賽は投げられた


「クロームっていつも爪、キレイにしてるよね」

報告書を手にやってきたクロームの指先を見て綱吉はなんとはなしに呟いた。
その言葉にクロームはサッと頬を染める。

「これ、骸様がやってくださるの」
「え?」
「どんなに忙しくても週に一度二人の時間を作ってくださる、の」
「へぇ…そうなんだ……」

そう言って嬉しそうに微笑み、キレイに整えられた爪先をそっと撫でるクロームの姿を、綱吉は微笑ましいなと思うと同時にもやもやとした気持ちを腹の底に抱えながら、見つめ返した。


**************


「これが今回の報告書です……どうしたんですか?」

そう言いながら紙の束、今のご時世わざわざ紙媒体でなくメール1本で済まして良いという綱吉の言葉は守護者全員にキレイにまるっと無視されている、を差し出す骸の指先を、綱吉は凝視した。
その視線に気付いた骸が自分の指先に目をやり、変わったところが無いことを確認し、首を傾げた。

「僕の指がどうかしましたか?」
「……別に」

綱吉はそう言うと骸から報告書を受け取りあからさまにプイッと視線を逸らした。
そんな綱吉の様子に骸は少し、ムッとする。

「僕が、どうかしましたか?」
「……骸はどうもしてないよ」
「では、誰が?」

答えながらも綱吉は骸の方を一切見ようとせず、視線を漂わせる。
そんな綱吉を若干のいらつきと共に見つめていた骸は、綱吉の視線がチラチラと己の指先付近を漂っている事に気がついた。

「綱吉くん。僕と君の指先…爪がどうかしましたか?」
「ど、どうもしてない」

頑なに何でもないと言い張る綱吉に痺れを切らした骸が詰め寄ると机越しに強引に腕を引っ掴んだ。
綱吉の身体がビクッと強張る。
最近は見なくなった自分に怯える綱吉という構図に骸は明らかに気分を害された表情を浮かべた。

「僕は残念ながら超能力者ではありませんので、言っていただかなければ分かりません」
「なんでもない」
「なんでもない、という表情ではありませんよね?」

骸から視線を逸らそうとした綱吉の顎を掴むと、骸は真っ正面から綱吉の瞳を凝視した。
赤と青の色違いの瞳が自分を射貫く感覚に、綱吉は背筋に冷たいモノが滑り落ちる感覚を覚える。

「観念して言っていただきましょうか」
「本当に、なんでも、ないよ……」
「君は相変わらず強情ですね。言わないと実力行使しますよ?」
「……だって!クロームに嫉妬したとか馬鹿馬鹿しすぎるだろ!!」
「……はっ?」

突然癇癪を起こした子供のように急に声を張り上げた綱吉に、骸はあっけにとられる。
そんな骸は既に目に入らないようで、綱吉はそのまま箍が外れたかのように言葉を吐き出す。

「骸がクロームを妹とか娘とか…そういう家族に対する感情で大切にしているの知ってるよ!だけどさ!オレの所には任務後の報告と時々気が向いた時にしか来ない癖に、クロームとは週に一回時間を作って二人で過ごしてるってさ、なんだよそれ!」
「つ、綱吉くん…?」
「忙しくてもクロームのために時間は作れるのに、オレの為には作れないっていうのかよ!」
「ちょっと」
「オマエがマフィア嫌いなのも知ってるけど、オマエはオレの守護者だろ!」
「綱吉くん!」

骸が綱吉の両腕を掴み、声を張り上げると同時に綱吉の動きがピタリと止まる。
そして顔を真っ赤にしたかと思うと一転真っ青へと変化させる。
視線は決して骸に焦点を合わせようとせず、辺りを頼りなく漂う。

「な、なーんてね」
「綱吉くん」
「うん、ありがとう。報告書、確かに受け取ったから、お疲れ」
「綱吉くん」
「次の任務はまた連絡するから帰ってい」
「綱吉くん。僕は少し自惚れてもいいのでしょうか?」
「な、なんのこと?」
「クフフ、僕は今とても気分がいいですよ」
「そ、それは良かったな!じゃ、今日は気分が良いまま」
「気分が良いまま、君を攫ってしまうとしましょうか」

お望み通り、君のための時間を作って差し上げますよ。
耳元でそう囁かれ自分の失言を認めた綱吉ががっくりと項垂れたのを確認すると、骸はそのまま大人しくなった綱吉を担ぎ霧の守護者の名を体現するように霧散する。
部屋主の居なくなった執務室に残された報告書が風に吹かれパラパラとめくれていた。

(2010/01/31)
時々綱吉がきちんと好きな話も書かねば骸が可哀想なので!