夏恋


「何を見てるんですか?」

せっかくの夏休みだというのに補習のため登校していた綱吉を、わざわざ嫌味ったらしく迎えに来た骸は綱吉の興味関心が自分からズレた事に気付いて声をかけた。
綱吉の視線の先には『町内会のお知らせ』とかかれた掲示スペースが設けられている壁があった。

「な、なんでもない!」
「なみもり…並盛花火大会?」

綱吉の視線の先には花火の写真とそこに大きく「並盛花火大会」の文字と本日の日付が記されていた。
骸はしばし考え、純粋な疑問を口にした。

「行きたい、のですか?」
「いやいやいや…去年皆で見たなーって思い出して」
「…みんな?」
「うん。山本と獄寺くんと…雲雀さんも居たって言えば居たことになるのかなぁ。…そういえば去年の今頃はまだオマエと出会ってなかったんだっけ」

まだ骸と出会って1年も経ってないんだなー。
そうしみじみと言う綱吉の横顔を見つめていた骸は胸中がもやもやするのを感じた。

「折角ですし、一緒に行きましょうか?」
「えっ!?」
「嫌なら結構ですが」
「行く!行きたい!骸は絶対嫌がると思ってたのに意外だな」
「えぇ、人ごみなんて嫌ですよ。ですから、君の先生が用意してくれたマンションから見ましょうね」
「そういえばそんな部屋あったな!…なんで使わないんだよ?」

黒曜ヘルシーランドを住処としている骸たちに対し、リボーンは並盛内にマンションの一室を与えたのは最近のことではない。
しかし骸たちはそこに定住する事なく相変わらず黒曜ヘルシーランドを本拠地として過ごしていた。

「あそこはあそこで有難く使用させていただいていますよ」
「そう、なんだ」
「ただ四六時中マフィアに観察されるようで嫌なので住みたくないだけです」
「…観察なんてしない、よ」
「君はそうだとしても、一癖も二癖もある君の先生はそうは思っていませんよ」

別段それが悪いとは思いませんけどね。用心するに越したことはありません。
そう言いながらクフフと骸は笑う。

「では、夕方にお迎えに上がりますので」

いつの間にか到着していた沢田家の玄関前で骸はそういうと綱吉に背を向けヒラヒラと手を振りながら来た道を引き返して行った。

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「つっくーん。骸くんが迎えに来てくれたわよー」
「ちょっと待ってー!」

ツナどこ行くんだ?ランボさんも行く!
今度の祭りは一緒に連れてってやるから今日はゴメンな!

そんな騒がしいやり取りが聞こえたあと、玄関に佇んでいた骸の視界に自室を飛び出した綱吉が入った。

「おやおや」
「うふふふふ。花火を見に行くって言ってたから、着せてあげたのよ」
「花火に浴衣とは風流ですね」
「骸くんも家光さんのでよければ着付けるわよ?」
「お気遣いいただきましてありがとうございます。しかし恐らく大きいと思いますので」
「そうよねー。骸くん背があるのに細いものねー」
「お待たせっ!」

玄関にやってきた息子に場所を譲りながら、奈々は骸に微笑みかける。
骸も100%対人用の大人受けする完璧な笑顔で答える。

「骸くんは痩せすぎで心配になるわ…いつでもご飯食べにきていいんだからね」
「ありがとうございます」

優等生な笑顔と回答を出す骸に綱吉は「げっ」と顔を歪めながら玄関に揃えてあった下駄に足を通した。

「じゃあね、母さん!ちょっと遅くなるかも」
「気をつけるのよ」
「奈々さん、息子さんをお借りします」
「どうぞどうぞ」

気持ち悪い事言うなよ!
骸の発言に顔を若干赤くした綱吉は奈々に背を向けたまま玄関から骸を押し出す。

「いってきます!」

背を向けたまま、綱吉はそういうと玄関を後ろ手で閉めた。
そのままズンズンと進んでいくので、骸は大人しくその後をついていく。

「馬子にも衣装とは言ったもんですね」

浴衣姿の綱吉を後ろでマジマジと見つめた骸がポツリと呟いた。
いつもの揶揄する様子ではなく本音がこぼれたというようなその言葉に綱吉は真っ赤になって立ち止まり、落ち着かなさそうに身じろぎした。

「うん。良いものですね、浴衣も。とても似合ってますよ、綱吉くん」
「……っ!オマエって時々、ナチュラルに恥ずかしいよな…」
「僕はいつでも本音しか言いませんよ」
「…オマエってこういうときイタリアの血が入ってるなって思うよ…」
「褒め言葉として受け止めさせていただきます」

大仰な身振りでお辞儀をした骸に綱吉が思わず吹き出す。

「オマエやっぱりイタリア人だよなぁ。で、どうするの?」
「まだ時間もありますし…君のことだから屋台は好きなんでしょう?」
「うん!屋台大好き!」
「では神社に立ち寄って屋台で食料を調達してから部屋に行きましょうか」
「やったー」

浴衣姿ではしゃぐ綱吉の隣に骸が並ぶと、二人は歩調を合わせて進路を並盛神社へと変更し歩き出した。

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「……これ、さすがに買いすぎじゃない?」
「そうですか?余ったら犬が食べるから平気ですよ」

「何でも買ってあげますよ」という骸の甘い言葉に気を良くした綱吉は調子に乗って2人の両手が一杯になるほど色々と屋台で食べ物を買い込んだ。
祭りの熱気に当てられている時は「わーい、いっぱいだ!」位にしか思わなかったが、冷静になった状態でテーブルの上に並べられた量を見て綱吉は若干引いた。

「オマエ……止めろよ……」
「君が喜んでくれるので、つい」
「……っ!」
「君に対してはどうしても甘くなってしまうようです。君の先生にはいつも注意されますよ」

そう言いながら綺麗な顔で微笑みかけられた綱吉は顔を真っ赤にし視線を骸から逸らした。

「は、花火もうすぐ始まるね!」
「そうですね」

早口で捲くし立てる綱吉に、骸はクスクス笑いながら応える。
「飲み物は何がいいですか?」と言いながら冷蔵庫へと向かう骸の後ろを綱吉がちょろちょろと追いかけていく。
そして開いた冷蔵庫を覗き込んだ綱吉は感嘆の声と非難の声を同時にあげた。

「オマエ、なんで酒が入ってるんだよ!」
「あぁ…君にはまだ早すぎますよね。はい、コーラでいいですよね?」
「ありがとう。って骸だってまだ飲める年じゃないだろう!」

素直にペットボトルを受け取りながらも綱吉は突っ込みを入れる事を忘れない。
骸は苦笑しながらしばし考え、ペリエに手を伸ばした。
それと同時に背後で花火の爆発音が響いた。

「うわっ!始まった!行こう!!」

ペットボトルを持っていない方の手で無意識に骸の手を掴んだ綱吉は慌ててベランダに賭け出た。
骸は花火ではなく綱吉に掴まれた手を幸せそうな瞳で見つめる。

「凄い!本当に綺麗に見える!」
「高層階で方角的に問題ないと思ってましたが、本当に見えるんですねぇ」
「え?オマエ誘っておきながら見えるか分からなかったの!?」
「えぇ。去年はここに居ませんでしたから」
「見えなかったらどうしてたんだよ!」
「まぁ…その時はその時、ですよね」

うわーオマエ最悪ー。
ぶつぶつと言いながらも視線は花火に釘付けの綱吉を骸は優しい瞳で見つめた。

「こんなに綺麗に見えるとセレブ気分だな!…って、オマエなに見てるんだよ」

骸に視線を戻した綱吉は、花火を見ていると思っていた骸が自分を凝視していた事に動揺する。
そんな綱吉の髪の毛を骸はそっとひと撫でする。

「君が嬉しそうで、僕も嬉しいですよ」
「む、くろ…?」
「僕は君の周りに居る人間の中で一番君との思い出が少ないかもしれませんが、これから増やしていきましょうね」
「……恥ずかしいヤツ」
「こんな可愛い綱吉くんを去年はあの忠犬やら自称親友やらが見ていたかと思うと悔しいですからね」
「………恥ずかしいヤツ」
「せっかくロマンチックなシチュエーションですし、もう一つ思い出を増やしましょうか」

骸はニヤッと笑いながらそう言うと綱吉が反応を返す前にその唇に軽く口付けた。
綱吉はしばし何が起きたか把握出来ない様子で骸を見つめ返した後、ハッと気付き自分の唇を手で覆った。
その顔は真っ赤だ。

「お、お、オマっ、む、骸、い、ま…」
「キス、ですね。花火をバックにファーストキスなんてとてもドラマチックですよね?」
「ふぁ、ファーストキスって決め付けるなよ!」
「おや?違うんですか?相手はどなたですか?ちょっと息の根を止めないと許しがたいですね」
「不穏なこと言うなよ!どうせ初めてだよ!」
「それは良かった」

花火見ないでいいんですか?
そう言われた綱吉は色々と誤魔化された気持ちにならないでもないが、これ幸いと骸から視線を外し花火に集中する振りをした。

(花火どころじゃない…!)

実はこの時しっかり骸の顔を見ていれば『赤面する六道骸』という珍しいものが見れた事を綱吉は知る由もなく、自分の騒がしい心音と花火が終わるまで延々と格闘していた。

(2009.8.12)
初々しいお2人はしょっぱいです…。アニメの2人はお付き合いしていると思います、記念。