優しい嘘


綱吉はソファに深く腰をかけながら目の前の男をジッと観察していた。
かれこれ30分近くも飽きることなく自分の足を丁寧に丁寧にマッサージをしている男を。

「……オマエ、こんな事して楽しいの?」
「ええ、とても」
「……ならいいんだけどさ」

(気持ちいいから問題はないんだけどさ…)
笑顔で肯定した男、歴とした綱吉の霧の守護者である、六道骸を綱吉は感情の籠もらない瞳で見つめた。
その間にも骸は持ち込んだマッサージオイルを丁寧に綱吉の足に塗り込みながらマッサージを続けていた。
足の指一本一本を懇切丁寧に触る骸の手のひらの心地よさに綱吉はだんだん眠気を覚え、目を開けているのが辛くなる。
一生懸命開こうとしてはくっついてしまう己の目蓋と格闘する綱吉を見た骸は「クフッ」と珍妙な笑い声をあげた。

「綱吉くん、眠くなったのですか?」
「うん…オマエの手って気持ち良いよな……触られてると眠くなる」
「随分嬉しいことを言ってくださるんですね」

嬉しかったのでサービスしますよ。
心持ちいつもより明るいトーンの声音が耳元に響くと同時に綱吉の身体はフワッと持ち上げられた。

「うっわぁっ」
「ベッドまで運んで差し上げます」
「自分で歩けるから…!」
「サービスですよ……君、また痩せましたか?」
「持っただけで分かられる程急激に体重は減ってない…はず」
「と言うことは実際に痩せてるって事ですよね?」
「あっ」

しらばっくれるつもりで口にした言葉で逆に断定されてしまった綱吉は自分を凝視する骸の視線に居心地が悪そうに顔を背けた後、顔を隠すために薄いが広い骸の胸に顔を埋める。
そんな綱吉の様子を黙って見ていた骸はため息をつく。

「食事はしてますか?」
「してる」
「3食きちんと?」
「……時間があれば」
「最後に食事を取られたのはいつですか?」
「………」

骸の問いにもごもごと顔を上げる事無く答えていた綱吉だったが、都合の悪い質問に対し黙秘を決め込んで視線から逃れるかのように骸の胸にますます顔を押しつけた。
顔を隠してしまった綱吉の頭上で骸が小さくため息を吐く。

「君はどこもかしこも細すぎます。この細腕で拳を武器に戦うだなんて思えませんね」

そう言いながら骸は綱吉の身体をベッドにそっとおろす。
そのまま自分はベッドの端に腰を下ろし綱吉の腕を手に取るとスーッと撫で、今度は腕を丁寧にもみほぐし出す。
足と同様に指の1本1本まで丁寧に丁寧に強くも弱くもないちょうど良い強さで刺激する骸に綱吉は視線をやる。

「骸…大丈夫だよ」
「君はとても暖かいですね。まるで子供のような体温だ」
「暖かいのは生きてるからだよ」

綱吉の言葉に骸は軽く首を振るとクルッと綱吉の身体を俯せにし、ギシッとベッドに乗り上げる。
そうして今度は首から背中、腰と撫でるように触れていく。

「今、少しでも力を込めたらどうなりますかね?」

再度首元に戻した手を綱吉の細い首にそっと這わせてそう呟く。
骸の指先に力が入るのを感じながら綱吉は枕に顔を押しつけ全身の力を抜いた。

「大丈夫だよ、骸。オレはそんなに簡単に死なないよ」

緊張からか骸の指先に更に力がこもるのを感じたが綱吉はそれを咎めない。
コホッと軽く咳き込みながら言葉を続ける。

「オレは…オマエを置いて死ぬなんて出来ないよ。だから死なない」

ギュッと更に強い力が加わり綱吉は呼吸が出来なくなるが、すぐに指が解かれる。
新鮮な酸素を求めて何度か浅い呼吸を繰り返す綱吉の上にフワッと骸が覆い被さるように倒れ込んでくる。

「綱吉くん…」
「はいはい。ここに居ますよ」
「綱吉くん……」
「はいはい。骸くんの綱吉くんはここで息してますよ」
「綱吉くん………」
「はいはい。骸くんの大好きな綱吉くんはここで必死に生きてますよ」
「綱吉くん……大好きです」
「うん、知ってるよ」

顔見たいから上からどいてよ?
綱吉がそう言うと骸はそのままギュッと綱吉の小さな身体を抱きしめる。

「嫌です。……ちょっと、今は見られたくありません」
「骸の情けない顔なんて見慣れてるから平気だよ」
「僕が、嫌なんです」

「はいはい。骸はいつまで経っても子供だねぇ」と苦笑する綱吉の茶色い髪に骸は顔を埋め綱吉の匂いを肺いっぱいに吸い込む。
ドクドクと触れ合った箇所からお互いの鼓動の音が身体に響く。

「オマエの事が心配過ぎて死んでなんていられないから、大丈夫だよ」

綱吉の声に骸は小さく頷いて、柔らかな髪に口づけをそっと一つ落とした。

(2009/12/09)
綱吉がミルフィに乗り込む前夜のお話。それを察知してるけど止めることの出来ない弱い骸と決意を固めた頑固な綱吉。