ISOLATION -終幕-


「君は力不足だからいらないってことだよ」

自室に入ろうとした耳に届いた声に綱吉は扉を開けようとした手を止めた。
気配は2つ。
漂うものは、殺気。

「聞こえなかったんなら何度でも言ってあげるよ。綱吉が君に作戦の事を言わなかったのは、君が役に立たないからだよ」
「雲雀恭弥……っ」
「自分が一番よく分かってるんでしょ?」

(うわーっ、入りたくないなぁー…)
入らなくても分かる険悪な雰囲気に思わずそっと踵を返しかけた綱吉の背後で扉が開いた。

「で、君はどこに行くの?」
「あ、ちょっと、忘れ物したかなーなんて…雲雀さんお願いですからトンファー仕舞ってください!」
「君が大人しく部屋の中に入るならね」

こんなのと二人っきりなんて嫌だよ。
と愚痴る雲雀に対し、いつも饒舌な骸は一言も言葉を発しない。
それどころか骸は綱吉と目をあわせようともしない。

「ちょっと、雲雀さん!骸に何言ったんですか!?」
「聞こえてたんでしょ?綱吉にとっていらない人だっていうのを彼に教えてあげてただけだよ」
「うわぁー…」

(最悪ですね、それ。)
口に出すと余計に怖いことが起こりそうだったので綱吉は心の中で雲雀に話かける。
それにあわせるかのように骸から漂ってくる殺気が一気に倍増する。
そっと溜息をついた綱吉は骸は放置し、まずは雲雀の用件から聞くことにした。

「それで、雲雀さんのご用件は何ですか?」
「あぁ。僕は君との約束をきちんと守ったんだから約束の御礼を貰いに」
「え?今、ココで、ですか?」
「うん。そう」
「というか、アレ本気だったんですか!?」
「…何の話ですか、綱吉くん」

過剰な反応を切り返す綱吉が気になったのか骸が口を挟んだ。
しかし、それをも雲雀は一刀両断する。

「君には関係ないよ」
「……っ」

言い返すことも出来ず悔しそうに骸が唇を噛んで俯く。

「…で、綱吉は守る気もないのに約束したんだ?」
「いえ、守る気がないとかじゃなくて、雲雀さんは正気なのかなー?と…ってお願いですから匣は出さないでください!」
「僕はいつでも正気だよ」
「ですよねー…あの、後で、お部屋に行きますので」
「これの前だと問題でもあるの?」
「問題……というか、ただ単に恥ずかしいといいますか」
「ぐちゃぐちゃ言い訳する子は嫌いだよ」
「は、はい。」

(24歳捕まえて「子」は無いと思います、雲雀さん!)
そんな突っ込みを心の中で入れつつ綱吉は骸の方をそっと向いた。
相変わらず骸は綱吉と目を合わせようとはしないが、しっかりとこちらの様子を伺っている。

「……骸、オマエちょっとここから出てかない?」
「嫌です」

散々存在を無視されていたところに「出てけ」と言われた骸はあからさまに拗ねた表情になるが、綱吉はそれを溜息一つで無視する。

「…じゃ、絶対見るな、よ」

オレは忠告したんだから何見ても文句言うなよ!
そう言いながら綱吉は一歩雲雀の近くへと踏み出す。
そして。

「…失礼します」

意を決してお辞儀をひとつすると、雲雀のスーツの胸元をキュッと掴み背伸びをして。
頬に軽く唇を寄せた。
(うわーっ!恥ずかしい。っていうかコレで雲雀さんは何が嬉しいんだろう…?)

「…以上、です」
「まぁ、合格にしてあげるよ」
「あ、ありがとうございます…?」

少し離れた場所で骸が目を見開き口をパクパクさせているのを二人は完全に無視して会話を続ける。

「口座は哲から連絡させるから」
「分かりました…」
「じゃあね」

報酬とは別の「御礼」を大嫌いな霧の守護者の前で回収出来た雲雀は珍しく上機嫌な様子で部屋から出て行こうとしたが、ふと思いついたかのように未だに呆然という面持ちの骸に声をかけた。

「綱吉の唇、柔らかいよ」

(なんて余計な事を!つーか恥ずかしい事を!)
綱吉が真っ赤になった瞬間、恐ろしいまでの殺気が骸から湧き上がる。

「じゃあね、負け犬」

今度こそ雲雀は部屋から出て行く。
その背後に三叉槍を出現させた骸が飛び掛ろうとするのを綱吉は必死に押さえつける。

「なんかよく分からないけど、ちょっと落ち着こうか!」
「あの鳥だけはやはり許せません…!」
「落ち着こうね!」
「あの鳥だけは……!」
「落ち着けっ!」

綱吉が一喝すると骸は何か硬いものを飲み下した表情で綱吉を見返し、手にしていた武器を消し去った。

「…綱吉くんは、あの鳥が好きなんですか?」
「…あのさ、どうしてそんな話になるの?」
「だって頬に…!」
「あー…あんなの男から貰って嬉しいのかねぇ」
「僕は綱吉くんからもらえるのであれば嬉しいです!」

綱吉の白い目も気にせず骸は言い募る。

「僕も…君の作戦は知りませんでしたが、頑張りました!」
「そうですね」
「頑張りましたよ!」

(こいつやっぱり面倒臭いな)
そう思いながらも、以前と変わらない骸の態度を喜ぶ自分が居る事に綱吉は気づく。
あからさまなまでに寄せてくれる、綱吉に対する好意。
それに対して死の瞬間に自分が思い浮かべた人、は。

「あのさ、骸」
「なんですか?」
「オレが…死ぬ瞬間、誰のこと考えてたと思う?」
「君の事ですから、ご家族の事かファミリーの事かご友人の事か…初恋の女性の事、辺りでしょう」
「オマエのことだよ」

あっさりと言い放たれた綱吉の言葉に、骸が目を見開く。
考えたこともありません、とその表情にははっきりと書かれている。

「自分でも意外だったんだけど、死ぬなと思った瞬間オマエの事しか浮かばなかったんだよ」
「そ、れは…?」
「正直それがオマエと同じ方向性の物なのかは未だにわからないけど、オマエのこと要らないとは思っていないから」

だから。
綱吉は未だ呆然としている骸のネクタイを掴むと引っ張り、近づいてきた頬に少し背伸びをして唇を寄せた。

「こんなものであの日ちゃんと話を聞いてやらなかった事が帳消しになるなら、いくらでもしてやるよ」
「綱吉、くん」

目の前の骸がカッと頬を真っ赤に染めて手で押さえるのを見て、綱吉は一気に自分の行為の恥ずかしさに気付き後悔する。

「嘘ついた!いくらでもはない!1回だけ!」
「綱吉くん!」
「は、はい」

若干赤みが残ったままキリッと端整な顔を引き締め直した骸が綱吉の肩に両手をかける。

「抱きしめてもいいですか?」
「…出来れば嫌です」
「抱きしめさせていただきます」
「……」

縮まらなかった身長差分膝を曲げた骸が長い腕の中に綱吉を抱え込む。
綱吉の鼻腔にフワッと骸の香りが入ってくる。

「戻ってきてくれて本当に良かったです……っ」
「…」
「君の作戦に混ぜて貰えなかった自分が心底嫌になりましたし、君の作戦を知っていながら見す見す白蘭の元に行かせた雲雀恭弥は何度殺しても許せません」
「…」
「君が居ないと僕は生きている理由がないんです…もう、絶対に僕を置いて死なないでください」
「…出来るだけ、約束するよ」

骸の肩が震えているのを見つめながら、綱吉は背中をそっと優しく撫でてやる。

「今度…何かする時は、絶対オマエにも話す」
「絶対ですよ。鳥になんて言う必要はありません」
「雲雀さんの事はおいておくとして…オマエには言うよ」

だって勝手に敵地ど真ん中に突っ込まれても困るしな。
綱吉が溜息を付きながらそういうと、骸は困ったように哂った。

「あれは…少々失敗しましたね」
「本当だよ…正一くんが困ったって言ってたよ」
「でも、君が悪いんです」
「うん。だからちゃんと言うよ」
「絶対ですよ」

子供のように少し拗ねた口調でそうこぼす骸が、少しだけ可愛く思えた綱吉は頭を撫でてやる。

「お帰りなさい」
「ただいま」

(2009.4.30)
お付き合いいただきましてありがとうございます。なんだか過去作品寄せ集め見たいなラストになってしまいました…