黒とオレンジの夜


自室のベッドに倒れこもうとした骸は毛布をめくったまま絶句し、思考を停止させる。
目の前のベッドの上にはここにいるはずのない小さい体を丸めて眠る黒猫、の仮装をした綱吉が小さな寝息をたてながら静かに寝ていた。

「なぜ、ボンゴレが、ここに…?」

骸の自問は薄暗い部屋にやけに大きく響く。
動揺の余りしばらく放心状態になっていた骸はハッとすると声を発した。

「ここで何をしている、沢田綱吉!」

思いのほか大きく声帯を震わせた自身の声に骸はびくっとするが、綱吉は全く気づく事無く惰眠を貪り続ける。
しばし考えた骸はベッドに片膝をつき、綱吉の華奢な体を揺さぶりだした。

「起きなさい、沢田綱吉」
「う…うぅーん……」

いやいやをするように首を軽く振る綱吉の頭についた黒い獣耳がさわさわと揺れるのを見た骸はカッと頬を赤らめる。

「起きなさい!」

骸はそう言うと無理やり綱吉の上半身を引き起こした。
さすがの綱吉もそこまでされれば、むずむずと目を擦りながら意識を徐々に覚醒させた。

「う、うぅん……あ、むくろ、お帰り」

半分寝ぼけているのか綱吉はへラッと微笑みながら首をかしげ舌足らずに骸に挨拶をした。
その姿に動揺した骸は思わず視線を逸らす。

「な、なぜここにボンゴレがいるのですか?」
「あー………あっ!」

骸の問いかけにしばらく寝ぼけた頭でこの場にいた理由を必死に思い出そうとした綱吉は、その目的を思い出し「ポンッ」と手を叩き、骸に向かって掌を差し出した。

「…なんですか、この手は?」
「どるちぇっと・お・すけるつぇっと」
「……イタリア語を覚えようとした努力は買いますが、発音が悪すぎますよ」

綱吉の呪文のような言葉の意味を理解した骸はフーッとため息をついた。
そんな骸に綱吉はぶーっと文句の声を上げる。
いまだに覚醒しきれていないのかその言動はどこか普段よりも幼い。

「もうそんな時期でしたか…。で、わざわざ何ですか?」
「オレだって別に自分で来たくて来た訳じゃないよ!リボーンに言われて仕方なく…」
「なるほど。アルコバレーノはイベントがお好きでしたね」
「守護者全員の所に行ってお菓子回収して来いって言われたんだよ…。で、どるちぇっと・お・すけるつぇっと、だよ骸」

再度骸に向けて手を差し出した綱吉に深いため息をついた骸は、ジャケットのポケットに手を突っ込みそこから包装された小さいチョコを取り出し綱吉の掌に無造作に落とした。

「はい、どうぞ」
「オマエは絶対もってないと思ったのに、意外だな!」
「別にこの日のために用意したのではありません。自分用ですよ」
「…そっちの方が意外だよ」

これでノルマ達成だ!
と欠伸をしながら立ち上がった綱吉の肩を骸が急に押し返したため、綱吉は再びベッドに転がる。

「何するんだよ!」
「dolcetto o scherzetto」

ニッコリと奇麗な顔に胡散臭い笑顔を浮かべた骸が綱吉に覆いかぶさりながら、完璧な発音で先ほど綱吉が言った言葉を反芻した。

「dolcetto o scherzetto」

再度、綱吉の耳に直接囁くように骸が言葉を発する。
鼓膜に直接響く色気のある声に綱吉は顔を赤らめ起き上がろうとじたばたするが、上から骸に抑えつけられているため起き上がる事が出来ない。

「オマエふざけるなよ」
「dolcetto o scherzetto…お菓子をくれなきゃいたずらしますよ?」
「お菓子なんて持ってないよ!離せ!」
「おやおや…じゃあいたずらさせていただきましょうか」
「うわー!このチョコやるから、落ち着こう、な、骸」
「それは僕があげたものですから却下です」


「動揺させられて腹が立ったんですから、君もそれ相応に動揺しなさい」と意味不明な言葉を吐き出した骸と、「えぇなんだよそれ!意味わかんないよ!」と騒ぐ猫の耳と尻尾を付けた綱吉の間に何があったのかは綱吉が持ってきたジャックランタンだけが知っている。

(2009.10.31)
黒猫綱吉に我慢できなくなったツンデレ骸のお話、でした。たぶん。