明日の行方


「10代目、あの、明日の件なんですが…」

ノックをしながら執務室へと入室した獄寺隼人は彼らしくなく歯切れの悪い口調でそこまで言うと、綱吉の目を正面から見つめた。

「また、お断りの連絡が、きた?」
「……はい」

やっぱり来たかー。
綱吉はそう呟くと手にしていた万年筆をコロンと転がし、椅子に腰掛けたまま伸びをした。
自分に落ち度は何一つないのに獄寺は申し訳なさそうに体を小さくする。

「理由は聞いた?」
「はい。『娘が好きな人が出来たからお見合いは出来ないと言っていて…本当に申し訳ありません。いくらでもこの償いはさせていただきます』だそうです」
「理由もほとんど一緒だね」
「はい……少し調べてみたところまた」
「背の高いキレイな顔をした長髪の男がお相手?」
「……はい」

はははははー。
綱吉の乾いた笑い声が部屋に響いた。
そしてそのまま机に突っ伏する。

「10代目…!」
「うん、大丈夫だよ。隼人……召集かけてくれる?」

オレの霧の守護者に。
顔を上げず、右手をヒラヒラ振りながら綱吉は言った。


****************


「お呼びでしょうか、ドン・ボンゴレ」

同性から見てもほれぼれしてしまうような胡散臭い事極まりない完璧な笑顔を浮かべながら骸が綱吉へと歩み寄る。
綱吉はチラッと侵入者に視線を送るとすぐさま手元の紙に視線を戻し、手にした万年筆ですっかり書き慣れたサインをし、ペンを置いた。

「呼び出された理由に心当たりは?」
「さぁ?最近は特に君に不利益になるようなおいたはしてませんから分かりませんね」
「ふーん……オマエ、最近女性口説いてたりしてない?」
「いえ、身に覚えがありませんね」

人違いなんじゃないんですか?
骸がそこまで言った所で綱吉はカッと目を見開いて椅子を倒しながら乱暴に立ち上がった。

「オマエは本当に何がしたいんだよ!?」
「何のことですか?」
「とぼけても無駄だよ!オマエ、オレの見合い相手にちょっかい出してるだろ!」
「ちょっかいを出すなんてそんな事してませんよ」
「オマエ以外に誰がいるっていうんだよ!」
「ちょっかいなんて出していません。少しお話をしたら先方が勝手に勘違いして、舞い上がられた事は何度かありましたが」
「だから!それが!」

悪びれもせず言う骸に綱吉が地団駄を踏むかのような勢いで食いつく。
しかし骸は我関せずで、最初に顔に貼り付けた表情を保っている。

「本当にオマエの考えてる事が全く分からないんだけど……そりゃオレが結婚したら11代目が産まれてオマエの嫌いなマフィアが次の代まで続いちゃう可能性があるかもしれないけどさぁ……」

オレもそろそろ身を固めないと本当にまずいんだからな!オマエと違って相変わらずモテないしさ!
ガシガシと頭をかきながら綱吉は倒れている椅子を起こし、そこに深く腰掛けため息をつく。

「とにかく、別に結婚したからって産まれてくる子供にボンゴレ継がせようとなんてするつもりないし、そもそもオレの代でボンゴレは潰すつもりだし。無駄な横やりやめてくれない?ボンゴレは10代目で終わらせるって約束するから、さ」
「………君はそこが問題だと本気で思ってるんですか?」
「は?」

ポーカーフェイスを一転して崩し眉間に皺を寄せた骸は大股で机まで近寄るとそのまま両手をバンッと天板に叩きつけた。

「所詮、君の所にお見合いを申し込んでくる女なんて君自身ではなく『ボンゴレ10代目』の名が目当てなんですよ」
「あー…まぁそうだろうねぇ」
「だから少し見栄えの良い男に言い寄られるとすぐにそちらに靡いて尻尾を振るんです」
「はぁ……」
「何がしたいと言いましたよね?」
「あ、うん」
「何かをしたい訳じゃありません。むしろ僕は、君に何もさせたくないんですよ」

骸の勢いに圧倒された綱吉がキョトンとした表情で骸を見上げる。
骸の言っている意味が分からない綱吉は首を傾げながら言葉を頭の中で反芻する。

「鈍くて頭の回転が悪い君にははっきり言葉にしないとダメでしたね」
「……鈍くて頭の回転が悪くて悪かったな。そうしてくれると助かる」
「君は結婚する必要なんてありません」

そう言うと骸は綱吉の襟元を掴み、10年の月日を経ても本人が期待していた程大きくならなかった、その他の人間からしてみれば予想通りの、その体を引っ張り上げると無理矢理唇を塞いだ。
子供の癇癪の末の結果のように乱暴な口づけは、ただ唇を触れ合わすだけで終わる。
突然の骸の行動に頭がついていけず混乱のまっただ中に陥れられた綱吉が「え?え??今の、何?」と大きな瞳を見開く。
骸はそのこぼれ落ちそうなほど大きな瞳を覗き込んで、言った。

「結婚なんてするな。君は僕だけを見ていればいいんだ」

パチリと綱吉は瞬きを一つして、目の前の男の初めて見る表情を見つめた。

(2010/03/13)
狭量で余裕のない骸が好きです。