ぼくたちの日々


「…オマエは何がしたいんだよ?」

突然部屋に忍び込んできた骸に抵抗する隙を与えられず黒曜ヘルシーランドに連れ去られた(状況だけで考えれば拉致という言葉以外の何物でもない)綱吉は、目の前に佇む骸に問いかけた。
10年後の問題を片付けて戻ってきてから、骸の様子が若干変だと綱吉は感じていた。

「さぁ…」
「さぁ、って。オマエは前からよく分からなかったけど、最近変だよ」
「僕は何がしたかった、のでしょうか?」
「…本人に分からないものが他人のオレに分かるわけないだろ」

からかうでも、人をバカにするでもなく茫然自失という表情で自分の手元をぼんやり見つめながら骸は呟いた。
そんな骸をしばらく観察していた綱吉は「はぁー」と盛大な溜息を吐きだす。

「もうこんな時間だし、オレは寝るからな。ベッド借りるよ」
「え?」
「あとパジャマになりそうなの貸して…このTシャツとジャージ借りてもいい?」
「…どうぞ。」

椅子に無造作にかかっていた骸の服を手に取り許可を得た綱吉は手際よく着替える。

「うわー…こんなに足の長さ違うのかよ。悔しいな…」

ブツブツと文句を呟きながらジャージを脛の中ごろまで捲り上げ、あっという間に寝る準備を整える。
そんな綱吉の姿をぼんやりと骸は見守る。
綱吉はお構い無しで骸の使用しているであろう保健室のそれに似ているベッドにごろんとダイブした。

「あ。意外と寝心地良さそう」

綱吉はバタバタと足をばたつかせながらマットの硬さを確かめる。
そんな綱吉の鼻腔に骸の匂いがフワッと入ってきて、不意打ちを喰らった綱吉は顔を真っ赤に染め上げた。

「綱吉くん…?」
「オレは寝るからな。骸はどうするの?」
「…僕も寝ます」

骸は何かを決意するようにそういうと、周囲を見渡し綱吉に貸した服以外に何もない事を確認すると着ていたTシャツだけ脱ぎ捨て、「失礼します」と綱吉が半分空けていた場所に潜りこんだ。

「オマエ……なんかエロい……」
「そうですか?気にしすぎですよ」

ようやくいつもの調子を取り戻しつつある骸はクフフと綱吉に微笑みかける。
骸の過不足なく綺麗に筋肉のついた上半身が突如目の前にきた綱吉は落ち着かない様子で視線を漂わせ、その肌が決して綺麗ではないことに気付く。

「綺麗なものではありませんのでそんなに凝視しないでください」
「これ、痛いの?」
「古傷ですから痛みはありませんよ」
「痛かったよな」
「肉体の痛みは所詮一過性のものですから」
「…痛かったよな」

まるで今、綱吉自身が痛みを感じているかのような表情で綱吉は骸と視線をあわせてそう言った。
骸は軽く頭を左右に振る。

「今はここの方が痛いです」
「…ごめん」
「いえ。君は悪くないのは分かっています。僕だけが置いていかれた理由もなんとなく分かります」
「でも、ごめん」
「…今ここに君が居る。その事実だけで充分です」

どこか寂しそうに微笑む骸に綱吉の胸が痛む。
骸の腕を掴むと、至近距離でしっかり視線を合わせて言う。

「オマエ、何か言いたい事あるんだろ?だからオレのこと連れて来たんだろ?」
「いえ、ないですよ」
「オレの直感が言ってるんだから、それは嘘だ。何でもいいから思ってる事があったら言ってよ。オレ、バカだからきちんと言葉にしてくれないと分からないよ」

大きな茶色の瞳で凝視された骸は降参と言わんばかりに視線を逸らし、小さく息を吐いた。

「本当に、ただ純粋に君が帰って来てくれて安心してます。ただ…君が危険な目にあっている時に傍に居ることも出来ず役に立てなかった自分が不甲斐なくて情けないだけです」
「骸は…10年後の骸は、オレを助けてくれた、よ」
「いくら己であろうと、10年後の僕は僕とは別人です。そんな他人が綱吉くんを守っていたなんて」
「でも」
「自分でも言っている事が滅茶苦茶なのはわかります。ただ…ただ本当に悔しいだけですよ」
「骸…」
「ですから1つ約束してください。今後は何があっても僕の前から消えない、と」
「そんなんでよかったらいくらでも約束するよ」
「…ありがとうございます」

わだかまりがなくなったかのように骸は優しく微笑む。
綱吉は1度納まったはずの頬の赤みが再度増していくのを感じると同時に、忘れていた眠気を安堵と共に思い出し急激に睡魔に襲われだす。

「眠い…」
「本当に綱吉くんはお子様ですね」

とろんとした半分閉じかけた瞳でうつらうつらとしながら、手探りで綱吉は何かを探している。

「……?」
「骸、腕…」
「えっ…」
「腕枕……」

完全に寝ぼけている様子で舌足らずに綱吉は可愛い我侭をいう。
急に素直に可愛いことを言う綱吉に骸は頬を緩めるが、次の言葉で表情を硬くした。

「10年後のオマエはしてくれたぞー…」
「ちょ、今なんて…!?」
「えへへ…10年後のむくろ格好よかったなぁ…」
「綱吉くん!?」

骸の必死の言葉は既に意識の9割を夢の世界に預けている綱吉には届かない。
ふーっと溜息をついた骸は10年後の己に殺意を抱くと同時に、腕の中で安心しきってアホ面で寝ている愛しい存在の髪の毛にそっと口付けた。

「おかえりなさい、僕の綱吉くん」

(2009.8.13)
とある絵描きさんが骸誕生日祭りの一環で描いてくださったイラストのイメージでアニメ萌えを表現。