シエスタ


「骸ーっ。むーくーろー」

イタリア某所にあるボンゴレの屋敷内にドン・ボンゴレの声が響き渡る。
突如廊下に現れたボスの姿に、居合わせた構成員たちは最敬礼で挨拶をする。
そんな部下たちに笑顔と片手で応えながら、綱吉は更に廊下を練り歩く。

「ろくどーむーくーろーさーーん」
「……僕は君の飼い犬じゃありませんよ」
「だってこうするのが1番早いじゃん。獄寺くんは呼べばすぐに来てくれるよ?」

公開羞恥プレイを止めるべく気配なく現れた骸に驚く事もなく綱吉は当然の事のようにそう言葉を返した。
恐ろしいまでの綱吉の適応能力(この場合は嵐の存在への完全な慣れ、だと骸は思う)に呆れながら溜息を一つ落とす。

「君の忠犬と一緒にしないでください」
「獄寺くんは犬じゃないよ」
「アレは君の犬、ですよ。…で?」

僕を呼んでいた理由はなんですか?
骸が視線で促すと、綱吉はにこっと微笑みを返して、言った。

「お茶淹れて」
「他の人に頼みなさい」

骸は鰾膠も無く断る。
しかし、その程度で引き下がるようであれば綱吉も最初から骸を探し回ったりはしない。

「えー。だって、オマエが淹れる紅茶が一番美味しいんだよ」
「それは光栄です。ですが、それは僕の仕事ではありません」
「ケチ」
「ケチでもなんでも結構です。君の先生のお陰で僕は暇じゃありませんので失礼しますよ」

踵を返し綱吉を置いて帰ろうとする骸の腕を、綱吉が掴んだ。

「まだ、何か?」
「じゃ、ボス命令で。お茶淹れて、霧の守護者さん」
「……君はふてぶてしくなりましたね、ドン・ボンゴレ」
「だってさー、最近おじさん達ばかり見てて飽きてきたんだよ…獄寺くんも山本も長期任務についてもらっちゃってて話し相手も居ないし」
「君の暇つぶしの為に呼ばないでください。君の為に紅茶を淹れたがる若い部下なんてそこら中に居るじゃないですか」

そこら辺、と骸は一定の距離を置いて周囲に佇む綱吉の部下たちに視線をやる。
彼らは当然のごとくイタリア人で、大半が日本語を解さない。
そのため、綱吉は威厳云々を気にせず骸にくだらない事を堂々と言えるのだ。
とても優しい綱吉の先生にバレた場合を考えると少し恐ろしい、が。

「どうせ休憩するなら美味しい紅茶が飲みたいし、日本語で会話したいし、それに」
「それに?」
「それに骸の綺麗な顔が目の前にあった方が気分がいいし」
「…僕は君のペットじゃないですよ」

うっかりとこぼした自分の言葉に含まれた重大な意味に気付いていない綱吉は、目の前で頬を赤くし口元を押さえている骸を見て他人事のように「どうしたの?」と首を傾けた。

(2009.5.17)
ツンデレ骸と無自覚綱吉が好きです。拍手の没話しを再利用。