眠っていた気持ち眠っていたココロ


「今日、5/5かぁ……」

書類と格闘していた綱吉は卓上に置いてあるカレンダーの日付を確認しぽつりと呟くと「あぁもう!」と万年筆を放り出して伸びをした。
綱吉の脳裏にはムスッとした今より幼い出会った頃の雲雀の顔が浮かぶ。
それと同時に決して伝える事の出来なかった青臭い気持ちが蘇る。

「今日ヒバリさんの誕生日だなぁ……」

群れるのが嫌いと言いながら自分の守護者になってく、右腕や親友のように常に隣に居てくれた訳ではないが自分のピンチの時には必ず現れなんだかんだで協力してくれた雲雀は少年時代の綱吉にとっては一種のヒーローのような特別な存在だった。
あの頃の気持ちが憧れなのか恋だったのか、綱吉には判断がつかない。
だた、ひたすら自分にはないものを持っている雲雀に憧憬の念を抱いていた。

「今日はハンバーグにしてもらおうっと」

綱吉がこの気持ちを自覚したのは高校卒業と同時にイタリアに渡ることになった時だった。
自分の信念を貫き、きっぱりと「僕は日本に残るよ」と言い切った雲雀に綱吉の胸はチクリと痛んだ。
あぁ、この人とはもう会えないのか、と思った瞬間気持ちを自覚した。
自分の感情が憧憬の念ではなく恋心だと悟ったと同時に物理的な距離という理由で失恋が決定したどこまでもダメな自分を綱吉は嘲笑した。

「あー…我ながら未練がましいなぁ……」

あの時一生会えないと思っただなんだかんだで今も仕事の関係で年に数回は顔を合わせている。
しかしそれはビジネスライクな付き合いであって、個人的に話す事は全くない。
仕事上でも雲雀と話すよりもその側近の草壁と会話をする事の方がよっぽど多いくらいだ。
モヤモヤとした気持ちを振り払うように首を降ると綱吉は勢いよく立ち上がった。

「あぁぁぁぁ!気分転換してこよっ!」

そういうと心の中で「獄寺くん、ごめんね」と右腕に謝罪の言葉を述べると机の上に「ちょっと出て来ます」というメッセージを日本語で書き、しばし思案した後持たされている携帯電話をその紙の上にそっと置くと、すっかり上手くなった屋敷からの逃亡を実行した。


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「うん。やっぱりここのエスプレッソは美味しい」

逃亡時に愛用しているカフェ、元を正すと先生の御用達のカフェである、に入った綱吉はテラス席に腰を下ろすとエスプレッソとケーキを注文した。
成人して数年経過しているが正しい日本人の特性通り童顔の綱吉は未だに学生に見られる。
普段はあまり好ましくないと思うがこういう際に人目を気にせずスイーツを頼めるのはこの顔である利点の一つだと思っている。
すっかり顔見知りとなったウェイトレスの女性が綱吉の本当の職業と年齢を知ったらどう思うのか、と時々考えたりしないでもない。
そんな事をしたら二度とこの店に来れなくなるので積極的にそんな事をしようとは全く思わないが。

「?」

ふと綱吉は目の前の風景に違和感を感じ、首を傾げた。
見慣れた景色の中に感じた違和感。
超直感とはまた違うところで感じる、些細なズレ。

「!?」

綱吉はガタンと乱暴に立ち上がるとケーキを持って来たウェイトレスに「ごめん!それは君が食べて!」と言いポケットの中から20ユーロ紙幣を取出し机の上に叩きつけると店から飛び出た。
今、見間違いじゃなければ。

「ヒバリさん…!」

思わず口から名前がこぼれる。
見慣れた街の風景の中に感じた違和感の原因。
見間違いだ、居るわけはない、と思うがどこかで雲雀であって欲しいと思う気持ちが綱吉を走らせる。
近辺を数分間走って探すがそれらしい影も気配もなく綱吉は落胆した。

「居るわけないよなぁ」

自嘲気味に呟いた瞬間背後から口を塞がれ綱吉は瞠目する。
敵対マフィアか!?と一瞬戦闘態勢を取るが次の瞬間には気配で犯人に気付き、大人しくそのまま大通りから一本入った薄暗い路地裏へと引きずり込まれる。
大人しくなった綱吉の耳元で低い声が響いた。

「君、10年経って超直感っていうのなくなったの?」

綱吉を背後から拘束していた人間はそう言うと、綱吉を解放した。
身体が自由になった綱吉は即座に振り向き、その人物を見上げた。

「……ヒバリさん」
「君、よく今日まで生きてこれたね」

そこには綱吉がここ数年間仕事の際に見ていたスーツ姿の雲雀が居た。

「……うちではお仕事お願いしてなかったと思いますが、お仕事ですか?」
「今回は個人的な用事だよ」

誕生日にわざわざイタリアくんだりまで足を運ぶ「私用」とやらについて考えた綱吉の胸に鈍い痛みが走る。

「オレ、そろそろ戻るんで…もしお時間あったら是非うちにも顔出してくださいね」

雲雀の口から詳細な私用内容を伝えられたらたまらないと思った綱吉は一礼してその場を後にしようとする。
そんな綱吉の頭上から雲雀の声が落ちてきた。

「ねぇ。君はいつになったら言ってくるの?」
「え?」

突然の予想外の言葉に綱吉は勢いよく顔を上げた。
そこには見たこともない穏やかな表情を浮かべた雲雀がいた。

「え、オレ、何かヒバリさんに言う事ありましたっけ…?」
「うん。君は僕に言いたい事があるはずだよ」

(そんなの一つしかありません!だけど言えるはずないです!!)
綱吉は心の中でそう叫ぶ。
そして、あ、と今日雲雀を思い出した原因となった理由に思い当たりその言葉を口にだした。

「お誕生日おめでとうございます、ヒバリさん」
「0点」
「えっ?はぁ!?」
「まぁいいや。君は素直じゃないからね」
「え?」

そのまま雲雀は一歩綱吉に近づくとすっぽりと小柄な身体を腕の中に収め、耳元に口を寄せた。

「君は、いつになったら僕の事好きだって認めるの?」
「!?」
「さすがに待ちくたびれたよ」
「え?え??えーっ!?」
「ほら、早く言いなよ」
「え、ちょっと、待ってください、ヒバリさん!」
「何?」

綱吉が顔を上げると不満そうな雲雀の顔があった。
中学生時代によく見かけたムスッとしたその表情に綱吉の顔も思わず綻ぶが、自分の耳を疑う雲雀の発言を問いただすために顔をキリッと引き締める。

「さっき、なんて、言いましたか?」
「あぁ。君、僕が好きなんでしょ?早く言いなよ」
「ちょ、それ、なんで!」
「君の気持ちなんてだだ漏れだよ」

ムスッとした表情を崩すことなく雲雀は綱吉の言葉を促す。
どうしてばれたのか、とかいつから気付いていたのか、とかそんな事は些細な事に思えた綱吉は腹をくくって雲雀を真っ直ぐ見つめた。

「えっと、ヒバリさん。お誕生日おめでとうございます。それでですね」

内緒話をするように綱吉は声のボリュームを落とし、背伸びをして雲雀の耳元に口を近づけ続く言葉を囁いた。


Buon Compleanno!

(2010/05/05)
自分でプレゼント回収に来た雲雀氏のお話でした。