酒が沈むと言葉が浮かぶ・完


9代目からもらった秘蔵のワインを飲みながら、綱吉は正面に座り同じくワイングラスを手にする骸を見た。
無言でワイングラスを持つ六道骸という男はお世辞や贔屓目や身内補正を抜きにして相当整った容姿をしているため絵になる。
仕事内容の善悪は別として、「仕事」を完遂する能力も申し分なく世間一般的に見れば有能というカテゴリーに分類されるだろう。
若干歪んだ性格を無視すれば、この上無い特上の男…なんだろうなぁ。と綱吉はぼんやり考えた。

「オマエと二人で飲むのって…久しぶりだよな」
「そうですね。…2年ぶり、でしょうか」
「……そっか」

二人の間に微妙な空気を孕んだ沈黙が走る。

「そういえば、オマエ最近全然部屋に来ないよな。どうかしたの?」
「…いえ、忙しいだけですよ」
「ふーん」

沈黙を破るために無理矢理綱吉が紡いだ言葉はあっさりと骸に消し去られ、再び沈黙が訪れる。

「あのさ」
「あの」

再び沈黙を破ろうとした綱吉の言葉に骸の声が重なった。
二人はハッとして顔をあげ、視線を交わらす。

「…どうぞ」
「骸が先に言ってよ」

お互いに譲り合い、二人ともに言葉を発そうとしない。
しかし、視線はそらすことなく互いの瞳を凝視し続ける。
その沈黙の重さに耐えかねた綱吉がスッと視線を先にそらした。

「…明日も仕事あるから、帰るよ」
「そうですか」
「突然お邪魔して付き合わせてごめんな。残りは飲んでいいから」

綱吉はそう言うが体が固まったかのようにソファに固定され、立ち上がる事なくそのままの姿勢を保っていた。
そして何度も口を開こうとしては閉じ、首を振る。
そんな綱吉を静かに見守っていた骸がそっと瞳を閉じると、一つ決心を固め瞳と同時に口を開いた。

「綱吉くん、好きです」
「あ、そうなんだ。ところで骸ってまだオレのこと好きなの?」

条件反射のように返された綱吉の言葉に、骸は首を傾けた。
同じように綱吉も首を傾け、骸と自分の言葉を反芻し、言葉の意味が脳に到達した途端目を見開き骸を見やった。

「え!?え!?…えっと…」
「好きですよ、綱吉くん」
「えっと」
「信じてくれなくても結構ですが、好きです」
「オマエ、酔ってる?」
「いえ、さほど」

2年前にお酒で嫌な思いをしたので深酒はしないように注意してるんです。
そう言うと骸はフワッと笑う。
そんな骸の柔らかい表情を初めて見た綱吉は突如恥ずかしくなり顔を赤くし俯く。

「…2年前何かあったっけ?」
「えぇ、ちょっとばかり酒の席で」
「…オレも4年前にあったよ、そういえば」
「お酒がらみで嫌なことが、ですか?」
「うん」

それは大変でしたね。
と人ごとのように呟いた骸に綱吉は「オマエの事だよ!」と怒鳴りたいのをグッと我慢する。

「ところで、綱吉くん」
「何?」
「僕、告白したんですが返事はいただけないんですか?」
「……欲しいの?」
「えぇ、出来れば。君は鈍感ですし、僕は素直ではないのでそろそろきちんと確認した方が良いかと思いまして」

存外に真剣な表情でそう返答した骸に綱吉は言葉を無くした。
「えー」「あー」と唸りながら視線をウロウロさせ言葉に困る綱吉を骸は黙って見つめる。
しばらくそうしていた綱吉は「よし」と呟くとワインボトルを手にし、骸が止める間もなく瓶に口をつけそのままグイッとワインを一気に飲み干した。

「ちょっと、綱吉くん!?」
「うー……さすがにワイン一気はやるもんじゃないね……」
「当たり前です!」

水取ってきます。
そう言って立ち上がろうとした骸を、綱吉は引き留めた。

「大丈夫だから!ちょっと素面じゃ恥ずかしくて言えないから……」
「だからってワインをボトルから直接飲む人なんて初めてみましたよ」
「だって…10年間の関係壊さなきゃいけないと思ったら、ちょっと」

「関係を壊す」という言葉に骸の柳眉がピクリと反応する。

「壊す、というのは」
「なんか今更過ぎて恥ずかしいんだけどさ…オレもオマエの事好き、みたい」

綱吉の言葉に骸が沈黙してしまった事に居心地の悪さを覚えた綱吉は「いやぁ、この年になってこんな事言い合うの恥ずかしいよな」「しかも男相手だし」「しかもお互い今更だよな」と矢継ぎ早に言葉を吐き出し最後に「……と、とりあえず帰るよ」と立ち上がった所で突然骸に抱き寄せられた。

「うっわ」
「嬉しいです」

子供のように無邪気にはしゃぐ六道骸という世にも珍しいものを目の当たりにした綱吉は目を白黒させる。
そんな綱吉にはお構いなしで骸は綱吉の茶色の髪に唇を何度も落とす。
そしてそのままひょいっと綱吉を持ち上げ肩に担ぐように乗せると歩き出した。

「ちょっと、おろせよ」
「嫌です。6年我慢したんですから、」
「ヤらないからな!」
「え?なんでですか?」
「オマエ、意外と即物的だよな!」
「6年ですよ、6年!出会った時からカウントすると12年ですよ!?」
「それは…そんなに我慢出来たんならもうしばらく我慢出来るだろ?」
「無理です!」

綱吉は「おろせ!」と足をばたつかせ、自由になる腕で骸の背中をばしばしと叩く。
「…痛いですよ」と言いながらも骸は綱吉解放せずそのまま目的地まで移動し、そこでようやく綱吉をおろした。

「もう我慢出来ません。ヤラせてください」

ベッドの上で骸に押し倒され聞き覚えのある台詞を吐かれた綱吉は思わず笑ってしまった。
そんな綱吉の様子に骸は不愉快そうに眉を顰める。

「オマエ、本当に変わらないなぁ」
「…?」
「覚えてないみたいだけど、4年前にここで同じ事言われたよ」
「え?」
「まぁ、大人しくやられてやるつもりはないから諦めろ!」

驚いて押さえる力が弱まった所を見計らい綱吉は骸を蹴り飛ばし、ベッドから飛び降りる。

「綱吉くん!」
「オマエは忍耐強いから大丈夫。あと2年は待ってろ」
「人でなし!鬼!悪魔!マフィア!」
「マフィア以外は否定する」

綱吉は楽しくて仕方ないという表情で骸に宣言するが、腹を押さえた骸は真剣に怒りを含んだ表情を浮かべた。

「…どこまでもったいぶるつもりですか?絶対1年以内にその気にさせてみせます」
「うん、期待しているよ。霧の守護者さん」

そして二人は目を見合わせ、ゲラゲラと笑う。

「明日からもよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

(2009.10.4)
お互いに酔った時の事は覚えていないので、ようやくこれにて正式に両思いになりました。六道さんは6年間手を出さずに我慢した計算になります…忍耐の男ですね。