白い指


向かい合って座っている白皙の美青年の無遠慮な視線に綱吉は所在無さ気に身体を小さくし、視線を彷徨わせた。
そして彷徨わせた視線が、1点に釘付けとなった。
細く、白く、長い指。
綱吉のそれとは違う、骨張った大きな男の掌。
綱吉にはそれがとても美しいものに見えた。

(触ってみたい)

綱吉はごく自然にそう考えた自分に驚く。
そんな綱吉の視線に気付いた男が、憂いの表情を浮かべる。
愛しい、けれど悲しい。
見ている者の方が切なくなってしまうような、表情を。

「ダメですよ。この手は君のモノだけど、君のモノじゃありません」
「うん……知ってる」

耳障りの良いバリトンは綱吉の記憶よりも更にワントーン低く落ち着いた響きを持っている。
綱吉は記憶の男と随分会っていないという事に今更ながらに気付き、その瞬間チクンとした痛みを訴えてきた自分の心臓を無理やり無視した。

「君は…君の時代に戻って、10年前の僕を幸せにしてあげてください」
「…10年前のオマエに好かれてるとは全く思えないんだけど」
「大丈夫です。君の事が好きでしたよ、最初から」

僕が言った事は過去の僕には秘密にしておいてくださいね。
悪戯っ子の様にクスッと笑いながらそういう姿は、綱吉の知ってる青年像から激しくズレている。
その差異に綱吉は違和感を覚える。

「非常に残念ですが僕を幸せに出来るのは君、ではないんです」
「うん…そうだね」

困りましたね、とわざとらしく眉間に皺を寄せる男の表情は整った容姿のお陰で非常に様になっている。
しかし、綱吉の記憶の中の彼はそんな人間らしい表情を浮かべない。

「でも…今だけ、僕の君と君の僕の事を少しだけ忘れてもいいですか?」

綱吉の返事を待たず男は立ち上がると、座ったままの綱吉を強引に引き上げ広い胸に掻き抱いた。
突然の行動だが、十分に予想をしていた綱吉はローテーブルに乗り上げ膝をついた状態のまま大人しくそれを甘受する。

「僕は君が居ないと存在している意味がないんです」
「オレ…オマエのためにも10年後のオレを取り戻す、よ」

自分を抱きしめる腕が弱まったのを感じた綱吉はそのまま少し身体を離し、真正面から男の瞳を見つめる。

「だから、今、だけ」

そう呟くと綱吉は男の白い手を自分の両手で包み、コツンと自分のおでこを当てた。

(この人も、10年前のアイツも、両方がそれぞれの時代で幸せになれますように)

(2009.5.17)
25歳の骸には24歳の綱吉が、15歳の骸には14歳の綱吉が居ればいいなと思います。