ISOLATION


ソファに腰掛けた綱吉は、雲雀が日本から持ち帰った資料の山を前に目を瞑って頭をフル回転させていた。
ボンゴレにとって何が一番最良か。
自分は何をなすべきか。
珍しく集中していたため、反応がワンテンポずれた。

「…しくん、綱吉くん?」
「えぇ!?なんで骸がいるの!?」

開いた綱吉の瞳が、間近で覗き込んでいる赤と青の綺麗な瞳とぶつかる。
無駄に、近い。

「近っ!」
「やっと気付きましたか…どうしたんですか?」
「いや、それはオレの台詞っていうか…骸、仕事は?」
「予想外に長引きそうだったので一旦千種たちに預けて中間報告に伺ったんですが…」

カチャというドアの開閉音が部屋の奥から聴こえた瞬間、綱吉の脳裏に一人ではなかったという事実が浮かんだが、すでに遅すぎた。

「…僕が居ないのを良いことに浮気、ですか?」
「いや、それ以前にオレたち付き合ってないよねー!?」

骸の言葉にしっかり突っ込みを入れることは忘れずに、奥の扉の方へとそっと目を向ける。
居るはずの人物が居ないといいなー、という希望的観測をこめた綱吉の視線は即効で打ち砕かれた。
黒のスラックスに白いシャツを羽織っただけという常の彼らしからぬラフな格好の雲雀恭弥が冷めた表情で扉に寄りかかり佇んでいた。
しなやかな筋肉をつけた細い体を羽織ったシャツで隠すこともなく晒し、首からかけたタオルには漆黒の髪から滴る水滴が吸い込まれていく。
言い訳をする必要もないが、間違いなくシャワーを浴びていたということは誰の目にも明らかだろう。

「何してるの、南国果実」
「それはこちらの台詞です。君こそ綱吉くんの部屋で何しているんですか?」
「頭だけじゃなくて目まで悪くなったの?シャワー浴びてたんだよ」
「君は人の部屋でシャワーを浴びるんですか?」
「まぁ時と場合によるけどね」

(あ、あの雲雀さんっ。それ以上骸を挑発しないでください!)
とは思うが口に出せないのが綱吉の綱吉たる所以である。
二人の間に漂う空気はまさに一触即発、である。
戦闘力で群を抜く雲と霧の守護者がボンゴレ本部で死闘を繰り広げる、というのは避けたい。

「君、邪魔だから早く出ていってくれない?」
「僕は綱吉くんに報告があってきたのですから、君こそシャワー浴び終わったのならとっとと巣に帰ったらいかがですか?」
「僕は綱吉に呼ばれてきているから、勝手に押しかけた君が帰るべきだと思うよ。…ねぇ、綱吉?」

突如自分に会話の矛先が向いた綱吉は慌てて状況判断を行う。
この場合何が最良か。
存外自分に対してだけは甘い骸に、今日はお引取りしていただいた方が被害は少ないと過去の経験上判断した綱吉は骸への説得を決意した。

「ごめん!これからちょっと雲雀さんと話さないといけないことがあるから、オマエの報告聞くの明日にしていい?」
「……」
「今日はもうあっち戻らないんだろう?」
「………」
「明日!明日だったらいくらでも話し聞くから、な」
「……雲雀恭弥との話し合いに僕も同席します」

ちょっとこの人何言っちゃってるのー!?
と思ったが寸でのところで口から出すのを堪える。
しかし、綱吉の変わりに雲雀が口を開いた。

「なんで君が一緒に聞く必要があるの?僕と綱吉の話しであって、君は関係ない」
「綱吉くんを君と二人きりになんてさせられません」
「もう一度言うよ。君は関係、ない」
「くっ…」

またも二人の間に濃密な殺気が漂う。
それを見ていた綱吉は当事者なのに今すぐこの部屋から出て行きたい衝動に駆られたがなんとかそれを押さえ込んだ。

「ごめんな、骸。オレが雲雀さんに無理言ってお願いしていた事だから、今日は雲雀さんを優先する、よ」

その瞬間、一瞬だけ骸が捨てられた子供のような表情を浮かべた。
しかしそのすぐ後にはいつもの読めない表情に戻る。
(あ…心を閉ざされた、かも)

「分かりました。では今日は一旦失礼したいと思います。…また、明日」
「あ、ありがとう。明日、な!」
「えぇ」

雲雀の方を一瞥する事もなく骸が扉から大人しく出ていく後姿を見送りかけた綱吉は、あっと呟き廊下に飛び出し骸を捕まえた。

「何、ですか?」
「ごめん!順番間違えた!」
「…?」
「まだ終わってないみたいだけど…とりあえず、おかえり。色々とお願いしちゃってるから大変だと思うけど、いつもありがとう」
「……君のためじゃありませんよ」
「うん、それでも。もうちょっと、よろしくな」
「…はい」
「じゃ、明日」

それだけ言うと綱吉は踵を返して雲雀の待つ室内へと戻ろうとした。

「綱吉くん」

ん?何?
振り向こうとした綱吉は背後から骸に強い力で抱きしめられる。

「無茶は……しないでください、ね」
「それはこっちの台詞だよ」
「そう、ですね」

沈黙が降りる。
抱きしめたままの骸が綱吉の相変わらず言う事を聞かずにあちこちに跳ねる茶色の髪に顔を埋めてゆっくり呼吸をする。
時間にすると数秒だったが綱吉にはかなり長い時間に感じられた。

「それでは…」

そっと緩められた腕に少し寂しさを感じた綱吉は、そんな自分に驚く。
そしてハッと綱吉が振り向いた時には骸の姿は長い廊下のどこにも見当たらなかった。

(あいつ、明日居ないんだろうな…)

翌日、綱吉の予想通りボンゴレ本部の屋敷内のどこにも霧の守護者の姿はなかった。

(2009.03.25)
三つ巴のはずが雲雀さんがエアーな件について。たぶん骸さんは綱吉が危ない事をしようとしているのに気づいて、ます。