「好きです」
「あー、ありがとう。オレも骸の事好きだよ」
綱吉は視線を手元の書類に固定したまま、おざなりに骸の言葉に返事を返した。
明らかに流されている返答に骸は柳眉を顰める。
「聞いてますか?」
「うんうん、聞いてるよー。……あ、これ急いで回さないと」
「……聞いてますか?」
「うん……あ、獄寺くん?昨日の件なんだけどさ…」
昔は骸の言動の一つ一つに怯え、目に見えて反応を返してきた綱吉はこの10年間で神経の図太い立派なマフィアのボスへと成長した。
それが骸にとって非常に面白くなかった。
「綱吉くん」
「あ、骸まだ居たんだ?」
「なっ!」
「ちょっと今日忙しいから、また明日でいい?」
今日中にこれ片付けないとオレがリボーンに片付けられちゃうんだよ!!
悲壮な声でそう呟きながらも綱吉の視線は手にした書類の文字を必死で追い続けている。
骸は忌々しげに舌打ちを一つ、した。
「分かりました。その山積みの書類を半分よこしなさい。優先順位をつけて分類して差し上げます。ついでに難しい内容に関しては要約をつけましょう」
「え!本当!?すっごく助かるんだけど!」
骸の言葉にようやく綱吉が顔をあげ、視線を合わせた。
そのことに骸は気付かれないようホッと息を吐く。
(やっと僕を、見た)
「もちろん報酬はいただきますよ」
「あー…オレの微々たるお小遣いで払えるレベル内で収めていただけると非常に助かります」
「大丈夫です。次回の君のオフを、丸一日僕のために使いなさい」
「骸、休み欲しいの?」
それだったら調整するよ。
と的外れの言葉が綱吉から返ってくるのを骸はあきれたように首を振って否定する。
「そうではありません。君の次の休日は、僕と一緒に過ごしなさい」
「え?そんなんでいいの?じゃ、こっちよろしくね!」
ニコニコと笑いながら書面の山を骸に押しやる綱吉を見て、骸はフーッと今度こそ隠さずため息をついた。
(この子はいつからこんなに鈍い子になったんだ!)
(2010/01/31)
10年後綱吉は酷い男になっていると良いと思います。