ちをした。
そして目の前でイライラした表情で佇む雲雀の事を思い出し、ぎくりと固まった。

「えーっと、ヒバリさん」
「一体何の真似?」
「えーっと……」

どうにか逃げ道を探そうと綱吉は視線を漂わせるが唯一仲間になってくれると思っていた骸が消えた今、綱吉を援護してくれる人物はどこにもいなかった。
存在するのは目の前で仁王立ちする雲雀だけだ。
綱吉は罰が悪そうに雲雀から視線を逸らした。

「で?」
「えーーーーっとですね」
「何?」

神経質そうに腕を組みトントンと指で自分の腕をリズミカルに叩き続ける雲雀の威圧に綱吉は負け、口を開いた。

「ヒバリさんがお見合いをするとリボーンから聞きまして…」
「赤ん坊から紹介されたから、断れなくてね」
「リボーン…っ!」
「で?」
「……非常に面白くなかったので」
「なかったので?」
「ぶっ壊しにきました」

あはは、と開き直って笑い綱吉の頭をぽんっと雲雀は小突く。

「で、本当に今日ここに来る予定だった人は?」
「口から産まれた様な顔の良い詐欺師のような術師さんにちょいちょいっと」
「……」

はぁぁぁ、と雲雀は彼にしては珍しい大げさなため息を吐き出した。

「あのね、綱吉」
「はい」
「僕が君以外に興味があると思うの?」
「……ない、です」
「分かってるのに君は何やってるの?」
「……だって、面白くないじゃないですか」

雲雀さんがオレ以外の人とお食事してお話するなんてー。

女の嫉妬のような事を綱吉はサラッと言う。
思わず雲雀はこめかみを押さえた。

「それなら。君の方がよっぽど僕以外の人間と食事したりしてるじゃないか」
「それはただの接待です!」
「僕のもそれだよ」
「接待とお見合いは違います!」

イーッと子供っぽい仕草で雲雀に対抗してくる綱吉の頭を先ほどより強い力で雲雀が小突く。

「何するんですか!」
「それはこっちの台詞だよ。いい年した大人が恥ずかしくないの?」
「ぜーんぜん」
「……じゃあ言い方を変えようか」
「はい?」

突如がらりと雰囲気を変えた雲雀が綱吉の胸ぐらを掴み引き寄せ、耳元で囁いた。

「僕の知らない所で、アレと会うな」
「アレ?」
「六道骸」
「え。それって嫉妬ですか!?」

雲雀の思いが全く通じず、パーッと表情を明るくした綱吉の頭を雲雀は再度小突いた。



どうやら骸と連むと雲雀が嫉妬してくれる、と勘違いした綱吉はたびたび骸を巻き込んで騒動を起こすようになってしまい、雲雀はその度に大きなため息をつくのだった。

(2010/09/06)
お見合い邪魔する綱吉が書きたかったのにいつの間にか入れ替わってる話に……