花火


「いらっしゃいませー」
「花火のお供にお一ついかがですかー」

綱吉は浴衣姿で声を張り上げながらチラッと同じように声を張り上げている隣の人物を盗み見た。
その視線にすぐに気付いた同じく浴衣を着用して隣に佇む人物、綱吉の大学の一つ上の先輩で帰国子女の六道骸、は綱吉に視線を返しニコッと微笑む。

「どうしました?」
「なんでもない、です」

とんでもない美形に見下ろされ微笑みかけられた綱吉は慌てて視線を逸らすと首を振って否定する。
特にそれに対して何も突っ込むこと無く骸は「そうですか」と視線を元に戻した。

「それにしても結構売れるものなんですねぇ」
「うん。山本が言ってたよりも売れてますよね」

世間話をするような骸の口調に綱吉は肯定の言葉を返し、頷く。
そして内心ではその理由がこの美形による客寄せパンダ効果であると確信していた。
現在進行形で二人は花火大会に向かう人たちでごった返す商店街の一角で、巻物やいなり寿司を中心とした寿司のパック販売のバイトをしている。
どうしてこうなったんだっけ、と綱吉は数週間前の出来事に思いを馳せた。


* * *


(あ、今日も囲まれてる)

試験中でいつもより人が多い気がするキャンパスを試験と試験の合間の時間に食堂で昼を取ってしまおうと綱吉は闊歩していた。
その途中のベンチに人垣が出来ているのを見つけ、その中心に少しだけ知り合いになった人物の顔を認めるとすぐに納得した。
そして見つかって巻き込まれる前に逃げよう、と息を殺して歩みを早めた所で残念な事にその姿を渦中の人物に発見された。

「沢田くん!」

話の中心から綱吉へ声が掛かると同時にバッと花道が出来、座って居た人物の姿が見える。
ニコニコと微笑みながら手にしていた本をパタンと閉じて立ち上がると「近づいてくるな!」という綱吉の気持ちには全くお構いなしでその人物、六道骸が綱吉の方へと近寄ってきた。

「沢田くんは花火大会には行くんですか?」
「え?何?」
「8月第一週にこの辺りのお祭りがあるというお話を聞いていたんです」
「そう言えば夏祭りがあるってポスター見た気がする……」
「僕が花火大会を見たことないという話をしました所、皆さんが一緒に行かないかと誘ってくださっていたんですが……」

悪い予感がした綱吉の、それはアナタだけを誘っているんですからオレの事は巻き込まないでくださいお願いします!という必死の叫びは残念ながら骸へは伝わらなかったようだ。
骸は綺麗な顔を綻ばせながら言葉を続ける。

「もしよろしければ沢田くんもご一緒にいかがですか?」

周囲の女性たちの刺すような視線が綱吉に突き刺さる。
分かってはいるが「オマエは来るな」とこうも如実に視線に出されるとさすがの綱吉もへこむ。
今すぐこの場から立ち去りたい気持ちをぐっと我慢しながら綱吉は言う。

「えっと、オレ、今日で前期試験終了なんで……そしたら夏休みになるし地元に帰る予定なんです」
「おや、そうなんですか?」
「えぇ、そうなんです。だからせっかく誘っていただいた所非常に残念なんですが……」
「なるほど……では、そういうことなら僕も今回はパスさせていただきますね」
「はぁ!?」

綱吉の言葉を受けてサラッと吐き出された骸の言葉に綱吉は目を剥く。
言葉には出さないが周囲の女性たちも同じような表情を浮かべるのが目に入った。
(気持ちは痛いほど分かりますのでオレの事を睨まないでください……)
綱吉は内心で周囲の女性達に必死に謝り続ける。
そんな綱吉の内情にはお構いなしで骸はニコニコ笑い続ける。

「ところで沢田くんの地元では花火はないんですか?」
「え、いや、ありますが…」
「もしよろしければそれ一緒に見に行きませんか?」
「はっ?」

骸の突然のお誘いに綱吉はぽかーんと口を開ける。
目の前の人物が言っている内容が全く頭の中に入ってこずもうこの場から逃げだそうかなぁ、と現実逃避をしそうになるのをぎりぎり踏みとどまった。

「いや、オレの地元、ここから1時間半くらい離れてるんですが……」
「その程度であれば全然問題ありませんよ」
「えっと……そもそも一緒に行く理由が見あたらないのですが……」
「僕は君と一緒に花火を見たい。それでは理由になりませんか?」

ニコニコと笑みを絶やさない骸がなんでもない事のようにサラッと吐き出す。
その言葉に綱吉も、周囲の人間もどん引きして笑顔が張り付く。
この男はあっさりと何を言ってるんだ?と綱吉は真剣に考える。
そんな凍り付いた空気を第三者の声が破った。

「ツーナっ!この間話してた花火大会の時のバイトの件なんだけど……あれ?もしかしてオレ、お邪魔だった?」
「いや!そんな事全然ないよ!バイトだよね!」
「それならいいんだけど……で、バイトなんだけどやっぱりお願い出来ないかな?」
「いいよ、全然やるよ!」
「マジで!助かるわ!そんなに良い給料は出せないんだけど……わざわざ花火見に行くのに寿司買う人たち居ないから忙しくないと思うから、さ」
「夏休みでバイト探してたから助かるよー」
「じゃ、詳細はまた今度」
「うん!」

会話を終了した山本が爽やかに手を振りながら「先輩、お邪魔しました」と去っていこうとした所で、黙って二人の会話を聞いていた骸が声を掛けた。

「山本くん、でしたっけ?」
「あ、はい」
「そのバイト、僕もしたいんですが募集は1名だけですか?」
「え?」
「先輩…?」

骸の突然の言葉に今度は山本と綱吉の二人が口を開ける。
そんな二人を見ながら骸はにっこりと微笑んだ。

「もしもう一人必要なら是非、僕にやらせていただけませんか?いっそバイト料なしでも構いません」

笑顔を絶やさぬまま、キッパリと言い切った骸に誰も言葉を返せなかった。


* * *


「……六道先輩はどうしてバイトしようと思ったんですか?」
「君がするって言ってたからです」

思わず聞いてしまった質問の答えに、綱吉は質問をした事を後悔する。
この目の前の帰国子女は明らかに自分と違う次元に住んでらっしゃるのか全く会話がかみ合わない、とため息をついた。

「沢田くん。これが終わったら休憩をくれるって山本くんが言ってましたよね?」
「はい。花火の間は客も来ないから休憩にするから花火でも見て来いって山本言ってましたね」
「休憩時間、一緒に花火を見に行きませんか?」

赤と青のオッドアイを綺麗に弓なりにしながら骸が言う。
綱吉が女性だったら完全に堕ちているであろう綺麗な笑みに、一瞬見とれるが自分も骸も同じ男性だと言い聞かせてぶるっと首を振った。
変に意識をしたら負けだ、この人は帰国子女だから日本人の感覚と若干違うんだ、と心の中で唱え続ける。

「そうですね。特にする事もありませんし、せっかく近くで花火やってますし……行きましょうか」

綱吉の言葉に骸は花が咲くように顔を綻ばせて微笑んだ。
その蕩けるような笑顔に綱吉は全てを忘れて顔を真っ赤にした。

「念願叶って嬉しいです。よし、もう少し頑張って残りも売っちゃいましょうか」
「は、はい……」

ドキドキと無駄に高鳴る心臓とクラクラする頭は暑さのせいで熱中症の症状が出てるんだよな!と綱吉は必死に自分に言い聞かせながら、頷いた。

(2010/08/03)
完全に方向を見失いました。六道先輩はただの顔の良いストーカーですね……