1/365日


「骸……大丈夫?」

骸たちが寝床としている黒曜ヘルシーランドに足を踏み入れた綱吉は、恐る恐る骸が使用していると千種に教えてもらった部屋を覗き込んだ。
薄暗い部屋の奥にベッドらしきものがあり、その上に黒い影が横たわっているのが見える。
綱吉の言葉に黒い塊が微かに反応を見せたのを確認した綱吉は再度声をかけた。

「骸……?」

返答はなく、二人の間に沈黙が下りる。
(クロームにお願いされてきたのはいいけど…反応さえしてくれない場合はどうすればいいんだろう…?)
途方に暮れかけた綱吉の耳に微かに声が届いた。

「…今日は、帰ってください」
「え?」
「今の僕は、自分で自分がコントロール出来ません」

綱吉の方を向くことなく、骸が壁に向かって独り言めいた言葉を吐き出す。

「君に何を言ってしまうか分かりませんから、傷つける前に帰ってください」
「…いいよ。オレは何言われても、いいよ」
「僕が嫌です」
「……いいんだよ」
「嫌、です」

この、頑固者!
と綱吉は骸を罵りそうになるが当初の目的を思い出しぐっと我慢した。
そして、どうにかして骸を振り向かせようと一生懸命試行錯誤する。
そして直球でぶつかっていこうと腹を括った。

「ごめん、クロームに聞いた、よ」
「…なるほど。それで僕を哀れんで、同情しにきてくれたんですね」
「違う」
「何が違うというのですか?所詮、僕の気持ちは君には分かりっこない」
「…そりゃ、オレは骸じゃないから骸の気持ちなんて分かるわけない、よ」
「……」
「分からなくて当然だろ?だって違う人間なんだから」

骸からイライラしているオーラが出ているのが分かったが、綱吉は敵前逃亡しないよう両足を開いてその場に踏みとどまる。

「そうですよ。所詮、僕と君とは違う人間。住む世界も、生い立ちも、過去も、全てが違い過ぎて交わる事なんてない」
「でも、こうしてちゃんと出会えた」
「命を狙うものと狙われるものとして、ね」
「きっかけはそうでも、今は違う…だろ?」
「さあ。僕には君の気持ちは分かりません。…喋り過ぎました。帰ってください」

完全に骸の意識が綱吉から反れた。
(あぁ、もう面倒臭いな。帰っちゃおうかな!)
そう思う反面、今日この場を乗り切れないと一生このままだと直感が告げているので引くわけにいかない自分がいた。

「なぁ、骸。オレはお前がオレを…その…好きって言ってくれるの、嬉しいよ」
「…」
「なんだかんだでオレの事助けてくれるの、嬉しいよ」
「……」
「きちんと言った事ないけど、オレもお前の事…好き、だから」

綱吉の言葉に骸らしき塊が如実に体を強張らせたのが綱吉の位置からでも確認出来た。
自分の言っている事、言おうとしている事が恥ずかし過ぎる綱吉は俯いて自分の靴をジッと凝視する。

「だから、今日くらいはオレのこと頼って」

綱吉は言葉を最後まで言う事が出来なかった。
物凄いスピードで駆け寄ってきた骸に抱きしめられた綱吉は、一瞬何が起こったか分からずに自分の靴の先にある白い裸足の足を見つめた。

「綱吉くん」
「何、骸?」
「綱吉くん」
「うん、何?」
「綱吉くん」

自分よりもひと回りは大きい骸にスッポリと覆われた綱吉は、肩に顔を埋めながら子供のように自分の名前を繰り返す骸の背中をポンポンと軽く叩いてやる。
家に居候する子供たちにしてやるのと同じ行為だ。

「綱吉くん、僕はどうして存在しているんですか?」
「生きてるから、だよ」
「綱吉くん、僕はどうして生き残っているんですか?」
「うーん、オレと会う為、とかにしておく?」
「綱吉くん、僕は誰なんですか?」
「お前は骸、六道骸だよ」
「綱吉くん、どうして僕の右目は人と違うんですか?」

(あ、きた)
綱吉の脳裏にクロームや千種、犬から聞いた言葉が蘇る。
『今日は、骸さまが忌まわしい右目を手に入れた日だ』
『毎年この日は、エストラーネオに居た日の事を思い出すみたいだびょん』
『自分以前に死んでいった名前も知らない同胞たちの事を考えてるみたい』
綱吉の中でぐるぐるとまとまらない言葉が回り続ける。

「綱吉、くん?」
「…骸の右目は、みんなの思いがこもってるから、人と違うんだよ」
「?」
「だから、死んだ人たちの分も、お前は生きなきゃダメだと思う」
「そんなのは」
「おかしいかもしれないけど。でも…その右目があったから、オレはお前と出会えた」
「それは」
「結果論かもしれないけど、だけど出会えた。みんなっていうのには、オレやクロームや千種さん、犬さんも含まれてるよ」
「でも」
「だから、お前はみんなのために生きなきゃダメなんだ」

綱吉が骸を言葉で押さえ込もうとするのは初めてで、考える余地を与えれば負けるのは目に見えている。
だから綱吉は背中を優しく撫でる腕はそのままに捲くし立てるように支離滅裂に思いつくまま言い続けた。

「お前は六道骸で、オレの守護者。右目は人と違うかもしれないけど、それがあるからお前は六道骸なんだ。お前のされた事は酷いけど、お前のした事も酷い。だから…どっちの行為も赦されるものではないかもしれないけど、お相子だ」
「綱吉くん…?」
「その目を持った事は後悔することも、悔やむことも、恥じることも…ないよ」
「綱吉くん…」

子供のように無防備で泣きそうな表情を浮かべた骸に綱吉はニッコリ微笑みかける。

「好きだよ、骸」


だから一緒に生きよう

(2009.4.19)
ら、ラブラブ…?ほのぼのではなく薄暗い感じになってしまってすみませんでした。私の出来る範囲で甘やかしてみた残念な結果です。