「そう言えばさ、骸って年末年始どうするの?」

食卓につき感謝していただきます、と両手をそろえて礼儀正しく言った綱吉はずずずと味噌汁を口にしたあとふと思いついたように骸に訊ねた。
綱吉の正面に座っている骸は「うーん」と一瞬だけ考え、答える。

「どうって、実家に帰る予定は特にありませんが……はっ。もしかして君……!?」
「うん。オレは実家に帰ろうかと思ってるよ」

「母さんも寂しがってるし、年末年始は家が一番楽だしさぁ」ともぐもぐとご飯を食べながら綱吉が特に何も考えずに言った。
大学も休み、バイトも休みの年末年始とくれば綱吉と日がな一日一緒にいれると思っていた骸はその言葉にショックを覚えてぴたりと凍り付いたまま動かなくなる。
その様子を見た綱吉は苦笑を浮かべた。

「だから骸もオレのこと気にしないで実家に戻っていいよ……って言おうと思ってたんだけど」
「戻るつもりはありません!」
「みたいだからさ、じゃあうち来る?」
「……はぁ?」


 * * *


「奈々さん、こんな感じでしょうか?」
「まぁ!むっくんたら筋がいいわねぇ」
「ありがとうございます」

結局綱吉の提案は無事に骸に受理され、大学が休みになると同時に二人は並盛にある沢田家へと帰省した。
大学の『友人』を連れての帰省をどう思われるか心配でなかったかと言えば嘘になるが、綱吉の母である奈々は息子が連れてきた友人に動じることもなく紹介した次の瞬間には受け入れていた。
自分の母親ながら恐るべき順応性の高さと、おおらかさだと綱吉は少し心配になった。
そして実の息子よりもよっぽどお手伝いを進んで行うイケメンを大層気に入ったらしく、二人は台所で和気藹々とお節の用意をしている。

(むっくんってなんだよ、むっくんって。骸は骸で母さん相手に良い顔し過ぎだし)

嫉妬と言われればそう認めるしかない感情をもてあました綱吉は見もしないテレビをつけてこたつの中でごろごろと過ごす。
どちらに対しての嫉妬かと言えば、自分よりも母親に良い顔をする骸に対してでもあり、息子よりも他人と楽しそうに過ごしている母親に対してでもあり、つまりのところ今の綱吉はどちらからも相手にされなくて拗ねている子供状態なのである。
テレビから流れるほどよい音量の音声、台所から聞こえる楽しそうな生活音、ぬくぬくのこたつの温度、いつもより豪華な夕飯でいっぱいのお腹。
全てがちょうど良く心地よさを覚えた綱吉はそのまま押し寄せる眠気に逆らう事無く、目をつむった。
若干のイライラは臭い物に蓋だ。寝ているうちに忘れるだろう、と。
すぐさま、綱吉は眠気に攫われた。




「……しくん。綱吉くん」
「ん?」
「そろそろ年越しですよ。せっかくですから初詣に行きましょう」

こたつで丸くなっていた綱吉を揺り起こした骸は既に準備万端でジャケットにマフラーを巻いていた。
その傍らにはご丁寧に綱吉のダッフルが置かれている。

「……寒いから、嫌だ」

首を振りながらふあっと欠伸を一つすると綱吉はそのままこたつの中に潜って行こうとして、骸に引きずり出されてしまう。

「行きましょうよ」
「……わざわざ寒い中行かなくてもテレビで除夜の鐘ついてるの見れるじゃん」
「そうではなくて、僕は綱吉くんと一緒に初詣に行きたいんです」

こういう関係になる前から、骸は綱吉とベタなカップルがする事をしたがる傾向があった。
それはイタリア生活が長いため普通に日本で暮らしていたら一通り友達と体験するような事を経験してきていないから、だと綱吉は思っている。
実際、本人も以前そのような事を言っていた。
そして綱吉は惚れた弱みというか、とにかく骸のおねだりには滅法弱かった。

「分ったよ……ただし着いたら甘酒奢れよ」
「そのくらいお安いご用です」

綱吉の快諾の言葉に表情を明るくし、うきうきと骸はしだす。
そんな骸の表情を見ていると寒いくらいまぁ良いかと綱吉は思い、のろのろとこたつから身体を出した。




「うーーーー寒い!」

ぶるりと震えた綱吉の手を、骸は嬉々として握り締めた。
注意しようかと思ったが、住宅街に人気は全くなく、現状誰かに見られて恥ずかしいという事もないので綱吉は黙ってそれを甘受した。
何より暖かいし、と言い訳をしながらそっと骸の様子を窺い見ると何が楽しいのか満面の笑みで、綱吉の隣を歩いている骸が目に入った。

「骸は寒くないの?」

綱吉のダッフルよりもだいぶ薄手の、ジャケットと言っても差し障りのないアウターを着て涼しい顔――寒い日にこの言葉を使うのもおかしいが――をしている骸に至極真っ当な質問を投げかけた。
薄手の革のライダースは骸には非常に似合っている事が認めるが、いかんせん寒々しい印象を与える。

「えぇ。寒さに強いのか、平気なんですよね、昔から。あと着ぶくれするのは好みません。動きにくいですし」

「あ、でも着ぶくれした綱吉くんは可愛いから好きですよ」としらっと付け足した骸に綱吉は顔を赤くした。
隣には楽しそうに笑う骸。
遠くから微かに聞こえてくる、除夜の鐘の音。
吐き出す白い息。
大晦日という得体の知れない、微妙なわくわく感。
いつもの日常からほんの少しだけ、薄皮1枚ずれた感覚が楽しくて綱吉はくすくすと笑う。

「どうしたんですか?」
「んー、今年も楽しかったなぁって思って」
「僕も綱吉くんとお付き合い出来るようになって良い1年でした」

至極当然のことのように骸が言う。
ゴーンと目指す先で鐘が鳴り響く音がする。

「そういえば母さんに何習ってたの?」
「あぁ……沢田家の味を習ってたんですよ。これで君が奈々さんを恋しく思った時に似たような味を提供出来ます!!」

自身満々に言い切りながら、「煮物って本当に家ごとに味が違うんですねー」と骸がぶつぶつ呟くのを見て綱吉の心はほっこりとする。
隣を歩く骸が急に愛しくなった綱吉は、普段なら絶対にしない事を骸に仕掛けた。

「…っ!」
「あ、あけましておめでとう!」

突然繋いでいた手を引っ張られ振り向いたところで、唇をかすめ取られた骸は手のひらで顔を覆って立ちすくむ。
悪戯が成功した子供の様に笑いながら綱吉はそんな骸を置き去りにして小走りに道を行く。

「今年もよろしくな!」

顔を真っ赤にした骸は、振り向く事のない綱吉の背中に向かって大きく頷いた。

(2011/01/04)
明けましておめでとうございます!今年度もよろしくお願いします。