run away


ハァハァ……

綱吉の荒い呼吸音と二人分の慌ただしい足音が深い森に響く。
心臓が限界を訴え悲鳴を上げる。脳内が血管の収縮運動によって爆発しそうな程、痛む。
静かな森の中に血液の流れる音が大音量で響き渡るようだと綱吉は思った。
限界、だ。

「ちょ、ちょっとストップ!」
「……なんですか?」

足を踏ん張り全体重を掛けて骸を停止させる事に成功した綱吉は肩を上下させ呼吸を整える。
目の前で柳眉を顰める骸は呼吸1つ乱さず綱吉を見下ろしている。

「えっと、とりあえず、手、離してくれない?」
「嫌です」
「はぁ!?」
「嫌、です」

骸はそう言うとわざとらしく握った掌に力を込めた。
そこでようやく綱吉は骸の掌に少量だが汗がにじんでいる事に気付いた。

「……分かった、よ。じゃあとりあえず今、どうしてこうなってるか説明、して」
「……君が逃げたそうにしていたからです」
「オレが?」
「えぇ。君が逃げたいという顔をしていたから、ですよ」

骸はそう言うとどんな女でも一発で落とせてしまいそうな甘い笑顔を浮かべ、頷く。
だけど生憎オレは男だしなぁ、と綱吉はため息をついた。

「オレ、逃げたそうにしてた?」
「えぇ。アルコバレーノから渡された写真を見てはため息をついていましたよ」
「……オマエ、なんでそれ知ってるの?」
「お見合い写真、だそうで」
「……そこまで知ってるんだ?」

はぁと綱吉は深いため息をつく。
その音に骸は更に眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くした。

「そんなに嫌なら逃げればいいんですよ」
「知ってるなら話が早い。任務扱いでいいから、行ってきて」
「……」
「………」

お互いに言葉を吐き出し、その内容の相違にお互いの顔を凝視する。
静かな空間に二人分の呼吸音だけが響く。

「ちょっと待ってください。君、じゃないんですか?」
「オマエ宛だから困ってたんだけど」
「君じゃないんですね……」
「オレだったらさっさと逢って来て丁重にお断り申し上げてくるから楽なもんだよ」
「なるほど…君じゃなかったんですね……」
「どうでもいいけど、行ってくれるんだよな?」
「嫌ですよ」
「……はぁ?」

急に満面の笑みを浮かべた骸は、その麗しい笑顔のままきっぱりと拒絶の言葉を口にした。
肩の重荷がなくなった!と思っていた綱吉は中途半端な笑顔のまま固まった。

「クハハハ」
「む、骸…さん。行ってくれるよな?」
「嫌ですよ」
「任務だよ!ボスからの命令だよ!!」
「嫌ですよ。なにが楽しくてそんな知らない女と会わないとならないんですか?」
「オレの護衛してたオマエに同盟ファミリーの所のお嬢さんが一目惚れしたから」
「クハッ、顔だけ見て判断するような人間になんて興味はありませんよ」
「……オマエ、なんかさっきまでと態度違いすぎないか?」
「気のせいですよ」

すっかりご機嫌になった骸の満面の笑みでのその言葉にはなんの信憑性もない。
綱吉は写真の送り主にひたすら謝罪をする決意を固め、ついでに霧の守護者の性格の悪さもばらしてやろうと思ったがさすがに自分のファミリーの内情を暴露するのは憚られたというかひたすら恥ずかしい、骸をキッと睨んだ。

「分かったよ。断ればいいんだろ」
「最初からうじうじ悩まずにそうしていればよかったんですよ」
「はいはい。で、オレ戻りたいから、離して」

「これ」と綱吉は握られたままの手を上下に揺する。
骸はそれにゆっくりと首を左右に振った。

「オマエ、本当に意味分からないんだけど!男同士が手を繋いでる現状どう考えても気持悪いだろ!」
「そんな事より、綱吉くん」
「なんだよ?」
「君のところの優しい先生が鬼のような形相でこっちに向かって走ってきてるのが見えますが、どうしますか?」
「!?」

骸の言葉に反射的に振り返ると、木々の間からちらちらと見覚えのあるシルエットが見え隠れしていた。
完全に怒りを身にまとったその人は手に愛銃を握りしめている。
確実に殺られる、と綱吉の背中を冷や汗が通った。

「とりあえず、話聞いてくれるくらいに落ち着くまで逃げたいかも!」
「承知しました。では、走りますよ」

そう言うのと同時に二人の靴は湿った土を蹴った。
後方から銃声が響く。

「あぁぁぁぁぁオレ、明日まで生きてられるかな……」
「愛の逃避行としゃれ込みましょうか」
「どこに愛があるんだよ!」
「僕たちの間にですよ」
「あるわけないだろぉ!」

静かな森に綱吉の絶叫と骸の個性的な笑い声とリボーンの銃声が響き渡った。

(2010/04/24)
シリアスの予定が……