第ニ次接近遭遇


「ツーナっ!」
「あ、山本おはよー」

大学のキャンパスを歩いていた綱吉は後ろから声をかけてきた友人に笑顔で答えた。
大学に入って出会った山本武は高校時代に球児として地元ではちょっとした有名人だったため綱吉も一方的に顔と名前は知っていたが、まさか無名の大学で同級生として出会い、更に自分の友人になるなどとは思ってもいなかった。

「朝一の必修って面倒だよなー」
「しかも英語だもんね…」

2人で顔を見合わせため息をつきながら講義のある部屋の棟へと歩みを進めていると前方に人垣があるのが目に入ってきた。
綱吉は首を傾げる。

「山本、あれなんだと思う?」
「うーーん。サークルの勧誘は一通り終わったしなぁ。なんだろな?」

綱吉と視線を合わせた山本が、綱吉と同じ方向に首を傾げた。
基本的に世間一般的に男前に分類される山本だが、言動の端々に愛嬌があり友好的な性格のため男からも女からも好意を持たれる。
そんな山本を見ていると何故自分と友達をやってくれているのか綱吉は常々不思議に思うし、山本以外の周囲の人間もそのような反応をしているので周りから見ても綱吉と山本の組み合わせは奇妙に見えるのだろう。
綱吉がそんな事を考えていると人の群れの一部に隙間が出来、そこからベンチに腰掛け本を読んでいるらしい1人の人物が視界に入った。
どこかで見た事がある気がしないでもないが、見知らぬ男性だ。

「あー。あれが噂の『六道くん』か!」

同じく隙間から渦中の人物が見えた山本が納得の声をあげた。
(ロクドウくん?)
その人名に全く聞き覚えのなかった綱吉はカタカナで山本の口にした人名を反芻する。

「山本の知ってる人?」
「噂だけでだけど。つーか、ツナ知らないの?」
「うん。全く」

全くもって聞き覚えがなく噂も聞いた事のない綱吉はきっぱりと頷いた。

「ツナ、噂とか好きじゃないもんなー!」
「知り合い少ないから耳にしないだけだよ」

綱吉は苦笑いしながら返答するが、その実山本の指摘は的を得ていた。
綱吉は、噂話や悪口の類は好きではなかったため、極力そういう話が出た場合はさりげなく席を外すようにしていた。
綱吉自身が昔ダメツナと呼ばれていたことや、人と接する時に余計な先入観を持ちたくないという性格に起因しているが、元々人付き合いがあまり得意ではないため今まで誰にも指摘された事がなかったので、山本にさらっと言われた事に綱吉は驚きを隠せなかった。

「ツナだけはきちんとオレの事見てくれたもんなー」

人気者の有名人には有名人なりの苦労があるらしいと綱吉はうんうんと頷いた。

「オレもあんまり知らないんだけど『六道くん』は帰国子女で去年入学したけどすぐに家庭の都合で海外に戻ってそこから1年休学していた人、らしいのな。そろそろ戻ってくるらしいって1個上の先輩たちが言ってたんだ」
「そうなんだ…でもそれにしては囲まれすぎ、だよね?」

山本の口から述べられた情報だけではあそこまで人垣を作る理由にはならず綱吉は素直に疑問を口にした。
そんな綱吉の疑問に山本は二カッと笑った。

「なんか、それがとんでもない美形らしいのな。ハーフってのもあるみたいなんだけど先輩10人が10人とも口を揃えて言うんだから相当っぽいよな」
「あー…それは確かにかなり美形だろうねぇ」

山本の言葉に綱吉はふと先日出会った美青年を思い出した。
あのレベルであれば恐らく10人中10人が「美形」と言い切るだろうな、と。

「そういえば、バイトどうだった?」

綱吉の心の中を覗き見たかのようなタイミングで山本が尋ねてきたので綱吉は苦笑する。
そして出会った変な美形について話そうとした瞬間。

「あ!」

ちょうど人垣の横を通りかかった瞬間その中央から声があがり、思わずそちらに視線をやると立ち上がって呆然とした面持ちで綱吉を凝視している端整な顔をした人物と視線があった。
その姿かたちに綱吉は見覚えがあった、というか数秒前まで思い描いていた人物そのものだった。

「「ティッシュの人!!」」

綱吉と「ロクドウくん」が同時に声を上げたため、山本は2人の顔を交互に見やった。

「え?何?知り合い??」
「昨日バイトしていて…」

山本に説明をしようと綱吉がわたわたしていると渦中の「ロクドウくん」が人を掻き分け必死の形相で迫ってくるのが視界に入り、綱吉は逃げ出したい気持ちになる。
そんな綱吉の様子をキャッチした山本は、若干綱吉の前に身体を移動させ綱吉を背後に守る形を自然に取る。

「あ、あの…っ!」

綱吉と山本の目の前にきた「ロクドウくん」は息を整えながら2人に声をかける。
その視線は山本を通り越して綱吉1人を凝視している。

「昨日、お会いしました、よね?」
「あ、はい!」

真剣な声でそういわれ思わず綱吉は反射的に返事をする。

「僕は六道骸と申します。先日までイタリアで生活をしていました」
「は、はい」

自己紹介を始めた男に山本が普段の彼らしくない剣呑な視線をやる。
しかし、六道骸は山本は無視して綱吉にだけ話しかける。

「日本にほとんど知り合いがいないので、是非僕と友達に、なってください」
「はいー!?」

突然の申し出に綱吉は驚いて目の前にある山本のTシャツをぎゅっと握り締めた。

(2009.6.22)
骸は一目惚れ済み、綱吉はドン引き、もっさん大警戒中。