心理迷宮


それは一瞬の出来事で。
綱吉の視界が赤で染まった。

「骸っ!」

何かを頭で考えるよりも早く原始的なレベルで身体が動く。
綱吉は自分を庇った骸に近寄ると血を流す腕を掴みあげた。
骸の目の前には男、恐らく自分を狙った刺客と思われる、が既に事切れた状態で横たわっていた。
相変わらず見事なお手前だなぁ、と自分の意志とは関係ない部分で思っている自分が居る事に気付き綱吉は思わず舌打ちをする。
そして頭を振ると骸の顔を覗き込んだ。

「オマエ、何してるんだよ…!?」
「ボンゴレを暗殺しようとしている刺客が居たので撃退したまでですが?」

何の問題がありますか?といった風情で表情一つ変えることなく骸はそう返す。
まるでそれが自然の摂理だ、と言わんばかりの口調と表情に滅多に怒らない綱吉は激昂した。

「オマエくらいの戦闘力があれば素手でナイフ掴むなんてする必要ないだろう!?」
「あぁ……そう言われればそうですね」

どこかぼんやりした口調で呟く骸を無視して綱吉はナイフを固く握りしめた指をそっと開かせ、ナイフを投げ捨てた。
男にしては細く綺麗な、それでも綱吉よりは大きい、白い手のひらにまっすぐ走る赤い線を見て綱吉は顔を歪める。
基本的に刃物というものは横滑りさせない限り傷は深くはつかない。
それが幸いし傷は見た目と血液量から考えるよりも浅いものだったため、安堵のため息を吐く。
が、すぐにキッと骸に顔を向ける。

「刃物に即効性の毒物が塗ってあったらどうするつもりだったんだよ!?」
「あぁ……そういう可能性もありましたね」

常の彼らしからぬぼんやりとした口調に、遅効性の毒が回り始めてるんじゃないか?と綱吉は焦る。
とりあえず応急処置をしなきゃ、と数秒考えた後持っていたペットボトルの水で流れ出る血を一度流し、自分のシャツからネクタイを引き抜くと骸の手のひらをギュッと強く縛った。

「オレにはこれ以上出来ないから…早く戻ろう。すぐに迎えが来るから」
「そう、ですね」
「……オマエ、大丈夫?オレなんかより毒に詳しいだろ…何か塗ってあった?」
「いえ、ただの素人っぽかったのでそこまで用意していないと思いますよ。それに傷口も切創痕以外は特に異常はないと思います。まぁ何針か縫う事になるかもしれませんけどね」
「……そこまで冷静なのに何ぼんやりしてるんだよ?」

冷静に自分の傷口について語る口調はいつもの骸のため、余計に先ほどまでのぼんやりした表情が綱吉の中で引っかかりを覚える。
そう思いながら骸に視線を向けると、傷口について語っていた時とは打って変わった表情に戻っている。

「なぁ、骸どうし」
「あぁ、分かりました!」

問いただそうとした瞬間骸が両手をぽんと打とうとして、傷を負った右手を綱吉に握られたままだと気付き動きを止める。

「分かったって何が?」
「君が言うようになんで手が出たか考えてたんです」
「うん」
「本当に何も考えずに咄嗟に手が出たんで不思議だったんですよ」
「うん」
「どうやら僕は君が刺されると思った瞬間とても嫌な気持ちになったみたいなんです」
「…うん?」

話の流れが自分の予想外の方向になってきたぞ、と綱吉は内心で眉を顰めた。

「僕は君が傷つくのは我慢出来ないみたいです」

どうしてでしょうかねぇ。
とさらなる問題に突き当たった様に首を傾げる骸の手を離すタイミングを失った綱吉が内心で絶叫する。

(えー、ちょっと待てよ!それって、)

(2009/12/12)
恋愛初心者同士のなかなか動かない恋心。