第一次接近遭遇


「どうぞー」

綱吉は張り付いた笑顔を浮かべながら機械的に同じ動作を繰り返していた。
道行く人に広告の入ったポケットティッシュを差し出す、それだけの動作を。
差し迫ってお金が必要だった綱吉が取っ払いである程度まとまったお金が貰えるという単純な理由で選んだバイトだったが、思いの外きつかった。
主に精神的な部分、で。

(絶対今度からティッシュでもビラでも貰ってあげよう…!)

貰ってくれる人のほうが少数、というのは予想をしていたがそんな綱吉の予想を遥かに凌駕するほどあまりにも都会を歩く人々はティッシュを配るという慣れ親しんだ光景に無関心で無頓着だった。
ノルマとして渡された2箱はほぼ丸々の状態で道の片隅に残っている現状に溜息が出た。

「……?」

突如、綱吉は熱い視線を感じて辺りを見渡した。
すると綱吉から10mほど離れた所に佇む男がこちらを凝視しているのが視界に入った。
髪型が一部奇妙な気がするが、小さい頭とすらりとした日本人の平均身長から考えると高めの長身は非凡なバランスで、雑踏の中にあって非常に目立つ。
遠くて細かい部分はよく見えないが顔の中身も平均以上に整っていそう、だ。
現に周囲を歩く女性全てがその人物をチラチラと見ているのが分かる。
そんな、所謂「芸能人オーラ」をかもし出す男が一歩一歩近づいてくる事に気付き、綱吉に緊張が走った。

(オレ、何か気に障ることしましたかー!?)

そんな綱吉の心情は無視して、その人物は綱吉の目の前まで来て、立ち止まった。
近くで見るとますます非凡さが際立っている事がわかる。
黒、かと思っていたサラサラの髪は光の反射具合によっては濃紺にも見える不思議な色。
顔のパーツは想像通り、というか想像以上に整っている。
そして何より目を引くのは左右色違いの瞳。

(うわー…一般人、なのかなぁ?)

一時のパニックをよそに綱吉はその男の顔に釘付けになった。
…元々面食いの傾向があることは本人も十分に自覚している。
ただし、そういう趣味はないという事も十分に自覚している。

「あの…」

その男から発せられた高すぎも低すぎもしない艶のある声を聞いた綱吉は
(声まで良いとか神様って不公平だな!)
と会ったこともない神様を罵る。

「なんですか?」
「それ、貰ってもいいですか?」
「…それ、ってコレですか?」

男の視線が綱吉の手元にあるのを確認し、コレと綱吉はティッシュを持ち上げる。
男がコクンと頷く。

「それ、です」
「勿論です。どうぞ」

変な人だなー、という感想を抱きつつこの数時間で身に付けた笑顔を浮かべながら綱吉はそれを差し出した。
その途端、冷たい表情だった男が全開の笑顔になった。

「ありがとうございます!」

もし仮に綱吉が女であったなら確実に落ちていただろうほど綺麗な笑みを浮かべ、嬉しそうに両手でそっとティッシュを受け取る男を見て綱吉は少し、引いた。

「も、もしよければもう一つ、どうぞ?」

ポケットティッシュ一つでこんなに喜ぶなんて変な人だなぁ、と綱吉は珍種の動物を見る思いで目の前の人並みはずれた美貌をもつ青年を見つめた。

(初出2009.5.24)
(更新2009.6.22)
外国生活の長い人とかは日本の伝統ティッシュ配りを見たらびっくりするんだろうなと思います。スパナとか可愛い反応しそうですよね…。