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アンダンテ


※骸が非常に偽物です。


オレには幼馴染みが二人いる。
二人とも同性のオレから見ても、幼馴染みという身内に近い人間の贔屓目なしでも、格好良い。それはそれは恐ろしい程に。

「わざわざありがとうございます」

目の前で柔和に微笑む、顔良し、スタイル良し、声良し、髪型珍妙、な世間的に言う所の文句なしの美形の男が一人目。

「骸!久しぶり!」

久しぶりに会う幼馴染みに思わず興奮して飛びついてしまった後で、自分たちの年齢を思い出して慌てて離れた。
そんなオレを幼馴染み、六道骸という名前だ、が苦笑混じりの笑顔で見下ろす。非常に不本意だが、結局成長期を終了しても身長差は埋まらなかったので見下ろされる事に慣れすぎている。

「相変わらず君は元気ですね」

二十年近い付き合いでオレの行動には慣れっこな骸は、そのままくしゃっと髪をなで回す。まるっきり子供扱いをする骸にぷくーっと頬を膨らませる。

「オレ達、一歳しか違わないじゃん」
「そうですね……でも綱吉くんは相変わらず小さくて可愛いですね」
「そこ、でもの使い方間違ってるから」

くしゃくしゃを通り越してぐしゃぐしゃと髪の毛をかき混ぜて遊ぶ骸の手を思わず振り払う。骸は気にした様子もなく楽しそうに微笑んだ。
オレは一人っ子だから兄が居たらこんな感じなのかなと思っている。恐らく骸とオレの関係は仲の良い兄弟……みたいな感じだ。
―もう一人の幼馴染みとの関係が、オレの一方的な態度なせいで、おかしくなってからよりいっそうそれは顕著になったと思う。
骸はオレに優しい。甘い。誰よりもオレの事を理解してくれている。
その安心感からオレは骸に依存して、甘えている。

「雲雀くんは一緒じゃないんですね」
「……連絡してないから」

雲雀くん、の一言にびくりと肩を揺らす。完全に油断していた。
気付かれたよな、と恐る恐る骸の顔を仰ぎ見ると「おやおや」と困った顔をしていた。

「相変わらず雲雀くんとは距離を置いたまま?」
「……うん」

じっと優しい目で見つめられ、素直にこくんと頷く。
雲雀くんと骸が呼ぶ人が、オレの幼馴染みの二人目。
『雲雀恭弥』
心の中で名前をフルネームで浮かべるだけで、ダメだ。オレの心は穏やかさをなくしてざわざわとする。
あの冷えた黒曜石のような深い漆黒の瞳を思い出して、想像の中でそれに真っ直ぐ射貫かれて、思わず泣きそうになる。
簡単には言葉に表せない複雑で不思議な感情が溢れてきてぐちゃぐちゃになる。
そんなオレの吹き荒れる嵐の中のような心情が顔に思いっきり出てしまったのか骸が困ったように微笑んだ。

「困らせたいわけじゃないんですけどね」

そして先ほどの弟に対するものとは違う、優しい手つきでオレの頭を撫でる。まるで癇癪を起こす寸前の子供をあやすような優しい手を目をつむって甘受する。

「僕は綱吉くんも雲雀くんも好きですから、二人には仲良くしていて貰いたいだけなんですよ」

心地よい低い声が、一言本音をぽつりと漏らす。
オレだって仲良くしたいよ。そりゃもう切実に。

「ほらほら、そんな顔しない」

君、もう成人してるんですよ?
呆れたような声で言いながらも頭を撫でる手はどこまでも優しい。
泣きそうだ。
そう思った瞬間、背後から聞こえてきた声に心臓がぎゅっと鷲掴みされる。

「ねえ、人を呼び出しておきながらいつまで待たせるの?」

ざわめく空港のロビーに凛と響く低い声。
別に大きな声を出している訳ではないのに、オレの鼓膜は現金なまでにしっかりとその声を拾う。
パブロフ犬のように、この声に全聴覚が反応する。
声に、息が詰まる。全神経が背中に集中する。背中に耳があるみたいだ。

「あぁ失礼しました。つい綱吉くんとの話が弾んでしまいまして」
「……外に車止めてるからさっさとおいでよ」

錆び付いたブリキの錆び付いたおもちゃのように凝り固まった首をギギギギギと音を立てて無理矢理振り向かせると既に後ろを向いて歩き出しているヒバリさんの後ろ姿が見えた。ピンと真っ直ぐに伸びた背筋と形の良い丸い後頭部がヒバリさんだった。

「なあに固まってるんですか」
「……骸なんて嫌いだ」
「おや、随分寂しい事を言いますね」

全く困っていない口調で骸が言う。してやったり、という顔がむかついたので足を踏んでやるとさすがに苦笑した。

「さすがに海外から戻ってきて荷物が多くて大変なので、車を回して貰っただけですよ。あとちょっと頼み事をしていたもので」

骸の言い訳にぷいっと顔を背ける。
久しぶりに近くでヒバリさんを見れて本当は嬉しかったけど、そんな恥ずかしい事は死んでも言えない。
きっと骸はそこまで全部お見通しなんだと思うけど。
すごい、悔しい。





車内は微妙に重苦しい空気に包まれていた。
ハンドルを握るヒバリさん。
後部座席で寛ぎながら一人で話し続けている骸。
助手席で居心地悪さの絶頂で身を縮めて座り混んでいる、オレ。
骸の独り言のような言葉にヒバリさんが時々相槌を打ったり短い返答を返しているが、久しぶりにヒバリさんの車の助手席に座れて嬉しいやら緊張するやらでオレは一言も言葉を発する事が出来ない。

「……車に酔ったの?」

唐突過ぎてそれが自分に掛けられた言葉だとはすぐには判断が出来なかった。数秒のタイムラグをおいてそれが自分にむけられていると気付いて思わず変な声をあげる。

「ち、違います!」
「うん、まあ元気そうだね」

苦笑したヒバリさんは真っ直ぐ前だけを見ている。運転中だから当然だけど、見られると苦しい癖に、見られないと物足りない。
人間はどこまでも図々しい生き物だ。

「そういえば……そこの封筒に頼まれてた書類入ってるよ」
「ありがとうございます」

オレへの興味を一瞬で無くしたのか、ヒバリさんは骸に話しかける。骸は頷きながら後部座席に置いてあった封筒の中身を取出し「ほう」と呟いている。

「骸、なにそれ?」
「あぁ、良い貸し店舗があったら教えて欲しいとお願いしてたんですよ」
「貸し店舗?」
「そういえば綱吉くんにはまだ言ってませんでしたね。僕、日本に戻ってきて店始めようかと思ってるんですよ」
「本当に!?」

思わずシートベルトの存在を忘れ半分腰を浮かせて後ろを振り向きかけて、がつっと引っかかった。胸が圧迫されて、咳き込む。

「……壊さないでね」

ヒバリさんからオレではなく車を心配する言葉が掛けられた。分ってはいるけど、車にも負ける優先順位に思わず落胆する。

「大丈夫ですか?お伝えするのを忘れててすみません」
「ううん。それはいいけど!骸、戻ってくるの?」
「えぇ。並盛で自分の店を持つのが元々の夢でしたし」
「競合だったら許さないけど、まあケーキ屋ならいいよ」
「と、雲雀くんの許可もおりましたしね」

バックミラー越しに目が合った骸が笑う。
幼馴染みが戻ってくるのは単純に嬉しい。これで昔のように三人で仲良く出来たらもっと、いいのに。
自分勝手な希望が思わず脳裏に浮かんでは消えた。

「雲雀くん……」
「なに?」
「なに、じゃありません。ここって」
「うん。うちの前だよ」

若干動揺した骸の声に、ヒバリさんが何でも無いことのようにさらっと言って、少し口の端を上げて笑った。感情をあまり表に出すことのないヒバリさんの分りにくい機嫌の良い証拠を見つけて、ドキッとする。

「和菓子と洋菓子って確かに違いますが……老舗和菓子店の真正面で開業するほど僕は図太くありませんからね」

骸が呆れたように言うとヒバリさんが益々口の端を引き上げて笑う。そんな二人のやりとりを見て、オレも嬉しくて少し笑った。

やってみたかった幼馴染みパロです
(2011/03/05)