酒が沈むと言葉が浮かぶ


「えっと……とりあえず、どいてくれない?」

珍しく館内で開かれたファミリーのパーティー(と便宜上呼んでいるが日本で言う所の飲み会に感覚的には近いと綱吉は思っている)に出席した霧の守護者が、これまた珍しく酒をハイペースで飲み続けていたのを綱吉は会場内で目撃していた。
一緒に飲んだ記憶はないので骸が酒に強いのか弱いのかは知らないので不安にはなったが、六道骸に限って前後不覚になるまで飲む事はないと綱吉は高を括っていたのが間違いだったらしい。
綱吉がふらっと会場を出てお手洗いに行った帰りの廊下で待ち伏せしていた骸の目は相当据わっており、そのまま無言で腕をつかむと抵抗する間も与えられずに骸の自室に引きずり込まれていた。
そして今に至る。

「……嫌です」

引きずり込まれた殺風景な部屋のど真ん中に配置されたベッドに押し倒され、上からのぞき込まれた状態で綱吉は骸に進言するがあっけなく否定された。
あー、やっぱりこいつってむかつくくらい綺麗な顔しているよなー。と真上から見つめられて全く関係の無いことが綱吉の脳裏に浮かんだ。
酒のせいか若干頬に赤みが差しているのが強烈な色気を放っていて、女性がこの状態に持ち込まれれば99%陥落するだろうと綱吉は思った。

「オマエさぁ……どんだけ飲んだの?」
「全然飲んでません。全然酔ってません」

綱吉を見下ろす骸が顔を左右に振る度に肩に付く程度に襟足の伸びた濃紺の髪がサラサラと揺れる。

「分かった。酔ってないって分かったから、とりあえず上からどいて、な」
「……嫌です」

子供に言い聞かせるかのように紡いだ綱吉の言葉は骸に全否定される。
再度頭を左右に振った骸が、そのまま綱吉の首筋に顔を埋めた。

「綱吉くんの匂いがします……」
「ちょっと、オマエ、何するんだよ!」
「減るわけではないんですからいいじゃないですか!」

綱吉はバタバタと足を動かし骸をどかそうとするが、体格差もありうまくいかない。
それどころかそんな綱吉の行動にむっとした骸が首に唇を当てると思いっきり吸い付いた。

「骸っ!」
「クフフフフ、痕、付いちゃいましたね」

嬉しそうに顔を綻ばせ骸が言うので綱吉はそれ以上何も言えなくなる。
それに気をよくした骸は器用に綱吉のネクタイをほどきボタンを外すと唇をツーッと鎖骨へと移動させる。

「骸…っ、目覚ませよ!!」
「ちゃんと起きてますよ」
「じゃ、今すぐやめろ!さすがに怒るぞ!」
「いいじゃないですか!」

綱吉の言葉に骸は一端唇を離し、顔を上げ綱吉を見下ろした。

「綱吉くん。確認します」
「……はい」
「僕たちの関係は?」
「……ボンゴレ10代目と霧の守護者」
「オフィシャルにはそうですね。ではプライベートでは?」
「…………」
「……僕の記憶違い、なんですか?」

骸の問いに綱吉が沈黙していると骸はわざとらしいまでの憂いの表情を浮かべた。
美形の作り出す憂いの表情の威力は半端無いな、と綱吉は想像以上の罪悪感を覚えながら感じる。

「綱吉くん、もう一度お聞きします。僕たちの関係は?」
「……恋人同士です、たぶん」
「たぶん、は余計です」

羞恥心を殺してようやく綱吉がそう言うと骸は無表情のまま訂正の言葉を入れる。

「そうです。君がボンゴレを継ぐ前に恋人になったはずです。なのに君ときたら10代目になった途端、僕と二人で居る事を極力避けてましたよね?」
「……いえ、そんなはずは」
「ありました。成人を迎えた恋人が、2年間付き合っていてキス以上していないなんておかしいと思いませんか?」
「……いえ、特におかしいとは」
「おかしいです。絶対におかしいです。もう我慢出来ません。そろそろヤラせてください」
「……なんだよそれ?」
「もう待ちくたびれたんですよ。君に合わせてゆっくりと進んで行こうと思っていましたが、僕の想像を遙かに超えて君は恋愛に疎すぎました」
「……ごめんなさい?」
「謝っていただきたいわけではありません」

僕は君が好きなんです。15歳の時から、ずっと。それは偽りありません。
骸の口からこぼれる言葉に綱吉は目を見張った。

「骸、オマエ、今、なんて」
「おや?聞こえませんでしたか?僕は君が好きなんですよ」
「え、ちょっと、待って」

話が若干かみ合わない、おかしい。と綱吉は頭の中を整理しようと努める。
事実を一つ一つカウントしていく。

「オレとオマエは付き合ってる」
「えぇ、そうですね」
「オレはオマエに好きだと言ったことはない」
「えぇ、その言葉はいただいたことありませんね」
「オマエもオレに好きだと言ったことはなかった」
「おや?そうでしたか?」
「契約成立時とことあるごとにキスはした。一方的にだけど」
「えぇ、まあ」
「オレは嫌がらせの一種だと思っていた」
「はぁ?」
「別にデートだったり手を繋ぐなんて事は一切なかった」
「お互いに忙しかったですからね」
「だからオレは便宜上『恋人』という定義にしているが、お互いの利害一致による協力の契約だと思っていた」
「……え?ちょっと待ってください!」

この2年間、なんだったんですか!?
骸が目を見開き綱吉の肩を掴み上下に揺らす。

「……マフィアのボスと、マフィア嫌いの元囚人の『恋人』と言う名の契約期間?」
「あり得ません!」
「いや、だって、オレたちの間にそんな甘い空気とかあったっけ?」
「確かにありませんでした、が!」
「な。オレ、骸に好かれてるなんて1oも思った事なかったから、今すっごいびっくりしているよ」
「な、な、なんですかそれは!」
「いや、オレも混乱してるからさ…とりあえず素面になったらもう1回告白してくれない?」

綱吉はそう言ってニッコリ笑うと骸の腹部に膝を入れ、気絶させた。

(色々と危なかった……っ!)

(2009.9.12)
骸さまはお酒に弱そう、と思ったのが発端だったのに綱吉が思いの外鈍感で違う方向へ暴走しました。