青い体験


六道骸は困っていた。
せっかくの誕生日に意を決して可愛い恋人を文字通りプレゼントとして貰ったのに極度の興奮と緊張により最後の最後でヘマをした。
つまり挿入を果たす前に自分が果ててしまい、その後はなし崩し的になかった事となってしまい……つまりは愛しい最愛の恋人とは未遂に終わり、未だに最後まで至っていないのである。
これはゆゆしき事態だ、と骸は頭を抱えていた。
一度チャンスを逃すと、次のチャンスがなかなか訪れない。
チャンスの神様には後ろ髪がない、とは昔の人間は上手い例えをするものだ、と骸はある種の尊敬の念と多くの逆恨みの念を抱きながら数ヶ月を過ごしていたが、チャンスは思わぬ角度から、突然沸いてきた。

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「夏休みももう終わるね」
「そうですね」

夏休みの間通っていたせいで、すっかりと勝手知ったる他人の家となった沢田家の綱吉の部屋でくつろいでいた骸に綱吉はふと思い出したかのように言った。
それに対し骸はそうですね、と肯定すると頷いた。

「しかし……君がきちんと宿題を計画的に進めるタイプだったとは驚きましたよ」
「あー……まぁオレの意志がどうのこうのじゃなくて命がかかってる切実問題だからやらざる得ないというか……」
「31日に一緒に徹夜でお手伝いすることを覚悟してたんですが、さすがアルコバレーノと言った所でしょうか」
「まぁリボーンのおかげではあるよね」

苦笑いしながら綱吉は言う。
そして今思いついたかのように言葉を繋げた。

「夏休みが終わったら今みたいに毎日一緒にいられなくなっちゃうし、オレの宿題ももうほぼほぼ終わってるしさ」
「なんですか?」
「骸さえよければ……二人でどっか行かない?」
「え?」
「いや!骸が嫌だったら全然忘れてもらって構わないんだけど!!」
「今、なんて」
「忘れて!オレ、変な事言ったけど忘れて!!」
「綱吉くん」

慌てて首を左右に大きく振って忘れてと騒ぐ綱吉の言葉を骸は遮った。

「それは、二人で、誰の邪魔も受けない状態で……二人きりで出掛けたいという意味で受け取っても?」
「……はい。そうです」
「夏休みの間に、という事は……例えば泊まりで出掛けるというのも考慮されてますか?」
「………はい。思ってました」

綱吉の言葉に骸は驚き、そして破願した。

「綱吉くん!」
「は、はい」
「新学期が始まる前に、二人で、出掛けましょう」
「あ、いいの?」
「いけない理由がありません」

そうと決めたら計画を立てないといけませんね、行きたい場所はありますか?矢継ぎ早に骸から言葉が吐き出され続ける。
日本の若者なら誰もが行きたがるねずみの着ぐるみが支配する一大娯楽施設や、内風呂付きの温泉、夜景が綺麗な高層ホテルのスイートルームなど骸の頭の中に色々な候補が浮かんでは消える。
そんな骸の考えを全否定するように、お伺いを立てるような口調でありながらきっぱりとした意志を持って綱吉が自分の意見を述べた。

「オレ、行きたい場所があるんだけど」
「どこですか?」
「……黒曜ランド」
「え?」
「骸たちの家に行きたい」

綱吉が口にした場所は骸にとって意外以外の何でもなかった。

「本当にそんなところでいいのですか?」
「うん。あそこに行きたい」

強く頷く綱吉の意見を否定する理由がない骸は「わかりました」と頷いた。

********

「綺麗な場所ではありませんが、どうぞ」

約束通り綱吉を自分の住処に招いた骸は、若干緊張した面もちでそう言いながら人を滅多に入れない自室の扉を開いた。

「ありがとう」

にっこりと嬉しそうに笑いながら綱吉はお礼を言い、骸のプライベートスペースへと足を踏み入れる。

「意外と綺麗なんだ……」
「まぁ…生活する場所ですし、ぼろくても清潔感だけは保つように気をつけてますからね」
「へぇ…骸らしいね」

キョロキョロと興味深そうに周囲を見回す綱吉にソファを勧めながら、飲み物の希望を聞いた。
「ファンタ」と骸の予想通りの炭酸飲料の名前を綱吉が希望するのを聞きながら骸は頷き、室内にある冷蔵庫を開け用意してあったペットボトルと自分用のミネラルウォーターを手にすると、ソファに戻りローテーブルに置く。
そして綱吉の真横に腰を下ろした。
想像以上に距離が近かったせいかびくっと綱吉が肩を振るわせる。

「……どうしましたか?」
「ううん。意外と近くてびっくりしただけ」

勢いよくぷるぷると首を左右に振った綱吉は「もらうね」と一言呟き目の前に置かれたペットボトルへと手を伸ばしプシュッとキャップを外しゴクリと喉を振るわせ液体を嚥下した。
何気ないそんな仕草に骸は目を奪われる。

「……骸?」

不自然なまでに自分を見つめる骸を不思議に思った綱吉がペットボトルのキャップを閉めながら骸の名前を呼ぶ。
先ほどと立場が逆転し、骸が「いいえ、なんでもありません」と軽く首を振り否定した。
不自然な沈黙が二人の間に訪れる。
恐る恐るお互いに探るように視線を横に流した所で、ばちっと視線が合ってしまい不自然にそらした。
再度、微妙な沈黙が訪れる。
その空気に耐えきれなくなり口を開いたのは綱吉の方だった。

「骸……」
「なんですか?」
「骸ってさ……オレのこと本当に好きなの?」
「えぇもちろんで……はいぃ!?」

さらっと訪ねられた綱吉の言葉に骸は頷きかけ、驚きの声をあげた。

「え、なんでそこで驚くの!?」
「綱吉くんこそなんでそんなこと聞くんですか!?」
「なんでって!だって!…………だから」
「はい?」

顔を真っ赤にし、綱吉はもごもごと何事かを呟くがあまりにも小声のため骸の耳にはその言葉が届かない。

「だから…………なんだもん」
「もう少し大きい声でおっしゃってくださいませんか?」

真顔で言い返した骸を綱吉はギッと睨んだ。
睨まれる理由が分からない骸はきょとんとしながら首を傾げる。

「綱吉くん?」
「あー!もう!だってさ!骸、あれから……き、キスもしてこないから……やっぱり男のオレじゃ嫌だったのかな、やっぱり女の子がいいのかなって」

不安だったんだよ!と言い切った後綱吉は華奢な体をいっそう縮め込ませて所在なさげにソファの上で膝を抱え丸まった。
自分の膝の間に顔を埋め、微動だにしない綱吉を骸は見つめる。
そして頭の中で今言われた言葉を反芻する。

「綱吉くん!」

綱吉の言葉の意味を理解すると名前を叫びながら、ソファの上に正座し綱吉に向かい合う。
わずかに顔を浮かせた綱吉がチラリと骸の様子を窺った。
その顔を強引にのぞき込んだ骸の頬は興奮のためか若干赤らんでいる。

「綱吉くん!抱きしめてもいいですか?」
「き、聞くなよ」
「では遠慮なく」

ぼそっと小声で返された綱吉の言葉に頷くと骸はそのまま華奢な体をすっぽりと長い腕で閉じこめるように囲いぎゅっと抱きしめた。
俯いたままの綱吉の日に焼けていない白い首筋に顔を埋める。

「綱吉くんが大好きです。男だからとか女だからとかじゃなくて、綱吉くんだから、綱吉くんが大好きです」

そのままぼそぼそと言葉を吐き出す。

「この間失敗してしまってちょっと恥ずかしくてなかなか二度目がお願い出来なくて……あの、もう一度抱いてもいいですか?」
「わ、わざわざ聞くなよ!」

白いうなじを赤く染めながら綱吉が怒ったような口調で返す。
骸は綱吉の言葉に嬉しそうに微笑み、耳元に口を寄せる。

「ではリベンジさせてください」

綱吉が自分の声に弱いと知った上で、低めの擦れた声で骸はそう宣言すると丸まったままの綱吉をひょいっと抱き上げる。
「ふへっ!?」突然身体が浮いた事に驚いた綱吉が変な声を出し、顔を上げると綱吉を凝視していた骸の色違いの瞳と視線が合った。
優しい色を浮かべた骸の瞳は綱吉だけを見つめており、その双眸には綱吉だけが映っている。

「やり直しさせてください」

念を押すように言われた言葉に綱吉はコクンと頷いた。

********

「んっ……んっ……」

自分の足の付け根に顔を埋め、小さな口いっぱいに性器を銜え必死に頭を上下させる綱吉を骸は不思議な気持ちで眺めていた。
初めての時と同様に綱吉の前も後ろも丁寧に解きほぐしぐずぐずにして、いよいよ、となった時に綱吉が真剣な面持ちで「オレも、骸の、したい」と申し出た綱吉はそのまま戦場に向かうかのような表情で骸の下半身に顔を埋めた。
「無理はしないでください」という骸の言葉に首を振った綱吉は拙い動作で性器を銜え舐めだした。
決して上手くはない。しかし綱吉がしている、という事実に骸はすぐに限界を迎える。

「つなよしくん……」
「んっ……?」

名前を呼ばれた綱吉が銜えたまま上目遣いで見上げたのが決定打になる。
もう押さえられない、と骸は慌てて叫ぶ。

「綱吉くん、口から出してくださ、い!」

骸の言葉に綱吉は必死で首を振ると促すように両手を動かし、促す様にじゅっと先端を吸い上げた。
その刺激に耐えきれなくなった骸はそのまま綱吉の腔内に吐精する。
血管の浮き出た性器がびくびくと律動するのに合わせ綱吉が最後の一滴まで搾り取るように擦り上げ、吸い上げ続けた。
そしてもう出ないという事を確認すると、ようやく顔をあげる。

「骸、気持ち良かった?」

いつもの子供っぽい雰囲気から一転し、強烈な色気を漂わせた綱吉が骸をじっと見上げながら首を傾げた。
口の端からツーッと飲み込みきれなかった骸の吐き出した精液を一筋垂らすその姿に、萎えたはずの骸の性器が再び首を擡げる。

「あ、」

骸が硬度を取り戻した事に気付いた綱吉はカーッと顔を真っ赤に染めた。
それに釣られるように骸も赤面する。

「……気持ち良かったです」
「よかったぁ」

ニッコリ笑った綱吉に骸の性器は更に硬度を増す。
「もう、我慢出来ません」と呟きながら身を起こすと綱吉を組み敷こうとした所で思わぬ抵抗にあい骸は顔を青くした。

「嫌、ですか?」
「ううん。違う。オレが、するからそのままいて?」

決意するように言った綱吉は身体をそろりと起こし、骸の腰の辺りに移動する。
すっかり勃起した骸の性器に手を添え、解された自分の後孔にそれを当てる。
ゴクリと綱吉が喉を鳴らす。

「綱吉くん、無理は……」
「無理じゃない。……うん、大丈夫」

骸の言葉に決意を固めた綱吉が「大丈夫」と頷く。
自分を鼓舞するように「大丈夫、うん、大丈夫」と呟きながらギュッと目を閉じると一気に腰を下ろした。
指とは全く違う質量を受けた綱吉の後孔はミシッと音を立てる。

「くっ……綱吉くん、力を抜いてください」

はっ、はっと浅い呼吸を繰り返しながら綱吉は「むり…」と首を振る。
直接的に身体に無理を強いている綱吉だけではなく、受け入れられている骸にも当然の様に痛みは走る。
快楽を感じるよりも先に、きつい締め付けに骸は眉をしかめた。

「では…失礼します、ね」

そう言うと骸は自分の腹の上にある綱吉の性器に手を伸ばし、指を這わせた。
痛みですっかり萎えているそれに残る滑りを掌に広げながらゆっくりを擦り上げる。
そうしてもう片方の手は胸の突起へやり、ぷくりと膨らんだそこをつまみ上げた。

「あっ…えっ、やっ……」

綱吉の意識が骸の手に移った事を確認すると、手の動きを早め追い詰める。
先ほどまでのただ苦しそうなだけの呼気の音から、徐々に快楽を伴い上がる呼吸へと変わった事を確信した骸はゆるりと腰を動かす。

「あっ、あっ……」

骸の腰の動きに翻弄されるように綱吉は声を上げ、上半身を支えることが出来なくなったのか骸の胸へと倒れ込んでくる。
快楽だけとはいかないが、そこに苦痛の色は少ない。
にやり、と笑うと両手を綱吉の細腰へと移動させ骸は本格的に腰を律動させだした。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音が部屋に響く。
骸と綱吉、2人分の先走りが骸の下半身をぐちゃぐちゃに濡らす。

「あ、むく、ろ……」
「くっ……」

必死に骸に縋ってくる綱吉を、骸は腰の動きで追い詰める。
ぐいっと大きく動かした所で綱吉の声の質が大きく変わった。

「あーっ!や、そこ、やっ、だめ、むく、だめ、やっ」
「ここ、なんですね」

嫌だ嫌だと首を振りながら骸の胸元に顔を擦りつける綱吉の髪を骸は優しく透く。
余裕がありそうに振る舞っているが、その実骸には全く余裕はなかった。
しかし、初めての時の失敗を考慮してか積極的に動いた綱吉のおかげで存外スムーズに事を進められている事に安堵し、行為を進める。

「綱吉くん、そろそろ」
「オレ、も、もう」

「失礼します」と言うと騎乗位の体勢から挿入したまま器用にぐるりと身体を反転させ、正常位の体勢へと変える。
綱吉の両足を持ち上げると抜けかけた性器を再度しっかりと挿入した。
そうしてから優しいまなざしで綱吉を見下ろすとちゅっと唇を合わせる。

「綱吉くん、愛してます」
「うん、オレも」

「愛してます」と再度唇を合わせたあと、骸は抽出を再開させる。
先ほどまでよりも激しいその動きに綱吉は声にならない声を上げた。
骸の上がる息と、綱吉の高めの声、そして水音がいやらしく空間に響く。

「むくろ、もう、ほんとうに、イく」
「どうぞ」

綱吉の言葉に骸は腰を抜けるぎりぎりまで引くと、先ほど見つけた前立腺に当たるように、深く、強く、性器を押し入れた。
綱吉の内部がびくりと怪しく煽動した直後「あーっ」と声をあげ、綱吉が射精した。
それにあわせてびくんびくんと直腸が律動し、その動きに耐えきれなくなった骸も綱吉の中へと熱い精液を吐き出した。

********

「おはようございます」

綱吉が目を開くと至近距離で自分を見つめていた赤と青の瞳が優しくカーブを描き、低くて甘い声が耳元で響いた。

「あ、おはよう……」
「身体、大丈夫ですか?一応事後処理はさせていただいたのですが…」

心配そうに綱吉の双眸を覗き込みながら、骸が言う。
言われてみれば身体はさっぱりしているし、直接吐き出されたはずの内部にも気持ち悪さはないと綱吉は思う。

「ごめん!オレ、」
「負担が大きいのは綱吉くんですから、全然問題ありません」

労りと愛しさが混ざる不思議な骸の瞳の色に二人の関係が若干変わった事を綱吉は実感する。
やっと。
やっと、身体を重ねられた。
まるで処女を失った少女のような甘ったるい喜びが綱吉の内部に沸き上がり、くすりと笑う。

「どうしたんですか?」

綱吉の心情を知るはずもない骸は不思議そうに首を傾げた。
そんな骸のあどけない表情が嬉しくて、綱吉はいっそう笑う。

「なんか、変な話だけど……やっと本当の恋人になれた気がするなぁ、って」
「綱吉くん?」
「骸がなかなか……その、……手を出してこないから本当は付き合ってる振りをしてるだけでオレの事なんて好きでもなんでもないんじゃないかなぁってちょっと思ってたから」

だから、骸がオレとセックスしてくれて嬉しかった。
照れ笑いを浮かべ恥ずかしそうに呟いた綱吉の身体を骸は思わず抱き寄せる。
そして「好きです。誰よりも好きです。こんな感情は綱吉くんにしか抱いたことありません」と必死に言いつのり、ぎゅーぎゅーと力を込めて小さな身体を両腕に閉じ込める。

「痛い、痛いよ、骸」
「大好きです、愛してます、……ありがとうございます」
「えへへ……2ヶ月遅れちゃったけど、お誕生日おめでとう」

ようやくプレゼント渡せて良かった。

ほにゃっと骸の胸元で隠れて笑った綱吉を、骸はもう一度強く抱きしめた。

(2010/10/04)
(初出:2010/08/26)
企画小説の続き、骸が脱童貞する話を読みたいと言っていただいたので押しつけたのでした