「お待たせ……っと」
仕事を片付けて凝り固まった首と肩をぐるぐる回しながらソファに近づいた綱吉は、そこで待っている骸に声をかけようとして口を閉ざして立ち止まる。
非常に珍しい事に骸は長い足を組んだままお行儀良くソファに腰掛け、寝ていた。
「うわー……こいつってやっぱり顔だけは本当にいいよなぁ」
思わずそんな感想が口からこぼれ出る。
起きている時でも充分人間離れした顔の男だが、目を閉じて身動き一つしないでいると精巧に出来たビスクドールのようだ。
色白できめの細かい肌は陶器のようで、一見血が通っているようには見えない。
ジーッと骸の寝顔を見つめていた綱吉はふと恐怖に駆られた。
「生きてる、よな?」
一度口に出すと不安が頭から離れなくなる。
今すぐ手を伸ばし頬に触れ、温度を確かめたい。
しかし触ればさすがに目を覚ますだろう。
そんな危険を犯すような事は出来ない、と首を振って衝動を押さえ込みつつ、呼吸音を確かめようと距離を縮める。
「………」
しばらく逡巡した綱吉は、そっと手を口元にかざした。
綱吉の手の甲に一定のリズムで微かに生暖かい空気が触れる。
そのことに安堵しつつ、それでもまだ若干の不安を振り払えない綱吉は今度は口元に顔を近づけた。
「睫毛長いな……」
その途中でふと骸の目元が目に入り、綱吉は動きを止めた。
男にしては長い睫毛が呼気に合わせ、微かに震える。
その様は強烈な色気を孕んでいる。
「う、うわ……」
綱吉は骸の顔から目を逸らせなくなる。
耳を顔に近づけると微かな呼吸の音が聞こえる。
それにあわせのど仏が震える。
唇が震える。
睫毛が震える。
「………」
何かに吸い寄せられるように綱吉は自分の唇を骸のそれに重ねていた。
「ひっ」
自分の衝動的な行動に自分で驚いた綱吉は出掛けた叫びを両手で押さえ、その場から大きく後ずさる。
「あ、あ、あ、」
声にならない音を漏らし狼狽する。
視線は骸の唇に固定されたまま、逸らすことが出来ない。
(今の、何、だよ、)
(2010/03/27)
ツナ骸っぽいのが書きたくなったのであります。