最果ての朝焼け


「えっと、ここは、どこでしょうか…?」

今年は久しぶりに実家で年越しするぞ!と鬼の様に優しい元家庭教師の先生と決死の交渉を行い、張り切って仕事に精を出し、一緒に右腕に泣いて貰ってなんとか仕事を終わらせて、やっとの思いでギリギリ大晦日に並盛にある実家に数年ぶりに戻って来た綱吉は奈々の手料理をこたつに入りながら食べぬくぬくと過ごしていた…はずだった。
懐かしい日本の大晦日のテレビ番組をだらだらとこたつの中で見て、紅白を見ながら夕飯を食べて、除夜の鐘を聞きながら年越しそばを食べて、そのままのんびりと年を越して、元旦には同じく日本に戻ってきている山本と一緒に初詣なんかに行こうと思っていたはずだった。
会えるかどうか分からないけど、風紀財団に顔を出して雲雀に新年のご挨拶をしてもいいかな、なんて思っていたりしたはずだった。
しかし、現実は違った。

「久米島という島、ですよ」

普段の奇妙な制服っぽい戦闘服や改まった場所で着用しているスーツと違い、普通の青年のようなラフな格好をした骸が綱吉の疑問に答えながらクフフとご機嫌な様子で微笑んだ。
ラフな格好をしていても美形だとそれなりに見えるのは不公平だとかはこの際関係ない。
……数時間前までこたつに居たはずの綱吉は年を越したのとほぼ時を同じして突如現れた骸に「明けましておめでとうございます」の言葉と共に拉致に近い状態で連れ出され、しかし奈々は知っていたのか「六道くん、コレ」と綱吉の着替えなどが入った旅行鞄を笑顔で渡していたからたちが悪い、車に荷物とともに積み込まれ羽田まで強制輸送、そのままプライベートジェットらしき飛行機に乗せられ3時間後に空港に到着、ご丁寧に用意されていたレンタカーで夜の街頭一つない道を突き進み港に着いたかと思うと待機していた漁船らしい小さい船に乗せられ、今に至る。
こいつは船まで操縦出来るのかよ、変な所で器用なやつだよな…!とかはこの際些細な事だ。

「うん、それは空港で名前みたからなんとなく分かった。じゃなくて、ここ」

ここ、と綱吉は裸足の足、船から降りる際に脱げと言われたので靴は船に置いてきた、を踏みならし砂浜と思われる足下を指さした。
明かりと言えるものは乗ってきた船から漏れるかすかな光と骸が手にしている懐中電灯、空に浮かぶ月と星のみでその他に光は一つもない暗闇と言うにふさわしい空間に綱吉と骸は二人で佇んでいた。

「ここは、はての浜という無人島です」
「……はての浜?」
「えぇ。無人島と言っても見ての通り砂浜のみで出来ていて周囲は全て海です」

骸の声に真っ暗な周囲をそっと見渡すとザザーッという波の音と磯臭い海の臭いが急激に綱吉の近くにやってきた、気がした。
島自体には自ずから発光する物体は存在しない。

「人は住んでいませんし、電気も通っていません」
「ふーん。で、骸はどうしてオレをここに連れて来たの?」
「二人っきりで過ごしたかったから、では理由としては弱いでしょうか?」

綱吉はぼんやりと暗闇に慣れた瞳で正面に立つ骸をジッと見つめる。
(あれ…こいつってこんな顔してたっけ…?)

「最近の君はとても忙しそうでしたので、こうでもしないと二人で過ごせなさそうでしたので」

少し強引だったことは謝ります。
そう言って綱吉が弱い美麗な顔をニッコリと破顔させる。
その骸の表情を見た途端、綱吉は考えるのが面倒になり全てを放り出した。

「分かった、了解、納得した。で、わざわざ時間をかけてここまで来た理由は?」
「本当に誰も来れない所を、と思ったのと……偶然見たここの写真があまりにもキレイだったから君と一緒に見たくなったから、です」

骸の言葉の途中で綱吉がクシュンと小さくくしゃみをすると「あぁ、寒いですよね」と骸は手にしていた毛布を綱吉に差し出し、自分はその場に腰をおろす。
地面に直接座る六道骸、というものを世にも奇妙な物を目撃した気分で凝視していた綱吉だったが、ハッと我に返ると毛布を受け取り骸の横に座り二人まとめてそれにくるまる様にそれを羽織った。
綱吉の行動に瞠目した骸は、次の瞬間には優しく笑い綱吉の肩に手を回しその小さい身体を引き寄せた。

「あと1時間もすれば朝日が昇るはずです」
「そっかー」
「君と何もない場所で初日の出というのも一興ですよね」
「確かにな」
「食べ物と飲み物も用意してますのでなんでもお申し付けください」

骸はそう言うと片目を瞑り手元にあった何やらたくさん物が詰まっているカゴ、骸に似合わないなぁと綱吉は思ったが口にしなかった、を持ち上げた。

「じゃ、ビール」
「はい。綱吉くんって可愛い顔しておっさん臭い所ありますよねぇ」
「オマエ、日本のビールの旨さを馬鹿にするなよ」
「それ皆言いますよねぇ…僕にはいまいちビールの美味しさというのが分からないんですが」
「……骸ってお子様嗜好だよな」
「ワインが飲めれば問題ないと思いますよ?」

「君、こういうのも好きですよね」とコンビニで買えるような燻製のイカやらタマゴを甲斐甲斐しく差し出してくる骸に「オマエ、年々母さんに似てくる気がするよ…」という突っ込みを返しながら綱吉はクスクスと笑う。
綱吉が何本か目のビールのプルタブを開け、横で骸がワインをグラス、プラスチックのコップじゃなくグラスを用意している辺りが徹底している、に注ぎ切ってボトルを空にした頃、綱吉がボソッと呟いた。

「ファミリーの人たちとわいわい過ごしたり、家で家族とまったり過ごしたりするのもいいけど、骸と二人でこうしてのんびり過ごすのも悪くないよなぁ」
「そう言っていただけると幸いです。……あ、そろそろ日が昇りそうですね」

骸の言葉に反応するかのように濃紺だった地平線に徐々にオレンジ色が混ざり出す。
暗闇を裂くかのように光が徐々に大空に広がる。

「太陽の光は君の炎に似てますね」
「……オレの炎はそんなにキレイじゃないよ」
「いえ、キレイです。少なくとも僕らにはあの色に見えます」

じわじわと光の分量が多くなり、暗闇が撤退し出す様を二人で見守る。

「じゃあ、オレの炎が混ざってる暗闇のインディゴは骸の炎の色だな」
「それは、いいですね」

綱吉の言葉を骸は嬉しそうに受け取る。
地平線には太陽の輪郭が見え出す。

「何時間か後にはイタリアに居るファミリーの人たちも同じ太陽を見るんだよね」
「そうですね」
「なんかそう考えると…不思議だよな」
「そうですね」
「世界って狭いんだなぁ」
「そうですね」

感慨深そうに呟く綱吉の言葉に骸は頷く。

「骸。連れて来てくれてありがとう。……Buon Capodanno!」
「Buon Capodanno!」

クスクスと笑いながら骸は自分を見上げる綱吉の唇にそっと口づけた。

(2010/01/05)
帰りは飲酒運転です、骸さま。