空が堕ちた日


「オレが死んだら、どうしますか?」

執務室の大きな椅子に、オトナになっても期待していたほどに大きくはならなかった、むしろコンパクトと言い切ってしまって問題ないサイズの身体を収めて座っていた綱吉は、仕事の報告にやってきた骸にそう質問した。

「それはまた、滑稽な質問ですね」

涼やかな視線を高い位置から落としながら骸は淡々と言う。
ただでさえ身長差のせいで見下されるというのに、座っているせいで更に二人の差が開いてしまっている。
それを少し不快に思いながら、綱吉は更に言葉を繋いだ。

「勿論仮に、ですよ。もし仮にオレが死んだら、骸さんはどうしますか?」
「…分かりました。言葉遊びの一種として受け取ってあげましょう。
もしも君が死んだら」
「オレが死んだ、ら?」
「君が、僕を置いて先に逝くようなことがあったら」

そこで骸は一旦言葉を切って、冷笑とも言える表情の中に長く付き合った物だけが気づく事の出来る程度の真剣さを含ませる。

「世界を全て壊して、僕も死にます」

あぁ、やっぱり。
綱吉は心の中でため息をついた。
あまりにも予想通りの回答過ぎて、目の前に立つ男の思考が簡単に分かってしまうくらいに一緒に生きてきていた事を思い知った。
そして、この10年で処世術として身につけた出来る限りの笑みを浮かべて目の前に立つ男を見上げる。

「じゃあ絶対に先に死ねませんね、オレ」
「そうですね。このくだらない、君の大好きな世界を僕に壊されたくないのなら精々死なないように気をつけてくださいね」

綱吉の視線を受け止めた骸は、哂った。
昔なら怖くて仕方なかっただろうその表情すら、今の綱吉には愛しく感じられた。

「オレは死なないように気をつけますから、骸さんも一つ約束してください。
………何があっても生きて、ください」


















「……そういったのは、誰でしたっけ?」

森、と言っても差障りないであろう分量の木々に囲まれた空間の中に設置された、自然の中にあっては異様に不釣合いで不自然な箱の前に跪いた骸は問いかける。
勿論答えは返ってこない。

「僕より先に死ねないんじゃなかったのではないんですか、綱吉くん?」

愛しげに名前を囁いた骸は手にした白い花束を箱の上にそっと手向けた。

「君が先に約束を違えたのですから、仕方ないですよね。
やるべきことを全て片付けたら、すぐにそちらに行きますから待っていてくださいね」

そして、綱吉の眠る棺にそっと口付けた骸は、深い森の中に溶けるように消えていった。

(2009.02.03)
今更の10年後死にネタでした。