甘い贅沢


パチンパチン

ベッドの縁に腰掛けた綱吉は、自分の足下に跪き壊れ物を扱うように足を手に取り丁寧に爪を切る男を見下ろした。
秀麗な顔を嬉しそうに綻ばせながら、男にしては白くて細い綱吉の踝を時折撫でる男を。
くすぐったいから辞めて欲しいな。それが綱吉の本音である。
綱吉の視線に気がついたのかその男、六道骸は視線をスッとあげた。

「どうしましたか?」
「……オマエって本当に恥ずかしい男だな」
「そうですか?」

上機嫌でクフフと笑うと、わざとらしくツーッとつま先から臑まで指を滑らせる。

「君は爪の一つ一つまで本当に愛らしいですね。小さくて形が良くて可愛らしい爪です」
「……だから、それが恥ずかしいって言ってるんだよ!」

身長差の関係で見上げるのが通常状態の男の上目遣いというものもまた綱吉に羞恥心を覚えさえる要因の一つになっている。
この視線の角度は恥ずかしい行為を思い出させるから、良くない。
更に言えば、骸の顔が近い距離にあるのも、良くない。
綱吉は骸の顔に滅法弱い。それは自他共に認める所だ。
「君は僕の顔だけが目当てなんですね」と時々戯言を言いながら嘘泣きをする骸に「うん、実はそうかもしれない」と何度か素で返して本気で泣かれて暴れられ、宥めるのにあの手この手……最終手段として身体も、を使って苦労した苦い経験もある。

「足も白くて細くてキレイですよね。君、本当に男なんですか?すね毛なんて生えてないじゃないですか?」
「うん、もうオレが恥ずかしすぎて死にそうなんで口閉じて作業に戻ってください。あと、オレは男だよ!」
「それは残念ですね…女だったら手っ取り早く僕のモノに出来るというのに」
「あーあーあー!何も聞こえません!」

両手で耳を押さえながら声を上げる綱吉に骸はクフッと笑いかけると、視線を足先に戻し爪を切る作業を再開させる。

パチンパチン

1本切っては丁寧にやすりがけをし、フーッと息を吹きかけていく。
あまりにも丁寧に扱われるため、綱吉は自分が何か特別な存在なのかと錯覚しかける。
危ない危ないと首を横に振りながら、どうしてこうなったかと綱吉は数十分前の出来事を思い返した。


 * * * * *


パチンパチン

綱吉が風呂から上がって2階にある自室に戻ると部屋の中から軽快な音が聞こえた。
首を傾げながら部屋に入ると床に片足を立てた状態で胡座をかいた骸が爪を切っていた。
どうしてオマエがここにいるんだよ!
とか
いつの間に、どこから入り込んだんだよ!
とか突っ込みを入れる余裕もなく綱吉の視線はその姿に釘付けになった。

パチンパチン

パンツの裾を少したぐりあげ、キュッと締まった足首をさらし、少し眉間に皺を寄せながら爪を切る六道骸の姿。
足の甲に浮いた筋と血管。
プールの時に見かけた同級生の半分にあった指毛などない、手の指を同じくすっと細く長い足の指。
綱吉に比べ大きめの爪。
それを切るために俯いたせいで見えているうなじ。頬に流れる長めの髪。
その一つ一つから中学生とは思えない圧倒的な色気が漂っている。
ただ爪を切ってるだけだというのに絵になるなんて、美形は得だよな!と綱吉は少し悔しくなった。

「……そんなに熱い視線で見ないでいただけますか?恥ずかしくなります」
「オマエにも羞恥心とかあるんだ?」
「相変わらず失礼ですね。泣きますよ?」
「オマエも爪、切るんだな」
「まぁ僕も人間なので髪も爪も伸びますからね」
「そう、だよな」

更に言うと、爪を切るという骸に似合わない所帯じみた行為に戸惑っているのも事実だ。
六道骸という男の存在は綱吉にとってあまりにもミステリアス過ぎるため、心を許した人間、この場合は綱吉を指す、に対してのみ時折見せる人間らしい生活感に見てはならないものを見せられているような……例えばアイドルや芸能人のプライベートをのぞき見るかのような、罪悪感にも似た感情を抱いてしまう。
骸も同じ人間だ、と頭では分かっているのにいつまで経っても生活感ある骸に綱吉は慣れないのである。
例えばこれが獄寺や山本、もしくは雲雀ならば綱吉も素直に納得出来る。
彼らは綱吉と同じ学校に通い生活を送る、少しばかり特別な事情はあるにしろ、至って普通の中学生だ。
しかし骸はその「少し事情を抱える普通の中学生」の枠からも大きく逸脱した存在なのだ。
だから、そんな骸の「普通」な「所帯じみた」所を見ると心の中がむずむずとくすぐったくて仕方なくなる。
そんな思いを抱えた綱吉のまっすぐな視線に気付いた骸は視線は自分の爪に固定したまま、言葉を発した。

「おや…もしかして君も切って欲しいんですか?」
「え?」
「爪、伸びてますよ?」
「え、あ」
「待っててくださいね、終わったら切って差し上げますから」


 * * * * *


そして冒頭に戻る。
何が楽しくて同性の足を至近距離から舐めるように見ながら爪を切ってるんだろうこの男は。
そう思わなくもないが、そこについて考え出すときりがないのでその考えは横に置いておく。

「骸はこんな事やってて、楽しいの?」
「えぇ。君の世話焼けるなんて嬉しい限りですよ」
「変な奴」
「君の周りには人間が多すぎます。いつでも人で溢れています。僕の入り込む隙間なんてわずか、なんですよ」
「そんな事、ないよ」
「あります」

ですから、こうして二人だけの時間を持てるのが嬉しいんです。
骸の言葉に綱吉は「オレのこと、甘やかすなよ」と呟く。

「甘やかしてなんていませんよ。出来る事なら君をどこか誰からも隔離した場所に閉じ込めて、君の面倒は全て僕が見たいくらいなんですから。君はただ、お人形のように座って居てくれればいい」
「……オマエ、怖いよ」
「えぇ。君がそれを許してくれないのも、嫌がるのも分かって居ますからしませんよ」
「一生自重してくれると嬉しいです……」
「君が僕を捨てなければ、大丈夫ですよ」

終わりましたよ。
骸はそういうと手にしていた綱吉の足を床にそっと置いた。
その声と動作を合図に綱吉は切って貰った足の爪を確認する。

「うわー…どうやったらこんなにキレイに出来るんだよー!」
「君と違って器用なもので」
「これ、女の子にやってあげたら喜ばれるよ、絶対!」
「君は、僕が見知らぬ女の足下に跪いて奉仕する姿が見たいんですか?」
「……その言い方は違うと思うけど……」
「けど?」
「確かに、嫌だ。骸がオレ以外に触れるのはなんか、嫌、だな」

普段滅多に口にしない綱吉の独占欲の欠片に、骸は破顔する。
その笑顔に綱吉は「え?オレなんか変な事言ったっけ?」と内心で焦り右往左往する。

「約束します。僕は君の爪以外、他人の爪は切りません」
「あ、うん、ありがと?」

綱吉が首を傾けながらお礼の言葉を口にすると同時に、いったん床に置いた綱吉の足を骸が再度手にする。
そして自分の目線の高さまで持ち上げると、キレイに整えた指先に、唇を落とした。

「え!?な、なに!?足なんて汚いから辞めてよ!」
「君の身体はどこもかしこもキレイですよ」

そう言いながらちゅっちゅっと音を立てながら全ての指にキスを施す。
骸の色気に耐えきれなくなった綱吉は骸から目をそらす。
その隙を見逃さず骸はそのまま綱吉をベッドに押し倒し、マウントポジションを取った。

「え、えっと…骸さん……?」
「君の可愛い爪を見てたら欲情してしまいました。責任取ってくださいね」

(2010/02/10)
いつもながらに寸止め終了。「爪を切る骸」というお題をいただいたので書いてみました!