はじまりのあさ


「んー……っ」

身体に残る心地よい倦怠感と違和感の中で綱吉は目覚めた。
そして自分にかかる布団の重さがいつもと違う事に気付く。
綱吉を包み込む匂いは嗅ぎ慣れてはいるが、自分のそれではない事に気付く。
隣に人の温もりがあることに、気付く。

「…っ!」

慌てて上半身を起こした綱吉は、腰に走る鈍痛に顔を顰めながら隣を見下ろした。
綱吉が起きた振動に眉間に皺を寄せ僅かに身動ぎをしたものの規則正しい寝息を繰り返し、平素の彼からみるとかなり穏やかな表情で睡眠を貪る骸を。

「あの骸が、無防備に寝てる…」

あまりにも現実離れした状況に綱吉はポツリと独り言を漏らした。
今までうたた寝する姿すら綱吉に見せた事のない骸の、初めて見せる無防備に眠る姿。
あまりにも平和で穏やかで普通な、朝の風景。
骸の寝顔を綱吉は凝視する。
そして、再度腰に走った鈍痛でこの状況が生まれた過程を思い出し、赤面した。

「こいつと本当に……しちゃったんだよなぁ……」

しみじみと言葉に出して見ると、記憶がフラッシュバックし骸の寝顔を見ているだけで叫びだしたい衝動に駆られた綱吉は慌てて足を床につけた。
そしてベッドの上に無造作に置かれていた骸のシャツを拝借して羽織る。
なるべくベッドに振動が加わらないようにと細心の注意を払っていたがそれでも振動が大きかったらしく骸が身動ぎをし、覚醒した。

「おはようございます、つなよしくん…」

(うわ、こいつでも朝はこうなるんだ!)
いつもより間延びした口調で上半身を起こしながら伸びをする骸に、綱吉は人間らしさを感じ嬉しくなる。

「おはよう、骸」
「どうしたんですか…?」
「…喉が渇いたから、水を」

恥ずかしくなったから、とは言えず咄嗟に思いついた事を口にした綱吉だが、実際に自分の喉がカラカラに渇いている事を自覚した。
その途端、一刻も早く喉を潤したくて仕方なくなる。

「……腰、辛いんじゃないですか?取ってきますよ?」

骸の気遣うような優しい眼差しと口調が、2人の関係値が昨日とは変わったという事を如実に物語っていて綱吉はいたたまれない気分になって勢いよく立ち上がった。

「大丈夫だよっ!………あっ」

立ち上がった綱吉は自分の身体に生じた違和感と瞬時に導き出された理由とに、固まった。
そんな綱吉の突然の表情に骸は慌てる。

「ど、どうしましたか!?」
「いや…な、なんでもない…」

必死に引きつった笑顔を浮かべる綱吉に骸はすがり付くように近づきベッドの淵に座る。

「なんでもない表情ではないですよね?僕、何かしましたか…?」
「いや…ちょっと……オマエのせいって言えばオマエのせい、なんだけど…」
「僕に悪いところがあればなんでも言ってください」

(こいつ、こんなキャラだったっけ…?)
あまりに必死な骸の姿に綱吉は首を傾げる。
目の前の骸はいたって真剣な眼差しで綱吉を見つめているため、こんな表情をさせてしまった「理由」を言う事に綱吉は戸惑いを覚える。
そこまで真剣な表情で語る問題ではない事だけは確かだ。

「綱吉くん…?」
「えっと…ちょっと、オマエの、が…」

言葉を濁しながら綱吉はそっと視線を自分の足元に移動させる。
それにつられ骸の視線も綱吉の足に移動し、表情を凍らせた。

「だ、大丈夫だから!な!ちょっとシャワー借りるよ!」

整った顔を人形のように無表情に凍らせ、身動き一つしない骸に綱吉は慌ててそう言うと一歩を踏み出そうとしたが、身体に走った激痛に顔を顰めしゃがみこんでしまう。

「痛っ…やっぱ、無理、みたい……」
「!!す、すみません!」

座り込んだ状態で困ったように笑う綱吉に、固まっていた骸が慌てて駆け寄る。
青白かった表情とは一転し、今度は頬を真っ赤に染めている。

「あの、失礼します、ね」

視線を漂わせた骸は他人行儀な口調でそういうと、綱吉の膝裏に手を入れ立ち上がる。
そしてあまり見ないようにしながら、さりげない動作で綱吉の太ももに走る白い液状の線をシャツで拭った。

「本当にすみません…」
「いや、寝ちゃったオレが悪い…から…」

お姫様抱っこの状態で2人はもごもごと語尾を濁しながら呟き、お互いの様子を探るために視線を動かし、バッチリと視線を合わせてしまった上に想像以上に近い距離に相手の顔がある事に驚き、赤面した。

(2009.5.30)
お腹壊すからダメだよー!と下品な事を考えながら。