なんとなく寝苦しさを覚えた綱吉はベッドからのそりと起き上がると枕元の水差しから水をコップに移し一気に飲み干す。
室温に暖まった水が喉を通り、胃へと落ちていくのを感じながら何かに惹かれるようにベッドから降り窓に近寄った。
そして無意識にカーテンの隙間から屋敷の外を見下ろして…ジッと綱吉の部屋を見上げている六道骸に気付いた。
骸の姿を認めた瞬間反射的にコートを手にした綱吉は自室を飛び出していた。

月が笑う


「骸、何してるの?」

パジャマにコート、足下はスリッパと、優しい家庭教師や心配性の右腕に見られたらお説教を受けかねない軽装で綱吉は骸の元へ駆けつけ息を整えながら声を掛けた。
綱吉が部屋から出てきた事に気付いていた骸は笑顔で迎える。

「ちょっと…お月見、といった所ですかね」

そう言って夜空を見上げる骸の視線に釣られ綱吉も視線を空に移動させた。
真っ暗な空間に、毒々しいほど深いオレンジに見える丸い月が浮いている。

「今日、満月なんだ…なんか月が大きく見えるね」
「そうですね」

クフっと綱吉に視線を戻しながら骸が柔らかく笑う。
それは何かを綱吉から隠すかのように見えた。

「で、本当に何してたの?」
「本当に月を見てただけですよ」
「……オレの部屋見てただろ」
「あぁ気付いてましたか?」

綱吉の言葉を否定することなく簡単に骸は肯定する。

「綱吉くんは、月と潮の満ちかけの関係をご存じですか?」
「うん」
「ではそれらが人間の体内にも影響を与えているという説は?」
「聞いたことくらいならある」
「なるほど」

「結局はこじつけに過ぎない理論なんですけどね」と前振りをしながら骸は楽しそうに笑う。
そのどこか演技掛かった姿に綱吉は「胡散臭いなぁ」と思いながらも惹かれる。

「人間の体内でも…血液が、ですかね。月に引かれ満月の夜には犯罪率が高くなる、女性の月経も月に影響を受けているなどと言われています」
「そうだね」
「おとぎ話的な所で言えば狼男もその一種ですね」
「あぁ確かに」
「月には…人を狂わせる何かがあるんでしょうね」
「……確かに」

月夜の繊細な光を受けて、骸は微笑む。
その笑顔はいつもと変わらないはずなのにどこか狂気じみて見え、綱吉は背中を震わせた。
そんな綱吉の気持ちに気付いた骸はクフッと益々楽しそうに笑う。

「僕も、満月を見ると気持ちが高揚してしまいましてね。ついつい破壊衝動が顔を出してくるんですよ」
「オマエっ」
「ご安心ください。だからこうして綱吉くんの側にきているんですよ」


君は僕の中のわずかな良心を思い出させてくださる光なんですよ。
君の僕に及ぼす影響の前には月の力など無力ですよ。


歌うように骸が嘯く。

「……それは、おかしいよ」
「おかしくなんてありません」
「オレが光?それなら下か見上げてないで、オレの所に来いよ」
「光の魔力にやられてしまうのが怖くて、ちっぽけな僕は光に近づけないんです」
「……よく言うよ」

言葉遊びを楽しむかのような骸に綱吉はため息をつく。
そして一歩近づくと骸の手をギュッと握りしめた。

「何があったのかは分からないけど、オレは月じゃないんだから遠くから見てないでちゃんと隣に来て。触れて、確かめて」

オレをもっと頼ってくれていいんだよ?頼りないかもしれないけど。
綱吉はそう言うと骸の痩身に抱きつく。
真っ赤になった顔を骸から隠すように胸元に埋めながらもごもごと言葉を続ける。

「オレはこうして骸に触れたいと思ってるし、寂しくなったら隣に居て欲しい。骸が月の力に負けそうだっていうんなら、オレが月の光を遮ってやるから…だからちゃんとここに来いよ」
「綱吉くん…」
「オレ、身体は大きくならなかったし貧弱かもしれないけど、それでもオマエの思ってるほど脆い人間じゃないんだよ?」

おかげさまで神経は図太くなったしさ!
開き直った綱吉は自虐的な事を言う。

「オレをもうちょっと頼って?」
「……クハハ!相変わらず君にはかないませんね。満月の夜は……幼い時の、この目を手にした時の記憶が蘇ってくるんですよ」
「そうなんだ」
「ちょっとばかり自制するのがきつくなるんですが…君にこうして貰っていると落ち着きます」
「うん、じゃあ今度はオレの所にきちんとおいでよ」
「そうですね。綱吉くん、」

骸の呼びかけに綱吉が顔を上げるとそのまま骸が唇を触れ合わせてくる。
最初はついばむように。綱吉が抵抗しない事を確認すると、角度を変えて何度も軽く触れ合わせるだけの軽いキスを繰り返す。
少し焦れた綱吉が唇を開くと、それを待っていたかのようにぬるりと舌を差し入れ綱吉の腔内を蹂躙する。
骸の性格の悪さを示すようにしつこく濃い口づけに綱吉が降参しガクッと膝を折りそうになった所で抱きかかえるように身体を支えられ、ようやく綱吉の唇は解放された。

「……しつこい」
「つい、綱吉くんが男前だったので」
「ここ外だろ!誰が見てるか分からないだろ!」
「男前過ぎる綱吉くんがいけないんですよ」
「もう膝が震えて歩けない。……責任持って部屋まで抱っこしろ」
「そんな事でいいなら、おやすいご用ですよ」

ひょいっと綱吉の細い身体を横抱きにすると何も持っていないかのような軽く足取りで骸は屋敷の中に入っていく。
すっかり調子を取り戻した骸に安堵した綱吉は、そっと骸の顔を見上げ、骸に気付かれないようにキレイに微笑んだ。

(2009/12/17)
綱吉は骸の心の支えだろうな、と。