我が儘なオトナ


「髪伸びた…んですね」
「えぇ」

綱吉は正面に座る端正な顔をした男の伸びた髪をマジマジと見つめた。
綱吉の知っている骸の10年後の姿は、整った顔はそのままで元々高かった背は更に上へ伸び、細いものの全体に無駄なく筋肉がついている事が分かる均整のとれた身体、特徴的な房はそのまま襟足が腰辺りまで伸びるという成長を遂げていた。
有幻覚で初めてこの姿と再会(というのだろうか…?)した時には他にも色々と言うべきことはあったのに真っ先に口に出たのは「髪が伸びてる」だったくらい綱吉にとってインパクトの強い変化だった。

「どうして伸ばした…んですか?」
「君が…10年後のボンゴレが似合うと言ってくれたからですよ」
「オレが?」
「えぇ。君が、です」

(10年後の骸とオレってそんな普通の会話が出来るくらいには距離が縮まってるのかな?)
10年前からは考えられない距離感に綱吉は居心地の悪さを感じる。
居心地が悪いと言えば何故か骸と向き合っているこの状況こそが居心地が悪いと綱吉は先ほどからバクバクと大きく鼓動する心臓をそっと押さえた。

「ふーん…でも確かにとっても似合ってますよね」
「クフ、ありがとうございます。それから敬語は必要ありませんよ」
「でも」
「君に敬語を使われるのに慣れていないので」
「あ、はい…」

満足そうに微笑む骸に綱吉は更に落ち着きのない気持ちになった。
あまりに自分の知っている六道骸の持つ空気と違う目の前の大人の存在に多大な疑問を持つが、それでも綱吉の超直感が目の前の人物は紛れもなく六道骸本人だと告げる。

「えっと、それで、何のご用でしょうか…?」

いたたまれなくなった綱吉がそう言ったのと同時に、部屋へ第三者が乱入してきた。

「お"ぉ"い綱吉居るかぁ……と。お邪魔だったらまた出直す」
「スクアーロ!大丈夫だよ。どうしたの?」
「あぁ」

綱吉の正面に座る骸に「悪いな」と目配せをし頭を軽く下げたスクアーロは「うちのボスが…」と用件を切り出した。
骸がじっと見守る目の前で綱吉はスクアーロに自分の隣を進め、用件を聞きながら無意識にスクアーロの髪を触りだす。
何が面白いのか中学生男子の平均から見ると小さめの手でせっせと器用に三つ編みを結っては解いてを繰り返す。
骸は張り付いた笑顔の下でそっと奥歯をかみしめた。

「って、人の話聞いてるのかぁ!?」
「あ、ごめん。なんかスクアーロの綺麗な銀髪って見てるといじりたくなるんだよね」
「まぁ…慣れてるからいいけどな」
「慣れてる?」
「10年後のオマエも全く同じ癖を持ってたんだよ」
「そうなんだー。でも分かるなぁ。だってスクアーロの髪って触り心地良いもんねー」

スクアーロの許可を貰った綱吉は更に無遠慮にその髪をいじって遊ぶ。
存外面倒見の良いスクアーロは「仕方ないな」と苦笑しながら綱吉のいたずらを甘受し、用件を続けて話す。

「という訳なんだが、分かったかぁ?」
「あんま分からなかったけど、骸が一緒に聞いててくれたからたぶん大丈夫」
「……ならいいけどな。ボスが返答欲しがってるからなるべく早く決めてくれ」
「分かった−」

「邪魔したな」と骸に向けてのスクアーロの言葉に「いえ」と骸は首を振って答える。
そしてひょこひょことスクアーロの後ろについて扉まで送る綱吉の後ろ姿を見つめて、ため息をついた。

「骸、ごめん」

スクアーロを手を振りながら見送った綱吉がひょこひょこと戻ってくる姿を骸は目を細めて見やる。
そして。

「綱吉くん!君って人は…!」

突然大きな声を発した骸に綱吉は座る事も忘れ佇んだまま大きな瞳を白黒させた。
(今、名前で呼ばれなかったか!?)
「ボンゴレ」や「沢田綱吉」などとしか綱吉を呼ばない骸の突然の「綱吉くん」呼びに綱吉は動転する。

「え?え??」
「綱吉くん、なんで君はそんなにあの男の髪が好きなんですか!?」
「え?」
「え?じゃありません!10年後の君も僕の髪が綺麗だと言いながら一切触ろうとせず、鮫ばかり触る」
「え?」
「僕は君のために伸ばしたというのに…」

そう言って目を手で覆い隠しながらグスグス言い始めた11歳年上の美丈夫を前に綱吉はおろおろする。

「む、骸…さん」
「骸です」

グスグスしながらもキッパリと言い切る六道骸にランボたちに対するものと同じ気持ちを抱いた綱吉は苦笑しながら近づく。
そしてそっと青みがかった黒い長髪をゆっくりと撫でた。

「良くわかんないけど…骸の髪も綺麗で好き…だよ、オレは」

敬語を嫌がった事を思い出した綱吉は意識して普段の口調で言葉を紡ぐ。

「サラサラで触り心地良いし、光に透かすと青みがかる不思議な色だし、」
「…鮫よりも?」
「うん。きっと10年後のオレも骸の髪が好きだと思うよ」
「…本当ですか?」
「うん。だって本当に綺麗だもん」

サラサラと骸の髪を撫でる綱吉の優しい手に、骸は撫でられた猫のようにうっとりと目を細める。
そんな骸の姿を見た綱吉は「こいつ意外と可愛いな」と思うと同時に「で、結局こいつは何が言いたいんだ?」と首を傾けた。

(2009.10.5)
六道さんが色々と崩壊しました。ごめん、六道さん…