明日へ向かう道


GWの最終日。
「明日から学校かぁ〜」と連休の終わりを惜しみながらゴロゴロと自室で転がっていた綱吉の上に突然影が差した。
なんだろう?といぶかしがって視線だけをツッと上へと移動し、綱吉は目を見開いた。

「ひ、ヒバリさん!?」
「何?」
「なんで10年後のヒバリさんが居るんですか!?」
「ちょっとやることがあって、ね」

ニコッと現代の彼であればまず拝めないであろう笑顔を浮かべた「10年後のヒバリ」の整った顔に綱吉は寝転んだまま頬を赤くする。
ぽけーっと馬鹿みたいに口を半開きにしたまま頬を赤らめている綱吉に、雲雀は更に穏和な笑みをむけた。

「ほら、綱吉、行くよ」
「え?え??」

雲雀は柔らかい表情のまま綱吉の両手をギュッと握るとそのまま強引に華奢な身体を引っ張り起こす。
突然の雲雀の行動に綱吉はなすがままで立ち上がらせられ、そのままの勢いで雲雀の胸元に顔を埋めた。

「う、あわわわ」
「……軽すぎるけど、ちゃんとご飯食べてるの?」
「ちゃんと、食べてます!……成長出来ないだけで」
「ふーん。まぁ、10年後はもう少しきちんと身体が出来てるからいいかな」

そう言いながら綱吉の爆発頭を優しく撫で「ちゃんと食べて鍛えて立派な大人になるんだよ」と言う雲雀を見上げた綱吉は思っていた以上に距離が近いことに驚き、慌てて雲雀の胸を両手で押しながら半歩後退した。
そんな綱吉の幼い動作に雲雀はクスッと笑みをこぼす。

「さてと。綱吉行くよ」
「え?どこにですか?」
「秘密」
「あの、オレ、部屋着、です」

だから着替えたいんですけど…。
自分の胸元にあった手を握ると無理矢理引っ張って部屋を出ようとする雲雀に綱吉が小さく抗議の声を上げる。
その言葉に雲雀はあっさりと手を離すと「3分で用意して」と言い放ち、そのまま部屋から出ていきバタンと扉を閉めた。

「あ、れ…?」

いつでも自分中心主義の現代の雲雀であれば「ふーん。で?」の一言でそのまま連れ出されてしまうだろう場面での、あっさりとした解放に綱吉は拍子抜けポカーンと口を開けた。
数秒そうしていた綱吉は、ハッと我に返ると慌てて左右を見渡し落ちている服をかき集めささっと手早く着替える。
しかし気持ちは焦る一方で扉の向こうに10年後の雲雀が待っているのかと思うと手が震えてしまい、ボタンが上手く留められずそのもどかしさに「うわわあ」と変な声をあげてしまう。

「綱吉、用意は出来たかい?」
「は、はい!」
「じゃあ行くよ」
「待ってください、ヒバリさん…!」
「何?」

思わず引き留めた綱吉の言葉に素直に止まる雲雀の10年間の成長っぷりに感動しながらもふと浮かんだ疑問をそのまま口にする。

「あの…もう5分以上経ってますよね?」
「うん。ちょっと君の…10年後の君の所のメカニックに改造してもらったからね」
「………ジャンニーニ生きてますか?」
「さあ、どうだろうね?」

そう言いながら穏和に微笑む雲雀に綱吉は惚けた顔で釘付けになってしまう。
そんな綱吉に気付いた雲雀は「ほら、行くよ」と片手を取ると部屋から引きずり出しトントンと階段を降りる。
階段一段分下に居てもなお自分の視線よりも上に頭部がある雲雀に綱吉は「うわぁっ」と感動するがギュッと握られたままの右手に困惑する。

「ひ、ヒバリさん手…!」
「あぁ。こうしないと君は逃げてしまいそうだから」
「恥ずかしいんで、離してください」
「嫌」

あっさりと拒否の言葉を口にした雲雀はそのまま玄関にきちんと並べてあった靴を器用に片手で履いた。
それを見ていた綱吉は自分のスニーカーを前に左手だけでどうやってはこう、と困惑の表情を浮かべる。
それに気付いた雲雀は綱吉の靴を手にすると「足上げて」と促し要領よく両足に靴を履かせた。
あまりの雲雀の自分を甘やかす行動に綱吉はポカーンと口を開けて呆ける。

「……なんて顔してるの?」
「いえ、あの、まさかヒバリさんに靴を履かせていただけるだなんて思っていませんでしたので……」
「あぁ。今度こっちの僕に頼んでみたら?」
「辞めてください!オレ、殺されちゃいますよ!!」

ブルブルと身体を震わせ本気で拒否する綱吉を雲雀は複雑そうな視線でしばらく見つめていたが本来の目的を思い出し握ったままの手を引いて玄関から出て歩きだす。
歴然としたコンパスの差があるはずだが綱吉は小走りになる事もなく雲雀に誘引されていく。
自分に歩調を合わせてくれるという雲雀の優しさに本日何度目かの感動を覚える。
綱吉がそんな事を考えながら二人連れ添って歩いていくと商店街についていた。

「目的地ってここですか?」
「ここは通過地点」

簡素に答えた雲雀はそのままケーキ屋へと足を踏み入れた。
ケーキ屋の店員は雲雀の顔を見ると背筋をピンと伸ばしたが、いつもの雲雀と雰囲気が違う事に気付き不思議そうな表情を浮かべた。
そんな店員にお構いなしで雲雀はケーキを数個注文する。

「綱吉、覚えておいて」
「は、はい」
「僕は洋菓子よりは和菓子の方が好きだけど、唯一ここのケーキだけは好物なんだよ」
「は、はい?」

その後も雲雀は商店街内の数件に立ち寄りその度「僕はこれが好きなんだ」と綱吉に丁寧に教える。
それに綱吉は律儀に頷きながら素直に頭の中で「ヒバリさんはこれが好き」と反芻していく。
買い物が全て済んだのか雲雀は商店街を抜け次の目的地に向かって歩きだす。
この道って、と綱吉が思っていると想像通りの場所にたどり着き、その建物を二人は見上げる。

「ヒバリさん、目的地ってここだったんですね?」
「うん」

綱吉の言葉に雲雀はあっさり頷くと握っていた綱吉の手を離した。

「綱吉、覚えておいて」
「はい」
「今日、5/5は僕の誕生日なんだよ」
「は……え?」
「これ、持てるよね?」

困惑する綱吉をよそ目に雲雀は片手に持っていた荷物を離した綱吉の手に握らせる。

「君の時代の僕は今日もあそこに居る」
「……え?」
「僕をよろしくね、10年前の綱吉」

綱吉の頭をふわっと撫で、踵を返しその場を後にしようとする雲雀の背中に綱吉は思わず声をかける。

「あ、あの、ヒバリさん!」
「何?」
「なんで…?」
「うん……じゃあ一つだけ。中学生の僕は、君に自分の誕生日を素直に伝える事が出来なかった」
「……?」
「僕はそれを自分でも驚くほど後悔していたんだよ」

こんな事をしてしまう位にね。
そう言うと雲雀は今度こそ完全に綱吉に背を向け歩き出した。
その背中を呆然と見送っていた綱吉は慌てて声を張り上げた。

「あ、あの!未来のヒバリさん!お誕生日おめでとうございます!!」

綱吉の言葉に雲雀は片手を上げて答え、それと同時にぼわんと白い煙に包まれ、消えた。
しばらく雲雀の居た空間を見つめていた綱吉は気合いを入れると駆け足で校舎の中に入っていき、目的地の扉の前で深呼吸を一つする。
そして意を決すると荷物を持った片手で扉をノックした。
中から先ほどまで聞いていた声よりも少しトーンの高い、聞き慣れた声が返ってくる。

「あの、ヒバリさん。沢田、です」

Buon Compleanno?

(2010/05/05)
10年前の自分に綱吉との時間をプレゼントする10年後雲雀氏のお話、でした。