10年越しの


「え、10代目ご存じじゃなかったんですか…?」

有能な右腕の言葉に綱吉の頭の中は真っ白になった。

「今、なんて…?」
「ですから、9日は、骸の誕生日ですよね、と」
「え……」

綱吉は絶句するしかなかった。
そりゃ骸だって人の子だから誕生日があって当然だ。
しかし「六道骸」と「誕生日」という2つがあまりにも合わなため綱吉は失念していた。
―――10年間もの間。ずっと。

「毎年6月9日に骸とお約束されているからてっきり」

獄寺はそれ以上言葉を続けなかったが後に続く言葉は分かりきっている。
てっきり誕生日をお二人でお祝いしているものかと思っていました、というような事だろう。
獄寺の背後で苦笑いしている山本と目が合う。

「もしかして山本も知ってたりした…?」
「なんで知ったのかは忘れたけど…一応知ってたぜ」
「うわぁぁぁぁ!」

どうしよう!まずい!オレ、10年間全く知らなかったし気にもしなかった!!
綱吉は軽い恐慌状態に陥り、心配そうな顔をする獄寺の前を頭を抱えながら右往左往する。

「10代目、10代目、落ち着いてください」
「うわ、かなり、相当、失礼な事してたよね」
「なー、ツナ。骸と毎年何してたんだ?」

山本の言葉に綱吉はピタリと動くのを止めて去年の様子を思い浮かべた。
今年と同じように6月1周目に用件のついでのように「来週辺り食事に行きませんか?美味しい店をみつけたんですよ」と言われ、カレンダーを確認して直近で空いている日―何故か今年も去年も6月9日だった―を伝え、約束をして。

「骸の見つけたっていう美味しい店に連れてって貰って適当に食事して、話して、ワイン飲んで……酔っぱらって部屋に泊めて貰った事もあった、な。そういえば……毎年、骸に奢ってもらってた気が、する」

誕生日の人間に知らなかったとはいえ、奢らせていたという事実に綱吉の血の気は一気に引いた。
失礼なんてもんじゃない。まずい!と叫ぶ。
そんな綱吉を獄寺と山本は複雑そうな表情で見つめていた。

「ツナ。なんで毎年そんなに都合よく6月9日が空いてるかって考えた事あるか?」
「え?」
「10代目…オレはてっきり10代目がスケジュール調整して空けてると思っていたんですが」
「うん」
「どうも……リボーンさんが上手いこと調整して空けていたみたい、なんですよね」
「リボーンが?」
「えぇ」

真っ白だった綱吉の頭の中は疑問符でいっぱいになる。
理由がさっぱり分かりません、という状態の綱吉の頭を山本が大きな掌でポンポンと叩き優しく微笑む。

「ま、今年は分かったんだから祝ってやれば骸も喜ぶんじゃねえの?」
「そ、そうかな…?」
「オレはツナに祝われると嬉しいのな!」

ニカッと笑った山本と複雑そうな笑顔を浮かべる獄寺とを交互に見やりながら綱吉は不安そうに頷いた。


 * * *


「お迎えにあがりましたよ」

綱吉の私室の扉に寄りかかり後ろ手でノックをしながら骸が言う。
その相変わらずの美形っぷりを発揮したモデル然とした立ち姿を綱吉は準備しながら流し見た。

「扉開けてからノックしても意味ない」
「簡単に開いてしまう扉に問題があるのでは?」
「あ、そう。で、今日の店って?」
「えぇ。新しく出来た新進気鋭の料理人の店で、どれをとってもポテンシャルの高い品を出すんですが中でもドルチェが絶品なんです」
「……骸って相変わらず甘い物好きだよなぁ」
「それはお互い様でしょう?用意出来ましたか?」

骸が嫌がるから、という理由で綱吉はいつもの白いスーツを脱ぎ、私服を着ている。
最初にこの奇妙な食事会が始まってからの暗黙の了解だ。
渡伊してから約5年。童顔を舐められないようにと無駄なあがきと分かっていながら綱吉はスーツで武装し、厳つい強面の屈強そうな男達と渡り合ってきていた。
いわばスーツは綱吉がドン・ボンゴレであるための武器の一つであった。
そんなスーツを脱ぐとどうしても「沢田綱吉」が全面に出てしまう。
綱吉はそれを嫌がったが、骸はそれを望んでいた。
相変わらずのマフィア嫌いだな、と綱吉は思い納得していた。

「お待たせ。あ、ちょっと待ってて!」
「はい?忘れ物ですか?」
「ちょっと、ね」

自分の元に一度近づいてきてクルッと背中を向けた綱吉に、一瞬骸は手を伸ばしかけ、その腕をそっと下ろした。
そんな自分の浅はかな行為に自嘲的に笑う。
机に物をとりに行っていただけなのか、すでに綱吉が骸の前に戻ってきておりきょとんと不思議そうな顔をした。

「何か面白い事でもあったの?」
「いえ、なんでもありません。それより忘れ物は持ってきましたか?」
「あ、うん」
「持ち歩くには邪魔そうですね」
「はい、これ」
「はっ?」

綱吉が取りに行った箱をそのまま差し出すのを骸は驚いて見返す。

「今日、骸の誕生日なんだろ?だからプレゼント」
「え、な、なんでそれを」
「水くさいよな…オレだってケチじゃないんだから教えてくれればプレゼントの一つや二つ用意してやるのにさ」
「沢田綱吉!」
「は、はい!」
「いつから…」
「ん?」
「いつ、知ったんですか!?」

突如取り乱した様子で余裕のない声音で骸は綱吉に詰め寄った。
その豹変っぷりに綱吉は目を白黒させ、一歩後退する。

「え、ついこの間、だけど」
「だけど?」
「…毎年食事行ってたのに知らないで本当に、ってなんで武器出すんだよ!?」
「……消え去れ、アルコバレーノ」
「え、あ、リボーンに聞いたんじゃないよ!」
「では、誰ですか?地獄に突き落とされた方がいいと泣くくらいの目に合わせてきます」
「ちょっと、骸、落ち着けよ!」
「落ち着く?何を言っているんですか?」
「骸!」

目が完全にいってしまっている骸を一喝すると、持っていた箱を開け中身を一つ取り出し骸の口に突っ込んだ。
驚いた骸はもぐもぐと大人しく口に入れられたものを咀嚼する。

「落ち着いた?」

問いに骸がコクンと一つ頷くのを見て綱吉はホッと息を吐き出した。

「どうしたんだよ、本当に」
「いえ、別に」
「まぁ今ので分かったと思うけど、これオマエの好きなチョコレートアソート、な」

ぽんっと骸の手の中にその薄い箱を置いた綱吉は「あ」と声をあげ、ポケットをまさぐる。
そしてお目当ての物を見つけたのか取り出し、骸に差し出した。

「あと、これ」
「これ、は…?」
「前に母さんにアクセサリー買った店で見かけてオマエに似合いそうだなぁと思ったんだ。まだあって良かったよ」

髪の毛止めるの使ってるから、使うだろ?
そう言って笑った綱吉の笑顔に骸は顔を真っ赤にし、ひったくるようにその小さな箱を奪い、身を翻した。

「え?え?骸、どこ行くんだよ」
「……気分が悪くなりましたので今日は帰ります」
「むくろー……行っちゃった」

走るようにどんどん遠ざかっていく骸の細身の背中を綱吉は呆然と見送る。
そしてポツリと呟いた。

「あいつどうしたんだろ…いつも変だけど、今日は一段と変だった…あぁ!オレの夕飯が!」

思わずぐぅと鳴ったお腹を撫でながら骸の事を早くも忘れた綱吉は食べれなくなってしまった夕飯の心配をした。

(2010/06/14)
骸が面倒で、綱吉がとことん鈍感で、つまりお祝い出来てませんです。