爪先


「うー……」
「天下のボンゴレがざまあないですねえ」

どこまでも冷え切った色違いの両眼が綱吉を見下ろす。
優しさの欠片もない骸の目の色に綱吉の背筋が凍った。

「骸、」
「泣けば許して貰えるとでも?」
「そんなんじゃ」
「でも現に君はそうして顔をぐっちゃぐちゃにして泣いてるじゃないですか。泣いて赦しを乞えば誰しもが赦してくれるだなんて、本当にどこまでも甘ったれてますね」

何か触れてはいけない部分に触れてしまったのか、いつもはもう少し恩情をみせてくれる骸がまったくその様子を見せない。
むしろ綱吉が何かを言えば言うほどその両眼は真冬の夜の闇の様に暗く冷えていく。
せめてものあがきとして、縛られているという現状からの脱却を目指してみるが綱吉が口を開けば開く程に骸の気持ちが綱吉から離れていくのだからどうしようもなかった。

「骸。オレ、今はこんな事している場合じゃないよ」
「でしたらどうぞ、ご自由に」

涼しい顔をした骸が足を動かし、綱吉の局部を刺激した。
情けない事に服を全て剥ぎ取られて全裸にされた上に、超優秀な家庭教師の先生にご指導ご鞭撻頂いてそれなりに緊縛された時の縄抜け方法なんかは一通り学習したはずの綱吉のわずかながらのスキルレベルでは抜け出す事が不可能なくらいに完璧な縛られ方で拘束されてしまっている現状では、それを甘んじて受け入れるしかなかった。
そんな場合ではないと分かっていても、身体は心以上に素直で実直で、散々昂ぶらせるだけ昂ぶらせられて寸でで放置されている綱吉の性器は反応を返してしまう。

「動けるなら、ね」
「うーっ、本当に、頼むから」
「何を、ですか?」

声と同時に骸が足を動かすと、ぐちゅっと先走りが革靴の裏で粘着質な音をたてた。
目の前の骸が着衣一つ、表情一つ乱していないのに比べて綱吉は全裸で緊縛された上に、どうしようもないくらいに性器を硬く張り詰めさせて先走りを垂れ流している。
年齢や立場なんて関係なく、もう骸に対しては恥も外聞もないので顔も涙でぐちゃぐちゃだ。
上も下もぐちゃぐちゃな自分が恥ずかしくて、綱吉は今すぐにでも死にたい気分になった。

「もう、本当に勘弁して……オレが何かしたんなら謝るから……」
「何か?ほう……自分で悪い事をしたと思ってもいないのに人に言われたら謝れるんですね、ボンゴレ・デーチモとあろうものが」
「そういう訳じゃなくて!」
「君、死ねって僕に言われたら死んでくれそうですね。お優しいことで」

綱吉の発言がよほど頭にきたのか、骸は先ほどよりも強く足を動かす。
痛いのに、恥ずかしいのに、情けなくて死にそうなのに、それでも揺れる理性の向こう側の本能が気持ちよさを伝えてくる。
こんな状況下においても気持ちよさを感じられてしまう自分に絶望した。

「おやおや……君、余計に興奮しちゃったみたいですね。とんだ変態だこと」
「違っ」
「全裸で縛られて、男に靴で足コキされて勃起しちゃうなんて……ボンゴレに心酔している人間には見せられませんね」
「それはっ」
「人のせいにはしないでくださいね。勝手に勃ててるのは君なんですから」

嘲笑と軽蔑とがごちゃまぜになった表情が綱吉を見下した。
やられている事は酷い事だけど、結局それに反応してしまっているのは綱吉なのだから反論の余地はない。
「うっ……」と声を詰まらせている綱吉を見て、骸が嘲笑った。

「反論出来ないんですね、情けない」
「骸、もう、その」
「おやおや。赦しを乞うなんて、仕方のない人だ」

とりあえず神経が血液を一心に集めて勃ち上がる箇所に集中してしまった状況では落ち着いて考えることも出来ないと判断した綱吉が骸にお願いをしようとした途端、骸が酷く冷めた口調で言いながら性器を踏みつけていた足を離した。
あと少し刺激を加えれば解放されるという状態で放置された綱吉は、条件反射的に縋る様な瞳で骸を見上げてしまって後悔した。
熱い体を持て余した綱吉とは正反対に、骸は相変わらず熱の全く感じられない瞳で綱吉を見ている。

「むくろ……?」
「つまらない。もっと泣き叫ぶ姿がみたいのに、気持ち良くなられちゃ興ざめですよ」
「むく」
「変態過ぎて、君にはがっかりです」

そう言って指を一つ鳴らすと、魔法のように綱吉をきつく縛り上げていた紐があっさりと緩んで体の拘束をいとも簡単に解く。
不自由だった腕も自由に動くようになったので、今更だけれども情けなく勃ち上がった性器を手で隠してみる。

「ほら、自由にしてあげたんですから君の大好きな抗争にでもなんでもいけばいいじゃないですか」
「いや、ちょっと、今すぐには」
「別に僕には構わず自慰してくださって結構ですよ」
「オレが気にするだろ!」
「変態の君なら見られて興奮するんじゃないですか?ほら、早くしないと抗争終わっちゃいますよ?」

「誰のせいで時間ロスしてると思ってるんだよ!」という言葉をグッと我慢して、心にがさっと引っかかった単語を綱吉は反芻する。
『抗争』。
短い言葉の中に二回も出て来たのだから、骸が苛ついている理由はそこなんだろう。

「あっ……」

一つだけ思い当たる節があった綱吉が声をあげて骸を見上げると、感情の読めない瞳が反らされた。

「むく」
「早く行きなさい」
「このままじゃ無理だよ」
「じゃあ勝手にイきなさい」
「……誰が上手いこと言えっていったんだよ」

先ほどまでと違って少しだけ骸の感情が露わになってきていた。
作られた冷たさの中に、骸の人間らしさが垣間見える。

「ごめん。オマエの怒ってた理由、分かった」
「何の事ですか、このド変態」
「ごめん。オマエ以外の人間に体に傷つけさせて、ごめんな」
「黙りなさい」
「ごめん。……あの、ごめんついでに、これ、どうにかしてくれない、かな?」

綱吉がそっと自分の下腹部に目をやると、骸もその視線を追ってその上でとても嫌そうな顔をした。

「勝手にしてください」
「目の前にオマエが居るのに一人では、ちょっと」
「……死に晒せ」

先ほどまでとは違う冷たい視線に綱吉はぞくりとした。
結局、骸も自分も変態で、世の中上手く出来ているものなんだよな、と綱吉は一人納得した。

(2011/10/29)
苔さんに捧ぐ。ごめん、ドS無理だったです。