run away 2


(そもそもオレはなんで男と手と手を取り合って走ってるんだっけ…?)

一度面倒になって蓋をした疑問を再度引っ張り出してしまった綱吉はいてもたってもいられなくなってしまう。
後方からは希代の凄腕ヒットマンがもの凄い形相で追いかけてきているという生死紙一重の状況であるため足を止める事は決してしないが、一度動きだした思考のループも止まることがなかった。

「骸…」
「なんですか?」
「さすがに、もう、離せよ」

離しても逃げたりしないからさ、と付け足しながらの綱吉のお願いは「嫌です」という簡潔な言葉で拒否された。

「あー、もう、知らない!」

いつまでも平行線のままだと悟った綱吉は強硬手段に出ようと握られた手を大きく上下に振った。
突然の綱吉の挙動に一瞬骸の手が離れた、と思った瞬間綱吉の耳に「ちっ」という感じの悪い舌打ちが聞こえ、それと同時に手首に今までなかった冷たい金属の感触が発生したのを感じた。
カシャンという金属の音が悪い予感しか起こさせない。
恐る恐る視線を自分の手首に向けた綱吉は受け入れがたい現実に目を見開いた。

「オマエ、前から思ってたけど本当に馬鹿だろ!」
「馬鹿とは失礼ですねぇ。ダメツナの君に言われるとは心外ですよ」
「確かにオレは勉強出来ない馬鹿だったかもしれないけどさ……」
「自他とも認める馬鹿に馬鹿と言われるとはねぇ」
「何を思ってこんな動きにくい事するんだよ!!!」

綱吉は「悪趣味過ぎるし…」と半分諦めた表情で自分と骸の手首をしっかりと繋いでいる手錠を見つめる。
骸の能力の1つ、有幻覚で作り上げたであろうそれは本物にしか見えないリアリティさで綱吉の手首を拘束している。

「手錠で繋がれた二人が逃げるなんて逃亡者っぽくていいじゃないですか?」
「頭沸いてるだろ!?」
「どうでもいいですけど、あまりおしゃべりに夢中になってると先生に追いつかれてしまいますよ?」

チラッと骸が視線を送った先には既にだいぶ距離を詰めたリボーンの姿があった。
鬼のような形相を見た綱吉は顔色を真っ青にする。

「あいつ本気だよ!」
「でしょうねぇ」
「元はといえば誰のせいだよ!」
「僕を勘違いさせた君?」
「オレのことを有無を言わさず連れ去ったオマエだろ!」

叫んだ瞬間、綱吉は呼吸を乱し咳き込む。
気を遣ってくれているではあろうが誤魔化せるレベルではなく存在するコンパスの差は少しずつ綱吉の足に負担を蓄積させていた。
咳き込んだ勢いで疲労した足がもつれそのまま倒れ込みそうになった綱吉の腕を、骸は掴むととひょいっとその身体を抱きかかえた。

「えっ?」
「先生ともう少し鬼ごっこしたいんですよね?」
「あ、うん、出来れば」
「でしたら君の短い足で逃げるよりも僕が抱えて逃げた方が1秒でも長く逃げられると思います」
「……人間一人分抱えて走るよりも足が遅いオレって……」
「君は軽すぎて一人分にカウントするまでもありませんよ」
「……嬉しくねぇ」
「ちょっと、飛びますから掴まっててくださいね?」

骸はそう言うと宣言通り地面を軽く蹴り跳躍した。
フワッと身体が浮かび上がる感覚を覚えた綱吉は慌てて骸の首にギュッと抱きつく。
綱吉に抱きつかれた骸は「クフフ」と楽しそうな笑い声を上げた。
そしてタンッと軽い音を立て枝へと着地する。

「……オマエ、本当に中身残念なのに能力だけは高いよなぁ」
「全く褒められた気持ちになりませんが」
「褒めてないからだよ……」

「ところでさ…」男一人を抱きかかえたまま枝から枝へと跳躍するという常人では考えられない荒技を息1つ乱さずやってのけている骸を至近距離から見つめながら綱吉は切り出した。

「手錠無くなってるよね!」
「抱きかかえるに当たって邪魔でしたので」
「オマエ本当に意味分からないんだけど…」
「そんなに手錠プレイがお好きでしたらもう一度出しますけど?」
「そんな事を言ってるんじゃなくて手錠もう出すなよ!あともう大丈夫だから下ろして」

耳元で怒鳴るだけでなく全身を使って落とされてでもいいから降りようとする綱吉をもてあました骸はため息を1つつくとかなりの高さから飛び降りた事を感じさせない軽い音で地面へと着地し、それと同時にをお姫様抱っこの状態から小脇に抱えた状態へと綱吉の位置を器用に変えた。
その一連の動作の間も相変わらず骸の足は地面を蹴り、短距離走のスピードで走り続けている。

「……止まって下ろして」
「別にそれは構わないんですけど」

骸はそう言いながらピタッと足を停止させた。
そして綱吉の両足が地面についたのを確認すると腰に回していた手を離し、そのまま両手を挙げチラッと後ろに視線を送った。

「楽しそうなところ申し訳ないが、お前らまとめて、死ね」
「と言った状態になっているみたいですよ?」
「うわあぁぁぁぁぁ、リボーン!」

ガチャッと撃鉄を起こす音が不気味に森に響く。

「リボーン、話を聞いて!」
「あぁ?オレから逃げた時点でオマエはただの標的だ」
「本当にそれは謝るから一応言い訳聞いてください!」

顔面蒼白状態でリボーンに懇願する綱吉を若干庇うように立ち位置を移動しながら骸はリボーンと対面する。
そして美麗な顔に嫌味な笑顔を張り付かせた。

「アルコバレーノ。1つ、賭をしませんか?」
「賭?オマエ、オレにそんな話振れる立場だと思ってるのか?」
「賭を行うための代償として、今日と明日2日分たまったボンゴレの書類片付けを手伝いますよ」
「それだけじゃ足りないな」
「相変わらずな先生ですね。では…僕に逢いたいというお嬢さんにあって先方の機嫌を損ねることなく気分良く自主的にお断りしていただいてきましょうか」
「ほぅ……で、賭の内容は?」
「これから日付が変るまでボンゴレと僕の二人が逃げますので、君達は追いかけてください」
「で、賭けるモノは?」

リボーンの言葉に骸はニヤッと笑う。
そして綱吉の腰に再度腕を回すとそのまま後方に向かって跳躍しながら声をあげた。

「ボンゴレを僕にください」
「はぁ!?」
「面白い事いうな。オマエが負けたら?」
「ボンゴレの犬に成り下がって差し上げますよ。希望とあればマフィアどもに分かるようにパフォーマンスの1つも打ちますよ」
「交渉成立だ。今から30分後に獄寺に連絡を入れて追撃を開始するぞ。ハンデとしてオレは動かない事にしてやる」
「ありがとうございます」
「ちょっと、オレの意見は無視かよ!?」

骸はじたばたと暴れる綱吉を担ぐと自分の肩の辺りにある綱吉の耳元に囁く。

「さて、綱吉くん。愛の逃避行、しましょうか」
「オレの意見は無視かよ!しかも勝っても負けてもオレに良い事1つもないと思うんだけど!!!」
「先生から逃げ切りましょうね」
「人の話を聞けよ!」

(それにしてもこの賭って勝っても負けてもオレも骸も得しないと思うんだけど……)

(2010/04/25)
骸だけが楽しそうなお話になってしまいました……