2.平気でそんなことを云う


「うわっ、ありがとう!山本大好き!」

綱吉はそう感嘆の声を上げると抱きつかんばかりの勢いで山本に駆け寄った。
それを一歩後ろから見守っていた骸はチッと舌打ちをする。
その腕を掴んで自分に引き寄せそうになるのを済んでの所でグッと我慢した。

「……綱吉くん」

全ての感情を押し殺した骸の声に、その存在を一瞬忘れていた綱吉は如実に肩を震わせた。
それが面白くない骸は再度舌打ちをする。今度のそれは相手に聞こえることを前提としているため遠慮がなかった。

「つ、な、よ、し、くん」

一音一音区切って、わざとらしく名前を呼ぶ。
ギギギッとさび付いたロボットのように綱吉の顔が背後をゆっくりと振り返る。
そして恐る恐る骸に視線を合わせ、サッと逸らす。

「綱吉くん」
「……なんでしょうか、骸、さん」

叱られた飼い犬のように怯えきった様子で視線を合わせることなく綱吉は言う。
いつでも自分の背後に居る山本の元へ逃げ込めるように片足を引いて斜に構えている体勢が骸の加虐心を、煽る。

「君の好きな人は、誰なんですか?」
「あ、え、あー……」
「君は山本武が好きなんですか?」
「あ、えっと…山本はそりゃ好きだけど……」
「だけど?」

ビクッと肩を震わせた綱吉は助けを求めるように山本へと視線を走らせる。
山本は一つ頷くと綱吉を庇うように骸との間に体をスルッと入り込ませた。

「骸、ツナも困ってるし……オレが悪かったから、な」
「これは僕と綱吉くんの問題ですので、申し訳ないんですが部外者の君は口を出さないでいただけますか?」
「骸!お前、言い過ぎ!」

怯えていた姿を一転させ子供を叱るような表情になった綱吉は骸にそう言うと、山本に「ごめんな。オレのせいで…」とひたすら謝る。
その姿が更に骸をイライラさせる。

「綱吉くん!」
「……なに?」
「行きますよ!」

骸は片手で山本を除けると綱吉の片手を掴んで引き寄せ、そのままその場から連れて行く。
「え、ちょっ、待って」と言いつつ綱吉は必死で後ろを向くと「山本、本当にごめん!また、明日!」と山本に呼びかける。
「おぅ。また明日な、ツナ」という爽やかな山本の声が骸の背後から耳に入った。表情は見えないが恐らくいつもの爽やかな人好きする笑顔を浮かべ、元気よく綱吉に向かって手を振っているのだろうと思うと、その想像が更に骸を苛つかせる。

「オマエ、本当になんなんだよ」
「綱吉くん、君が付き合ってるのは誰ですか?」
「そりゃ…………オマエだけどさ………」
「なのに山本武には言えるのに、僕には言ってくれないんですか?」

好きって君の口から聞いた事ありませんよ。
骸の言葉は独白のように空中に漂った。

(僕以外には簡単に言う単語が何故僕にだけ向けられないんだ!)

(2010/03/10)
本当に好きな人には好きと言えない、とか。