age2


綱吉は真剣な表情で目の前に佇む骸をぼんやりと見やった。
とても正直な話、溜まりに溜まった書類の山を処理したいという気持ちが強いため「早く用事済ませてくれないかなぁ」と言うのが綱吉の本音である、が。
マフィアのボスというポジションに着いて早十数年。
しっかり板についたポーカーフェイスで綱吉は骸と根気強く向き合う。

「…綱吉くん」
「なに?」

ようやく口を開いた骸に綱吉は微笑みかける。
「早くオレを解放しろ馬鹿骸」という心の声は微塵も見せない。

「綱吉くん……」
「なに、骸?」

そう言えばこいつはいつからオレのこと名前で呼ぶようになったんだっけ、と綱吉はぼんやり考える。
ボンゴレ、沢田綱吉、そう呼んでいた骸はいつの間にか気付いた時には第三者のいない場所で「綱吉くん」と綱吉の名前を大切そうに呼ぶようになっていた。
その頃から、骸は綱吉に優しくなった。
見えにくい優しさではあったが、それでもそれまでの明確な殺意がなりを潜め、その下に押し殺した別の感情が見え隠れするようになった。

「綱吉くん、結婚してください」
「うん、いいよ」

だから、骸のこの言葉は綱吉にとって別段取り立てて驚く程のものではなかった。
いつかは言ってくるんだろうな、という覚悟があった。
いつ言ってくれるんだろう、という期待があった。
しかし意を決して告白をした本人にはその綱吉の思いは微塵も伝わっていなかったのか心底驚いた、という表情を浮かべた。

「え?」
「イタリアも日本も同性婚認められてないけどどうする?認めてる国行って入籍してもいいし、骸をオレの養子にしてもいいし。とりあえずオレは骸の養子にはなりたくないなぁ。形だけでいいなら、結婚式挙げる?」

何カ所か男同士でも挙げてくれる教会、知ってるし。キリスト教は同性愛認めてないのにおかしいよなぁ。

驚いて呆けている骸に綱吉は淡々とその方法を提示する。
すらすらと口から出るそれらは今し方考えながら口にしているというものではなく、何度か考えた事があると白状しているようなもので。

「綱吉くん!」
「なに?オレ、骸の養子にだけはなりたくないからそれだけは本当に勘弁して」
「じゃなくて」
「クロームのこと?クロームも一緒にオレの養子にする?」
「それでもありません」
「じゃあ、なに?」

骸はいつになく余裕のない様子で神経質そうに眉を顰める。
骸の一番言いたい事に気付いていながら、綱吉は自分からはその事に関して触れてやらない。
早く自分で言えこのヘタレ、と心の中で責め立てる。

「いつから…」
「ん?」
「いつから、気付いてたんですか?」
「あー……いつからかは覚えてないけど、なんとなく覚悟はしてたっていうか……」

一瞬綱吉は言葉を詰まらせる。
そして「まぁ今更か」と心を決めた。

「ていうか。好きでもなんでもないやつに身体許すほどオレもお人好しでも変態でもないよ」
「それは」
「正直、オマエよりオレの方がガチンコで肉弾戦やったら強いんだからな?」
「それは…」
「本気で抵抗しないでずるずるしてた時点で気付けバカ骸」
「では…!」
「だから結婚でもなんでもするって言ってるだろ」

綱吉の言葉に骸の顔がぱーっと明るくなった。
憑き物が落ちたかのように晴れやかな表情になる骸を、綱吉は少し面白くない気持ちで見返した。

「とりあえず、順番守ってみろ」
「……そういうの気にするタイプでしたか、君」
「なんか、色々、癪だろ」

ホモになったつもりなんてなかったのにオマエのせいでこれからの人生真っ暗だよ。

ブツブツと呟く綱吉の前に、骸は突然跪く。
机の影になって隠れてしまった骸を見るために綱吉は慌てて立ち上がり、机の反対側に回り込む。
忠誠を誓う騎士のようなその立ち振る舞いに綱吉は息を飲み込んだ。

「綱吉くん…お待たせしてすみませんでした」
「いや、別に…」
「ずっとお慕いしていました……改めて、僕と結婚してください」
「……」
「綱吉くん、愛してます」
「………うわー!恥ずかしい!オマエ、すっごい恥ずかしい!!」
「君が言えと言ったんです」
「誰もそこまで望んでない!」

恥ずかしい奴、と綱吉が赤面してあたふたしているとスクッと立ち上がった骸が綱吉の腕を掴み抱き寄せた。
そして耳元で囁く。

「返事はいただけませんか?」
「はいはい。結婚しましょうか、結婚」
「嬉しいです」

嬉しそうな骸とは逆に綱吉は諦めた様な表情でため息をついた。
骸の腕の中で、今プロポーズをされた世界で一番幸せな人間です!とは何百歩譲っても見えない表情で呟く。

「おっさん同士で何やってるんだろうな…もっと若ければ救いもあったんだけどな」
「君はめっきり老けましたが、僕はまだまだ若く見えると自負しています」
「あーはいはい。六道さんはいつまでも若々しくてカッコイイですよねー」
「随分投げやりですね」
「投げやりにもなるよ…もういいだろ。放して」
「嫌ですよ」

もう一度確認するように「嫌です」と呟くと骸は綱吉の唇に自分のそれを触合わせる。
「うわぁ最悪だ」という綱吉は言葉とは裏腹にどこか嬉しそうに、笑った。

(2010/09/06)
おっさん骸ツナその2。結婚申し込まれてあっさり承諾するツナ様が書きたかっただけです。