ウエディング・マーチ


「あっ、このタキシード似合いそう!」

教室内で昼ごはんを食べた後、机を寄せたまま所謂「結婚情報誌」(綱吉がなんでこんなのを中学生が持っているんだと所有者に聞いたところ「ウエディングドレスを見てるだけでわくわくするのが中学生女子よ」と言い返された)を見ている花の手元を覗き込んでいた綱吉が感嘆の声を上げた。
ページにはシルバーを基調としたフロックコート(というらしいが綱吉にはタキシードとの違いが分からない)が写っている。

「沢田って彼氏居たっけ?」
「ツナくんの彼氏さんって背が高いんだね!」

花と京子が同時に違う感想を述べる。
綱吉は脳裏に親戚の部下という人物を思い浮かべて、頷く。

「背は高い、よ」
「で、沢田って彼氏いつ出来たの?」
「えっとねー、20歳になったら結婚してくれるって約束したんだー!」


---------遡ること、数日前。

「中学生なのに好きな人も彼氏も居ないなんておかしいって皆に言われるんだ」
『そうかぁー?』
「うん。スクアーロさんは彼女いるの?」
『俺もいないなぁ』
「そうなんだ?」
『オマエの親戚さんがこき使ってくれるから時間が、ない』
「…ごめんなさい」

綱吉のイタリアにいる親戚(と思うのも綱吉は嫌だかそういう事になっているようだから仕方がない)が来日した際に付き添っていた苦労性の部下と波長があった綱吉は、彼らが帰国した後も電話で連絡を取っていた。
件の親戚とは電話で話した事もないし、こうして彼の部下と直接連絡を取り合っている事は秘密にしている。
正直なところその親戚が綱吉は苦手、なのだ。

『別にオマエは何も悪かぁない』
「でも、なんだかごめんなさい」
『そういう素直な所とかあるから、絶対に彼氏の一人や二人すぐに出来ると思うんだけどなぁ』
「そんな事言ってくれるのスクアーロさんだけです」

スンッと鼻を鳴らした受話器の向こう側の綱吉を思い浮かべながら
(いや、実際綱吉の周りはあいつ狙いの男しかいないと思うんだけどなぁ)
とスクアーロは思っていた。
全員が全員平均点以上に美形な綱吉の周囲の男たちが一概に綱吉に好意を抱いているのは数日間一緒に過ごしただけのスクアーロにも分かった。
そして各々が牽制し合い、誰もが一歩を踏み出せずに居る状態でいるということも。
分かっていないのは鈍感な本人だけ、というヤツだ。

『じゃあ20歳になるまで出来なかったら貰ってやる』

スクアーロとしては「6年もあればあいつらのうちのどれか一人くらいは告白くらいするだろう」という思いを込めての励ましの言葉だったが、それを聞いた綱吉は違う解釈をした。

「え!?本当!?じゃ、オレ20歳になったら結婚出来るんだ!」
『いや、綱吉、それは違うぞぉ!』
「じゃあ今は彼氏なんていらないよね!」
『ちょっと、待てぇぇぇ!』

例に漏れず綱吉を虎視眈々と狙っている上司の憤怒を想像して、スクアーロは受話器を握り締めながら己の身を心配した。

---------そんなやりとりが、あった。


「だからオレ、20歳になったら結婚出来るんだー!」
「すごいね、ツナくん!」
「ちょっと待ちなさい、沢田。それ、絶対に違う」
「えー、なんで?」
「……それは私が聞きたいわよ」

花はそう呟くと周囲からの鋭い視線を感じぐるっと辺りを見渡す。
周囲には花の想像通り、綱吉を慕っている見目は非常に良いが中身が非常に残念な人物たちが少し距離を置いた位置から熱い視線を送っていた。
花は会った事もない遠くイタリアに存在するという人物に心の底から哀れみを意を送った。






「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!婚約破棄でもなんでもするから、誰か告白しやがれぇー!!」

彼が、数々の嫌がらせを色々な方向から受けるのはもう少し先のお話。

(2009.4.20)
スクアーロの口調が分かりません。骸と違った意味で可哀想なスクアーロが好きです。