キミニアイタイ


「Per il mio Tesoro prezioso.」
「うん、オマエは相変わらず歯の浮きそうな言葉が得意だね」

綱吉は花束を手に私室に入ってきた骸の言葉に照れ半分、呆れ半分といった表情で言葉を返しながらそれを受け取った。
真っ白なバラの花束という所がまた嫌みったらしくて骸らしいと綱吉は笑う。

「チョコ用意したから食べよう。飲み物はどうする?紅茶?ワイン?」
「チョコを味わいたいので、まずは紅茶をお願いします」
「了解。あ、ワインはアイスワインをドイツから取り寄せてみたよ。チョコと合うんだって」
「それは楽しみですね」

ポートも冷やしてるから後で飲もうね〜。
いつまで経っても童顔なままの顔に似合わず父親似の酒豪に成長した綱吉は嬉しそうにニコニコ笑いながら簡易キッチンに向かうと慣れた造作でティーポットに茶葉を入れ沸かしていたお湯を注ぐ。
自分を訪ねて来た人には自ずから飲み物を用意したいという考えの綱吉はコーヒー、紅茶に関しては美味しく入れる自信をこの数年で得ていた。
ティーポットに母親お手製のティーコゼーをかけ、砂時計をクルッと回しそれらをお盆に乗せた綱吉は骸の待つ室内に戻ろうとし、足を止めた。

「……むくろ?」
「お兄さんは……誰ですか?」

驚き目を見開く綱吉に気付いたソファに腰掛けた小さい少年がコテンと首を傾げながら訊ねる。
濡れ羽色の髪、後頭部に存在する特徴的な房とそこからおでこまで走るギザギザの分け目。
青い宝石の様な一対の瞳。
子供ながらに小綺麗にまとまった、聡明そうな顔。
それらの特徴から考える……までもなく綱吉の中には一つの結論しか出なかった。

「オレは、綱吉って言います。君は、骸、だよね?」
「はい。そう呼ばれてます」

ソファに座る少年は素直にそう言いながらコクンと頷く。
その少年の視線がテーブルいっぱいに並ぶチョコレートに釘付けになっている事に気がついた綱吉はクスッと笑いながら骸の側まで歩み寄り手に持っていたお盆をテーブルに置き、カップを骸の前にかざした。

「紅茶、飲む?」
「は、はい」
「チョコレート食べながら、お話しようか」
「は、はい!」

キラキラとした瞳で子供らしい良い返事をする骸に綱吉は優しく微笑みかけながら頭を撫でようとして、綱吉の伸ばした手に骸がビクッと身体を強張らせた事に気付きすんでの所でその手を引っ込めた。
骸は目に見えてホッと一瞬止めた息を吐きだす。
(ごめんね…)と綱吉は心の中でそっと謝罪する。
青い両目が綱吉を射貫く。―――特徴的な赤い瞳はそこにない。
再度そう認識した綱吉の心臓がキュッと痛んだ。

「好きなの食べていいからね」
「はい!」

紅茶を注ぎながら綱吉がそう言うと先ほどの怯えを消した骸がまたキラキラした瞳でテーブルを凝視する。
しかし決して自分から手を伸ばそうとせず、綱吉の様子をちらちらと窺っている。
しばし思案した綱吉はひょいっと一粒摘むと半分口に入れ、咀嚼する。

「はい。何も入ってないから大丈夫、だよ」
「あ、いえ、お兄さんをうたがっていた訳では…」
「ううん。警戒して当たり前だと思うよ?」

綱吉は骸の笑顔の下に隠された警戒心を解くようにニコッと微笑むと「あーん」と口元まで半分になったチョコを運ぶ。
つられるように条件反射で骸は思わず口を開け、そのまま放り込まれたそれを無意識に食べる。
素直にむぐむぐと口を動かす小さい骸を見た綱吉は思わず「可愛い……」と呟いた。

「ぼ、僕は男の子ですから可愛いって言われてもうれしくありません!」
「うん、ごめんね」
「子供あつかいしないでください!」

思わず伸ばした綱吉の手は今度は拒絶される事なく骸の頭まで到達し、ぐしゃっと柔らかい髪の毛をかき回す。
否定の言葉をあげるものの、その言葉とは違い骸の表情はそれを拒絶していない事に気をよくした綱吉は逆の手でもう一粒摘んで骸の口元へと運んでやる。
骸も嫌がる事無く口を開けてそれを受け取り、小動物のようにもぐもぐと食べる。

「美味しい?」
「はい!こんなにおいしい食べ物を食べたのは初めてです!これはなんて食べ物なんですか?」

もう一粒いいですか?と遠慮気味に言いながら手を伸ばしパクッと食べ、表情を和らげる。
心底嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべる骸を綱吉は思わずギュッと抱きしめる。

「お、お兄さんどうしたんですか…?」
「うん、何も出来なくてごめんね」
「なんで謝るんですか?」
「辛い時に側にいれなくてごめんね」
「お兄さん?」
「……もっと早く逢いたかったよ」

小さな身体を慈しむ様に綱吉は腕の中に大事に抱え込む。
よく分からない様子で困惑していた骸もおずおずと綱吉の背中に腕を回し、洋服をギュッと掴む。

「ごめんね」
「よく分かりませんが謝らないでください」
「うん……骸がどうなるか分かってるのに今何も出来ないのが歯がゆいよ」
「お兄さんの言っている事はしょうじきよくわかりません。でも、今こうして抱きしめてもらって僕はしあわせです」
「むくろ…」
「お兄さんはとってもあたたかいですね」

ニコッと微笑んだ骸の周囲に見覚えのある煙幕が漂い始める。
時間が来た事を悟った綱吉は慌てて言葉を吐き出す。

「骸!10年後、待ってるから!」
「10年後?」
「うん。だから、何があっても、生きて」
「……はい」
「さっきの食べ物はチョコレートって言うんだよ」
「……チョコレート」

その呟きを最後に小さい骸の気配が一度消え、綱吉の腕の中に収まりきらない大きさの暖かさが戻って来る。

「……随分熱烈なお出迎えですね」
「お帰り、骸」

そう言いながら綱吉はコツンとおでこを骸のそれにぶつける。
骸はクスッと笑う。

「ただいま戻りましたよ、綱吉くん」
「……10年前のバレンタインデーに10年バズーカが不発だった事があったな」
「そんな事もありましたね。まさか…あの時の自分はそのままで10年前と10年後の僕が入れ替わるなんてバグが発生してたなんて驚きですね。不発だったんだとばかり思っていましたよ」
「うん。……お帰り」
「あの時の暖かい夢の正体は君、だったんですね」
「チョコレート、気に入った?」
「えぇ。今では僕の大好物になりましたよ」

幼少時代の刷り込みは偉大ですねぇ。
そう言いながらクフッと笑った骸はテーブルからひょいっと一粒取り上げると口に含み、そのまま綱吉の唇を塞いだ。
いつもなら抵抗する綱吉もそれを甘受する。
骸は腔内で溶け出した甘いチョコレートを舌に乗せ綱吉の腔内に押しやる。
フワッと甘い匂いが綱吉の鼻腔を抜けていく。
キスが甘いのかチョコが甘いのか、酸欠気味の頭がくらくらする。と綱吉は思う。

「やはり僕の光は君しか居ません」

Vicino a te, Il mondo sembra sempre bellissimo.
Per TSUNAYOSHI che abita nel mio cuore.

耳元で甘く囁かれた骸の言葉に綱吉はクスッと笑い、ちゅっと唇をかすめ取るようなキスで答えた。

Per il mio Tesoro prezioso.:僕の大切な宝物の君へ。
Vicino a te, Il mondo sembra sempre bellissimo.:君のそばにいると、世界はいつでも美しく見えます。
Per TSUNAYOSHI che abita nel mio cuore.:僕の心に住んでいる綱吉くん。
(2010/02/15)
子骸、リベンジしたいです。