春が、くる


なんで、オレ泣いてるんだろう?

ガードレールに腰をかけて、ボロボロと涙をこぼす大学生らしき男、なんて怪しすぎて笑えない現状に至った経緯を上手く動かない頭で思い返す。

骸に用事があって家に行ったら、可愛い女の人が骸の服着て出てきて。
「骸さん」
って鈴の様な声で骸の事呼んで。
「凪どうしました?」
とその子に訊ねる声がいつもよりトーンが低くて。
シャワー浴びてたらしい骸が廊下を覗きこんだ顔が、俺の見た事の無い表情で。
思わず下げた視線の先にアイボリーの綺麗なハイヒールがお行儀良く並んでるのが見えて。
何か一生懸命言い訳して、逃げるように骸のマンションから飛び出て。
気が付いたらこんな所で一歩も動けなくなって座り込んでいた。
…なんで、だ?

「綱吉くん…!一体どうしたんですか!?」

声がしたな、と思って視線を上げたら。
いつの間に追いついたのか濡れたままの髪の毛でそこら辺にあった服掻き集めて着てきました、って感じの骸が目の前にいた。
…目の前に居るのは俺の知ってる、いつもの骸。

「つ、綱吉くん!?何かあったんですか!?」

俺の泣き顔を見て物凄い驚いた顔をした骸が慌てて両手をポケットに突っ込んで何かを探してる。
けれどお目当てのモノは見つからなかったらしくて整った顔を困ったように歪ませた骸は自分のパーカーの裾を引っ張って涙を拭ってくれた。
…骸は何時も、優しすぎる。
だから勘違いするんだ。
……勘違いって、なんだ?
あ、お腹見えてる、と思ったら緊張の糸が切れて言葉が自然に零れた。

「オレ…骸が好きなんだ…」

あっ、なんだそうだったんだ。
って自分の口から零れた言葉に自分で驚いた。
だから女の人が居てショックだったんだ。
知らない男の顔した骸を見るのが、辛かったんだ。
なんだ。
そんな簡単な事だったんだ。

「好きになって欲しいなんていわないから…だから好きでいても、いい?」

突然のオレの言葉に目を見開いていた骸が、綺麗な色違いの瞳の目尻を優しくカーブさせていつもの柔和な笑顔に変えた。
え、なんで?

「僕もです!!僕も綱吉くんの事が好きなんですっ!!」

俺の大好きな人好きする笑顔で急にそういったから、驚いて頭の中が真っ白になった。
え?

「なんて…?」
「ですから。僕も綱吉くんの事が凄い好きなんです。何勘違いしているのか分かりませんが……さっきのあの子でしたら、妹ですよ」
「えっ??」
「母親と喧嘩したとか言って愚痴を言いにきたから今日は泊めてあげようと思っていたのですが。おかげで綱吉くんとこうなれたのだとすれば感謝しないといけませんね」

骸は一気にそう捲くし立てると、座り込んだままのオレの頭をおずおずと手を伸ばし抱き寄せた。
石鹸と骸の香りが混ざった匂いがするから現実なんだな、と物凄い他人事の様にどこか遠くで感じるオレがいる。
骸の心拍数が妙に多い事に気づくと同時に、同じだけ自分の鼓動も早い事に気がついた。
オレ、ドキドキしてるんだ。

「綱吉くん…キスしても、いいですか?」
「…ど、どうぞ」

骸の端整な顔が近づいてきたから思わず目を瞑る。
頬に濡れた髪の毛が当るのが妙に恥ずかしい。
キスなんて初めてじゃないけど、物凄いドキドキする。
あぁ、俺ってそんなに骸の事好きだったんだなと思ったらそんな自分が妙に可愛く思えて骸に気付かれないように少しだけ、笑った。

(2009.3.23)
大学生シリーズ。シリーズ?いつものことですが思いの外ダメな感じになりました…